富は資本家にどんどん集まり、庶民はより貧しくなる。トマ・ピケティが『21世紀の資本』で明らかにしたのは、行き過ぎた格差社会の現実だった。
だが、私たちは富裕層の実像をよく知らない。彼らは果たして批判されるだけの存在なのか。
有名じゃないけど大金持ち
かつては「ペッパーランチ」で日本中を席巻し、最近では「いきなり!ステーキ」が絶好調のペッパーフードサービス社長の一瀬邦夫氏は、世間から成功者と見られてもおかしくない実業家だが、あくまでも謙虚だ。
「私は成功者じゃありませんよ。成功という言葉は好きだけど、自分自身には当てはまらない。まだまだだと思います。
そんな私も、若い頃は勘違いをしていたこともありました。27歳でコックとして独立し、9年で大きなビルを建てた。周囲からおだてられ、私自身もこれで将来は何とかなったと思いました。日銭が入ってきて、月100万円くらいは自由になったので、ゴルフや『男の遊び』もしました。
ところが、そんな中でも、従業員の離職が多かったんです。たとえ社長が幸せでも、従業員が幸せじゃなければ、当たり前の話ですが、彼らは辞めていく。私はそのことに気づいたんです」
一瀬氏は考えを改め、多店舗の経営に切り替えた。3店、4店と増やし、従業員の裁量を大きくした。すると——、
「従業員を大事にしすぎたんですね。彼らに辞められると店が回らなくなるから、物を言えなくなった。経営者が不在になって、会社は倒産寸前までいきました。
そこからまた考えて、従業員の幸せを大事にしつつも、リーダーシップを発揮するようになりました。50歳くらいの時の話です。
人間にとって、自分が幸せになることは大事。従業員もそうです。自分の幸せが何に由来するものなのか。他人に幸せを与えることに由来するというのが、原理原則です。相手の幸せを考えること。これが自分の幸せの元になるのです」
そんな一瀬氏の生活は、いたって質素だ。
「株式を上場すると、どのくらいのおカネが入ってくるか知っていますか? ゼロを数えきれないほどの金額が入ってくるんですよ。でも、僕はフェラーリもベンツも買わなかった。腕時計は買いましたがね。それも80万円程度。今も修理して使っています。
たしかに自社の株は持っていますが、これは自分のものであっても、会社のもの。株があるから、社長をやっていられるんだし、信頼も得ている。換金はできませんよ」
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