高齢者の介護を「家族のみが負担するのではなく、社会全体で支えていこう」という趣旨で2000年4月に導入された介護保険福祉制度。それまで社会福祉法人や医療法人によって運営されてきた介護施設は、「2025年問題」(団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となり、日本が未曾有の超高齢化社会を迎える)に向けて民間にも開放された。
しかし、その結果、介護現場で何が起きたか? カネ儲けを追求する企業が参入し、質の劣化、介護職労働のブラック化が蔓延したのである。実体験を綴った渾身のレポート。
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文/中村淳彦
「未経験でも、介護のことを何もわからなくても、うちの研修を受ければ介護施設は運営できます。誰でもできる仕事ですから、不安になることはないですよ」
2008年6月、そう薦められた私は、介護フランチャイズの大手である日本介護福祉グループの前身、(株)フジタエージェントが主催していた「介護施設の管理者研修」に参加した。
出版不況の煽りを受け執筆業が完全に行き詰まり、別の仕事をしようと介護保険ブームで盛り上がる介護事業の立ち上げを決心したのだ。その時の私には、介護保険や施設運営の知識はほとんどなく、かつ当時は「ブラック企業」という言葉や概念もない時期だった。
研修は、同会社が運営する「茶話本舗デイサービス江戸亭」の新人介護職として1週間、職員たちと一緒に働き、施設運営のノウハウを学ぶという内容だった。介護と通所介護の違いすらわからないズブの素人だったが「受ければ誰でも運営できる」という言葉を信じ、研修に申し込んだ。
夜間働いた分の給料はゼロ
研修初日。出社すると、職員が共有するシフト表に私の名前も載っていた。
新人介護職として利用者の送迎、見守り、食事介助、入浴介助、レクリエーションなどを親切に教えてもらった。優秀な介護職たちが一生懸命に働き、施設内の空気は平穏そのものだったが、ただひとつ、正規職員のシフトに組まれた異常な長時間労働に違和感を覚えた。
小規模デイサービスの場合、6~10人程度の利用者を3~4人で介護するのが一般的だ。そのうち、管理者兼生活相談員や常勤介護職の正規職員は平均して週1回、月間で4、5回の宿直が義務付けられている。「宿直」とは夜間勤務のことで「正規の労働とは違うので宿直と呼んでいる」と研修担当者が話していた。
宿直日は、まず朝9時に出社し18時に終業、その後帰宅することなく宿直勤務に突入し、翌朝再び日勤職員として18時まで働く、32時間連続勤務という凄まじい長時間労働シフトだった。
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