金正恩報告 矛盾だらけの「核強国」
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記が、新たに党委員長に就任した。金委員長は朝鮮労働党大会での活動総括報告で、「責任ある核保有国」として核の先制不使用を約束し、世界の非核化実現に努力すると語った。
新たな核保有国の出現を許さないのが核拡散防止条約(NPT)の精神である。1970年の条約発効までに核兵器を保有していた米露英仏中の5カ国にも、核軍縮への努力を義務づけている。
だから、国際社会は北朝鮮の核実験と弾道ミサイル発射を非難し続けてきた。核の先制不使用や非核化への努力などという言葉を並べても、北朝鮮が「核保有国」と認められることはありえない。
しかも、金委員長は「核強国として威容をとどろかせている」と誇らしげに語り、核兵器開発と経済建設を同時に進める「並進路線」を恒久的な政策にすると表明した。「自衛のため」という口実で、核戦力を強化することも明確にしている。
北朝鮮はこれまで、必要な時には米国や韓国を先制攻撃すると繰り返してきた。ワシントンを核攻撃したり、米韓両国の大統領官邸を爆破したりする様子を描いた動画をインターネットで公開してもいる。
これでは非核化への努力という言葉に真実味は感じられない。
北朝鮮は、核の脅威を強調することで日米や韓国を交渉の場に引き出そうとしている。「責任ある核保有国」と主張しようと、この点は何も変わっていない。米朝対話や南北対話への言及もあったが、米韓両国は真剣に取りあわないだろう。
「並進路線」も、実際には経済建設に負担となるだけだ。
報告では、国家経済発展5カ年戦略を通じて国民生活の向上を目指すことも表明された。
しかし、核放棄へ向けた前向きの姿勢を見せないかぎり、いくら野心的な経済戦略を示しても絵に描いた餅だ。外国との経済関係拡大が不可欠だが、核・ミサイル問題で国際制裁が続く現状では難しい。
報告には一方で、経済部門は依然として高い水準に達していないと認める率直さもあった。冷戦末期に社会主義諸国が崩壊して北朝鮮は孤立したと初日に認めたことと併せ、現状認識には現実的な側面がうかがえる。
それにもかかわらず、将来展望は依然として独りよがりの論理で一貫しているところに問題がある。
北朝鮮は90年代以降、長期経済計画を発表できずにきた。それだけに5カ年戦略の最終年となる2020年には華々しい成果を誇りたいと考えているはずだ。しかし、「並進路線」で核兵器に固執し続けるなら、戦略が成功することはないだろう。