被害者インタビュー「心は殺された」
「日本から出て行け」などと叫びながら街頭を練り歩き、在日外国人らへの差別を扇動する「ヘイトスピーチ」。法務省が3月に公表した実態調査によると、2012年4月から15年9月にかけて29都道府県で実施された関連デモは計1152件に達している。川崎市在住の在日コリアンの親子が毎日新聞の取材に応じ、ヘイトスピーチ被害の実態と法整備の必要性を訴えた。
「『絶望』以外のなにものでもなかった」−−。住民で在日コリアン3世の崔江以子(チェ・カンイジャ)さん(42)はこう振り返った。首都圏では東京・新大久保が主な場所だったが、13年以降、川崎市南部の在日コリアンが多く住む地域でも活動が顕著になったという。同年5月以降、計13回のデモや街宣活動が確認された。今年1月には、「ゴキブリ朝鮮人は出て行け」などと拡声機で絶叫する集団が車道でデモ行進した。
崔さんの長男で中学2年の中根寧生(ねお)さん(13)は翌2月、福田紀彦川崎市長宛てに対策を講じてほしいと手紙を出したが、「現行の法令で対処することが難しい」などと理解を求める返事が届いた。崔さん親子は「デモ後も当時の光景が思い出される。眠っていてもうなされて目が覚めたり、独りになると涙がこぼれたりする」と話す。
「毎日を楽しいなと思える日が戻ってほしい。ヘイトスピーチ対策の法律を早く作ってほしい」−−。こうした寧生さんらの願いに対し、国会の現状はどうか。ヘイトスピーチの解消と人種差別の撤廃を目指し、与野党で対策法案を審議してきた。崔さん自身は3月22日、対策法案を審議する参院法務委員会に参考人として出席し、「心は殺されました」などと意見陳述した。
これを受けて法務委所属の国会議員らは3月末に同市川崎区の臨海部を視察し、崔さん親子や地元商店主らから人権侵害の訴えを聞いた。与野党は今の与党案を修正して可決させる方針で合意しており、今国会で対策法が成立する見通しだ。【後藤由耶】