米大統領 27日広島へ 現職で初、安倍首相同行 米政府発表

 【ワシントン山崎健】米政府は10日、オバマ大統領が26日に開幕する主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に出席した後、安倍晋三首相とともに、27日に被爆地の広島市を訪問すると正式に発表した。広島、長崎に原爆を投下した米国の現職大統領が被爆地を訪れるのは初めてで、戦後約70年を経て歴史的訪問が実現する。米国内では原爆投下が戦争を終結させたとの肯定論が今も根強いが、オバマ氏はこの訪問を「核なき世界」実現に向けた米国の新たな決意と強固な日米同盟の象徴にしたい考えとみられる。

 アーネスト大統領報道官が発表した声明によると、目的はオバマ氏が「引き続き核なき世界を追求することを強調するため」。長崎訪問は見送られた。米政府関係者によると広島平和記念公園での献花や2009年4月にチェコの首都プラハで行ったような核廃絶を訴える演説を検討。原爆投下について謝罪はせず、米国、ロシアの核軍縮交渉が停滞し、北朝鮮も核開発を継続するなど核廃絶の機運がしぼみつつある中、未来志向の観点で核廃絶をあらためて誓うという。

 1945年8月の原爆投下以降、カーター元大統領が退任から約3年後の84年5月に広島を訪問したのみで、被爆地を訪問した現職大統領はいない。

 オバマ氏は09年11月に初来日した際に「私が広島と長崎を将来、訪れることができたら非常に名誉なことだ」と意欲を示した。過去3回の来日では実現しなかったが、10年8月に当時のルース駐日大使が米政府代表として広島の式典に初めて出席。昨年8月はガテマラー国務次官も広島、長崎の式典に出席した。今年4月にはケリー国務長官が先進7カ国(G7)外相会合に合わせて広島平和記念公園を訪れるなど着々と地ならしが行われてきた。

 オバマ氏の被爆地訪問には米国世論の反発が懸念される上、11月の大統領選に向けて野党共和党に攻撃材料を与えかねない。しかし、ケリー氏の訪問後、批判は限定的だったことなどから、オバマ氏は政治的リスクを最小限に抑えることができ、日米同盟強化にもつながると判断。来年1月の退任を控え、「核なき世界」を訴えて09年のノーベル平和賞を受賞した自身の政治的遺産(レガシー)とする狙いもあり、決断に踏み切ったとみられる。

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 日本政府筋は11日未明、オバマ米大統領が、平和記念公園を訪れて原爆資料館を見学する方向で検討していると明らかにした。


 ■首脳会談も調整

 安倍晋三首相は10日、首相官邸で記者団に対し「原爆投下でたくさんの市井の人々が無残にも犠牲になった。今回の訪問を全ての犠牲者を日米でともに追悼する機会としたい」と述べた。

 首相は「オバマ氏が広島を訪問し、被爆の実相に触れ、その気持ちを、その思いを世界に発信することは核兵器のない世界へ向けて大きな力になると信じる」とも強調。「被爆地から世界に向けて決意をあらためて発信することこそ、意義のあることだ」と語った。

 オバマ氏は広島に宿泊予定で、広島で日米首脳会談を行う方向で調整している。

=2016/05/11付 西日本新聞朝刊=

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