フィリピン新政権 「強権」一辺倒では困る
格差拡大や治安悪化への不満が、既存政治の枠からはみ出す候補者を押し上げた。
フィリピン大統領選でロドリゴ・ドゥテルテ氏が当選した。
過激な発言を繰り返すことで知られる。外国人の性犯罪被害者をからかうような発言をして外交問題を引き起こし、「大統領に就任したら腐敗した官僚や警察は皆殺しにする」と言い放つ。
それでも、マニラの中央政界を支配するエリートたちに不信感を強める有権者から喝采を浴びた。
近年のフィリピンは高い経済成長を続けているが、新自由主義的な経済政策の下で格差は拡大している。インフラ整備が遅れていることへの不満も強い。違法薬物や汚職といった社会問題も深刻だ。
大統領選前に行われた世論調査では、富裕・中間層と貧困層の両方で犯罪対策を重視する人が多かった。「3〜6カ月で犯罪や違法薬物、汚職を一掃する」というドゥテルテ氏への支持は、所得階層にかかわらず広がったという。
ドゥテルテ氏は南部ミンダナオ島にあるフィリピン第3の都市、ダバオの市長を20年以上務めた。元検事で、凶悪事件が絶えなかった治安状況を改善した手腕が公約に信ぴょう性を持たせている。
だが、犯罪対策の手法には疑問がつきまとう。超法規的に犯罪者を処刑する組織を作り、多くの犯罪者を殺させたという疑惑を持たれているのだ。国際人権団体は数百人以上が殺害されたと批判している。大統領になれば説明を求められる場面も出てくるだろう。
新政権の課題は犯罪対策だけではない。
南シナ海で領有権紛争を抱え、アキノ現政権下で悪化した対中関係では難しいかじ取りを求められる。
選挙戦中は融和路線を語ったり、過激な強硬論を主張したりと発言が揺れていた。南シナ海の問題ではやはり日米両国との協調を基本としてほしい。
新大統領は中央政界での経験が乏しい。安定した政権運営のためには議会との信頼関係構築も急務だろう。
気がかりなのは「社会問題が解決されるなら強権政治でも構わない」という有権者の声が少なくなかったことだ。
米大統領選でも、イスラム教徒の入国禁止など破天荒な発言を繰り返すドナルド・トランプ氏が旋風を巻き起こしている。
社会に行き詰まりを感じる人々の間に過激なリーダーを望む心理が広がっているようだ。遠い外国の話と考えず、社会のあり方を見つめ直す契機としたい。