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プロローグ
とある高校の教室内に同学年の5人の男女がいた。
「ぶひゃっ!」
まるで豚のような醜い声が教室に響く。
「イタイ、イタイ、イタイッ!……
ぼ、ぼくを殴ったな!」
そう声をあげたのは、くすんだ金髪に青い目、でっぷりとした大きなお腹が特徴的な青年だ。
「こんなことしてただですむと思っているのか!」
「はっ!俺はただそこにいる屑豚野郎を殴っただけだが?なんかあんのかよ?もう一回殴ってやろうか?あぁん?」
「ひぃッ!」
そんな彼に対して鋭い視線を浴びせ、手をパキパキ鳴らしている一人の青年がいる。彼の名前は篠瀬琉斗。巨体の持ち主で、服の上からでもわかる立派な筋肉に刈り上げられた黒髪をしている。
「琉斗、君は一旦下がってくれないか。」
「はぁ?なんでだよ真一。あいつがどんな奴かわかってんのかよ?あいつのせいで今までどれだけの人が……」
「わかってる」
彼は輝志真一。黒髪の整った顔立ちに一見痩せているように見えるがその実、剣道によって鍛えられ引き締まった身体をしている。彼の言葉にのった静かな怒りを感じとった琉斗は大人しく下がることにした。
「お、おまえら!ぼくを誰だと思っている!ぼくはあの大手企業、成宮第一の社長の息子にして3代目社長、成宮大和だぞ!今すぐ……ぶべぇらっ!!」
その言葉が最後まで言われることはなかった。それは途中で真一による強烈なパンチをくらい3メートルほど吹き飛ばされたからである。
「……さっき僕達は君の両親に話しをしにいったよ。そして君が今までどんなことをしてきたのかを話した。君とは違って常識のある人物で良かった。君とはもう家族の縁を切るそうだ。」
その言葉を聞いた大和は殴られた痛みも忘れてポカーンとした表情になっていた。それから10秒ほどでようやくその言葉の意味を理解できた。
「う、嘘だ!」
「本当だよ。その証拠に……ほら。」
真一は鞄の中からひとつの封筒をとりだし彼に向かって投げ渡す。それを必死になって拾い封筒の中身を取りだし読み始める大和。その顔は徐々に青ざめていきその紙を握る手もプルプルと震えだした。
「そ、そ、そんなことあるわけがない!ぼ、ぼくは将来が約束された選ばれた人間なんだぞ!?ありえない、ありえない!!こんなことがあるばずが……」
「いい加減認めなさいよ。気持ち悪い。」
そのように口を挟んだのは上原美羽。腰までとどく黒髪につり目なせいでやや不機嫌そうな顔をしているもののその整った顔立ちは誰がみても美人だと答えるだろう。
そんな彼女は今は目の前にいる喚き散らかしている人物を心底気持ち悪そうに見ている。
「あんたが今までしてきたことは全部この子からきいたわよ。ほんとどうしようもない屑ね。あんた。」
そういって、先ほどから自分の後ろに隠れるようにして佇んでいる人物を美羽は見つめる。
彼女の名前は成宮亜美。名前から分かると思うが彼女は成宮家の長女であり大和の妹である。髪は綺麗な金髪をショートカットにし、大きなブルーの瞳をしている。あの大和の妹とは到底思えないほどの美少女である。ちなみにこの二人は双子ではなく大和が遅生まれで亜美が早生まれであり、同じ高校二年生である。
そんな亜美を見た大和は彼女をギロリと睨み付け、
「おいっ!亜美!!これはどういうことだ!?説明しろ!」
「ひぃッ!」
大和が立ち上がり彼女に詰め寄ろうとする。亜美は怯えたように小さな悲鳴を上げたが、その前に彼に対して本日三度目となるパンチが浴びせられた。
「ふごぉっ!」
「可愛い、可愛い亜美にその汚ならしい手で触らないでくれるかしら?穢れるわ。」
そういい、殴った右手を引き戻し、空手の構えをとる。彼女、美羽は、実は空手業界では知らぬ者がいないほどの空手の名手である。そんな彼女に殴られた彼はもちろん無事なはずはなく、地面でゴロゴロと喚きながらのたうち回っている。
「う、うぅぅ…」
「亜美。あなたももうこいつに怯える必要はないのよ。こいつはあちこちに恨みをかっているからもうここらでは生きていけないわ。」
自業自得ね、と心底興味なさそうに呟く美羽。そんな彼女の呟きを聞いた亜美は少しの間俯き、覚悟を決めたように顔を上げいまだ地面でもがいている彼に近づくき
「……」
「あ、亜美!あいつらのいっていることは本当なのか!?嘘に決まってるよな!?い、今ならこの心の広いぼくが許してやるぞ?だからはやくあいつらを…」
パシィーーン。大きな破裂音が少し暗くなった教室内に響く。大和は呆然とした表情でその音を成し腕を振り切った状態の人物を見る。その瞳はおおよそ家族に対して向けられる視線ではなく、冷たくひえきった瞳をしていた。
「……貴方は最低な人間です!」
それだけをいって亜美はその場を離れる。この場の亜美と大和を除く三人は少し驚いた表情をした。あの普段はにこにことした可愛らしい少女があんなにも冷たい表情をしていたことに。
だが少し考えてみれば至極当然のことだろう。なにせ大和による一番の被害者はきっと彼女自身なのだから。
静まりかえった教室、最初に声を出したのは真一だった。
「とりあえず今日は一旦これで帰ろう。」
「こいつを放っておいてもいいのかよ?」
「今の彼にはなにをいっても無意味だと思うから。」
そういって先ほどから無言で佇む彼を見る。その顔はこの世の終わりだとでも言いたげな表情をしている。今の彼に何を言おうと無駄だろう。そう思い四人は教室の外へ出ようとした。まさにその時だった。
溢れんばかりの強烈な光が五人をおそったのは。
「なっ!?」
「なんだこりゃ!!」
「ど、どうなってるの!?」
「きゃっ!」
「……」
光が消え完全に真っ暗になった教室。そこに先の五人の姿はなかった。
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