秘密法の運用 国会の監視力を強めよ
何が秘密なのかも秘密にされてしまうのではないか。特定秘密保護法に対する立法時の懸念が、現実のものとなりつつある。
政府は、2015年の特定秘密の指定など、運用状況に関する国会報告をこのほど閣議決定した。
国会報告によると、15年末時点の特定秘密の指定件数は11機関443件で、昨年1年間で61件が新たに指定された。文書数では27万件以上に上り、8万件以上増えた。
新規指定には、例えば「防衛力整備のために行う国内外の諸情勢に関する見積もり等」など、具体性に欠けた指定項目が並ぶ。増加した秘密文書の内訳なども、報告書からは読みとれない。これでは、指定の妥当性を判断するのは困難だ。
秘密保護法は、外交や防衛、テロ防止、スパイ活動の防止など国の安全保障に関する重要な情報を、行政機関の長の判断で特定秘密に指定できる法律だ。14年12月に施行された。恣意(しい)的な指定が行われれば、国民の「知る権利」が損なわれかねないと当初から指摘されていた。
そうならぬよう設置されたのが、衆参両院の情報監視審査会だ。国民の代表者として政府の外から特定秘密を点検する役割を担う。
だが、現状では審査会は十分に機能していない。委員が具体的な説明を求めても、政府が正面から回答しない対応が日常化しているという。
情報漏えいへの懸念が理由としても、こうした政府の姿勢は納得できない。審査会は秘密会で、委員は罰則付きの守秘義務を負う。ならば、委員が指定の妥当性を判断できるよう政府が説明を尽くすのが筋だ。
3月に衆参両院の審査会が年次報告書を公表し、政府側に対応の改善を求めた。衆院の審査会は、特定秘密の概要を項目ごとに記す管理簿について「具体的に記述して、秘密の範囲を限定するよう早急に改めるべきだ」などと改善意見を挙げた。政府は審査会の意見を早急に取り入れてもらいたい。
審査会側の努力も必要だ。強制力はないものの、審査会は特定秘密の提出要求ができる。だが、衆参合わせ5件要求しただけだ。5件とも政府は提出に応じており、もっと積極的に要求していくべきだ。提出要求には審査会の過半数の賛成が必要だが、衆参両院とも与党委員が過半数を占めているためなかなか進まない。このハードルをたとえば3分の1に下げるのも一案ではないか。
また、審査会設置時の与党協議で、不適切な秘密指定に対する内部通報窓口を審査会に設けることが検討されたが、立ち消えになった。改めて検討してほしい。審査会の監視機能の充実を国会は図るべきだ。