後任の李熙範(イ・ヒボム)氏(67)は元産業資源部(省に相当)長官を務めるなど、その経歴は非常に華々しい。理工系出身者として初の行政考試(日本の国家公務員試験総合職試験に相当)首席合格者で、その後も官僚や企業経営者など表舞台を歩んできた。その経歴だけを見れば、平昌オリンピック組織委員会のトップとして何ら問題はない。オリンピック組織委員長という地位は、明確なビジョンを持つと同時に、組織を効率的かつ合理的に率いる能力さえあれば、誰でも引き受けることができることになっている。しかし組織委員長の職務を実際に果たすに当たり、もう一つ重要な資質はスポーツ分野における外交力であり、その基盤となる世界的な人脈だ。オリンピックを運営する国際オリンピック委員会(IOC)はもちろん、各種目の国際団体のいずれも人間によって動いている。オリンピックをめぐるこれまでの歴史を振り返っても、何か困難な問題が起こった場合、個人の人脈を動員することで予想以上にスムーズに事が運ぶことは何度もあった。これはもちろん韓国に限った話ではない。
趙氏の辞任により、平昌オリンピック組織委員会にはIOCと本音で話ができる人間がいなくなった。現在、組織委の幹部の中にも李氏を支えて新たな人脈を紹介できるような人物は見当たらない。スポーツ界に限らず国際的な人脈を築くには多くの時間と努力が必要だが、政府もスポーツ界もその努力を怠ってきたからだ。
IOCも困惑している。キム・ジンソン初代委員長に続き、趙氏までもが突然韓国側のパートナーから降りてしまったからだ。二人はどちらも平昌オリンピックの準備状況についてIOCと直接意見を交換できる人物だった。韓国のスポーツ界がこれまで積み上げてきた人脈を自ら崩壊させ、またしても最初からやり直すという笑うに笑えない状況を招いたことについては、組織委員長の指名に大きな影響力を持つ政府の責任も指摘せざるを得ない。もしかすると政府は「オリンピックさえ成功させれば、スポーツ界における国際的な影響力も自然に高まる」といった安易な考えを持っているのではないだろうか。