踏切を渡る人が命を落とす事故をなんとしても防ぎたい。新しい制度を大いに生かし、地域で知恵を絞ってほしい。

 改正踏切道改良促進法が4月に施行された。国が「改良の必要がある」と判断し、指定した踏切について、鉄道会社と地元自治体が協議会をつくり、対策を練るしくみが導入された。

 国は4月にまず58カ所を指定した。今後5年間で1千カ所以上を指定する方針だ。

 この法律ができて今年で55年になる。当時7万を超えていた踏切の数は3万余に減り、事故件数はほぼ20分の1になったが、死者数は毎年100人前後でこのところ横ばいだ。歩行者が列車にはねられる事故はあまり減っていないためだ。

 亡くなった歩行者の4割が高齢者だ。脚力の衰えで距離の長い踏切を渡りきれなかったり、電動車いすで立ち往生したりして事故に遭う例も目立つ。

 今回の法改正は、こうした横断中の事故防止に主眼を置く。踏切内の歩道部分をわかりやすく塗り分けることや、近くに自由通路や駐輪場をつくって踏切を渡る人や自転車の数を減らすといった対策も幅広く検討するよう促しているのが特色だ。

 踏切事故を防ぐには、線路と道路を立体交差に切り替えて踏切をなくすのが一番だ。ただ、1カ所あたり数十億円の巨費と手間がネックになって、なかなか進んでこなかった。

 鉄道と行政の関係者が集まる協議会という場を通じ、あらゆる知恵を集めて事故を防ぐ機運を高めていきたい。

 そのためには、どんな人たちがどのように踏切を渡っているかをまずよく調べ、意見を聞くべきだろう。過去に起きた事故や「ヒヤリハット」の事例を分析することも役立つはずだ。

 高齢者や障害者らの事故防止には、国土交通省の検討会が昨年まとめた提言も参考になる。

 複数の線路をまたぎ、高齢者らが一気に渡りきるのが難しい踏切では、途中で遮断機が下りても待避できる場所を設ける。踏切内のでこぼこをなくし、転びにくくする。人が立ち往生した時は電車を緊急停止できる高性能の検知装置をつける。

 提言以外でも、歩行者がとくに多い時間帯は警備員を配置するなど、やる気があればできそうな対策はいくつもある。

 国は今後5年で踏切事故の件数を1割減らすとしているが、これは最低限の目標と考えるべきだろう。危険な踏切はもう手つかずにしない、という意思を地域ごとにしっかり固めていってほしい。