2014.6.24号

p28~31
 憎しみの炎が、世界を焼き尽くそうとしている。火の手は先の見えない不安にあおられ、21世紀の超高速メディアに乗って拡散していく。
 アメリカで差別的な活動を監視している南部貧困法律センター(SPLC)によると、米国内で活動するヘイトグループ(差別主義団体)の数は00年の602団体から急増し、11年には1018団体に達していた。
 ミャンマーのイスラム教徒からヨーロッパの少数民族ロマまで、世界中で民族的、宗教的な少数派が理不尽な暴力によって排斥されている。
 もちろん、良識ある政治家は事態を憂慮している。ヨーロッパ全域に人種意識を根付かせたい欧州会議のトルビョルン・ヤーグラン事務総長は、いかにしてヘイトスピーチ(差別的表現)を抑制するかが「現代における主要な課題の1つ」だと述べ、手遅れになれば破滅的な結果を招きかねない。なぜなら憎悪は「ジェノサイドの先触れ」だからと警告する。
 心配なのは、人々から寛容の精神が失われてきたこと。そのせいで、すぐ肉体的な暴力に訴えたり、差別的な言葉を吐く人が増えた。日中、日韓間の反感も強まるばかりに見える。スポーツの競技団体がどんなに厳しく人種差別を禁じようと、熱くなり過ぎた観客が黒人選手にバナナを投げつける行為を止めることはできない。
 宗教も憎悪をまき散らす。ローマ法王庁は、過激なユダヤ教徒によるキリスト教徒やイスラム教徒への虐待を憂慮している。法王(教皇)フランシスコ訪問を控えたイスラエルでも、キリスト教会の壁に「キリストはくずだ」という落書きがあった。
 要職にある政治家も同じだ。訴訟沙汰になりそうな差別発言は控えつつ、巧みに憎悪のメッセージを伝えている。先月の総選挙で政権を奪取したインド人民党(BJP)は、国内に1億5000万人いるイスラム教徒に対する敵意で知られている。
 オランダ議会で3番目の勢力を握る自由党のヘールト・ウィルダース党首は、モロッコ移民を本国に送還したい考えだ。ハンガリー議会で23議席を持つ極右政党ヨッビクは、ロマの居住地を襲撃した暴徒に拍手を送る。

4人に1人が反ユダヤ
 先月の欧州議会選挙でも、各国で外国人排斥を主張する極右勢力が躍進した。これを受けて、国連人権高等弁務官のナビ・ビライは今月初めのセミナーで、政治家たる者は人種や宗教に関する非寛容な発言を慎むべきだと警告している。
 フランスの首都パリでは、昨年1月フランソワ・オランド大統領に対する抗議デモに約20万人が集まった。同性婚の合法化などに反発するデモだったが、これにはオランド政権の内相が強い警告で応えている。いわく、
「抵抗勢力が形成されつつある。これは反エリート、反国家、反税金、反議会、反マスメディア、そして何よりも反ユダヤ主義を掲げえる反乱だ」
 憎悪という感情の力を熟知しているのが、ホロコースト生存者のエーブラハム・フォックスマンだ。1941年、避難先のリトアニアにナチス・ドイツ軍が侵攻し、少なくとも3万人のユダヤ人が虐殺された。幼いフォックスマンは幸いにしてキリスト教徒の家政婦に救われたが、終戦までの4年間は仮名を用い、カトリック信者の子として過ごさねばならなかった。
 アメリカで「あらゆる形態の差別的偏見」と闘うユダヤ系団体・名誉棄損防止連盟(ADL)を率いてきた彼は今、74歳になった。ADLによる国際調査の結果には暗然とした気持ちにならざるを得ない。世界100カ国を対象にした調査の結果、4人に1人が「反ユダヤ感情に染まっている」ことが分かったからだ。
 反ユダヤ主義のウェブサイトには、今のウクライナ紛争から01年の9・11テロまで、なんでもユダヤ人のせいにする言葉があふれている(ウクライナ問題では親欧米派も親ロシア派もユダヤ人たたきに加担している)。
 ばかげた話だが、フォックスマンにはその危険性が分かる。
「アウシュビッツのガス室はレンガとモルタルだけで建てられたのではない。妄言という資材も使われていた」
 いつの世にも存在する狂信者と同じように、21世紀の扇動家たちも政治的に極端な主張を掲げ、暴力をあおり、陰謀説を流すのに忙しい。
 そうした人間は、概して一匹狼で脅迫観念に取りつかれている。11年7月にノルウェーで93人を殺害した白人至上主義者のアンネシュ・ブレイビクはネット上で公開した長文の宣言書で、イスラム教徒に支配される危険を警告し、最大の残酷さをもって立ち向かえと訴えていた。

悪意が伝わる速度が違う
 一方、迫害される側だったマイノリティーにも過激な動きがみられる。3月、ファイアーフォックスを開発した米モジラのブレンダン・アイクCEOが、カリフォルニア州の同性婚を認める動きに反対するキャンペーンに資金提供したことが発覚。同性愛グループの執拗な攻撃を受けて就任からわずか10日で辞任に追い込まれた。
 著名なコラムニストでゲイの活動家でもあるアンドルー・サリバンの言葉を借りると、ゲイたちも「愚かな不寛容」の罪を犯したことになる。
 憎悪は昔から政治や社会で大きな役割を果たし、少数派は常に激しい偏見にさらされてきた(最初期の印刷機は協会の魔女狩りパンフレットを刷るのに大活躍した)。16世紀のイギリスではロマというだけで死刑の危険があり、中世のフランスでは同性愛行為で有罪になると初犯で去勢され、再犯では体を引き裂かれることもあった
 おぞましさの点では、黒人を迫害した白人秘密結社KKK(クー・クラックス・クラン)のヘイトスピーチも現在のジハード(聖戦)戦士のウェブサイトも大した違いはない。違うのは憎悪が拡散するスピードだ。
「自分と意見を同じくする情報源しか信用しない人が増えている」と言うのは、イギリスのシンクタンク、欧州改革センターのイアン・ボンド。「アメリカでもFOXニュースや右翼的なラジオのトーク番組しか聴かない人たちは、オバマはケニア人で共産主義者で、イスラム教徒だと信じている」
 おまけにインターネットがある。昔は悪意を広めるのに印刷物かラジオを必要としたが、今はノートパソコンかスマートフォンがあればいい。ネット上にあふれる無数の情報から適当なものを選び出し、そこへ自分の妄想を書き込んでアップロードするのは簡単だ。ツイッターやSNSで、世界に簡単にメッセージを送り出せる。
「今のヘイトスピーチは軽々と国境を超える」と言うのは、リムリック大学(アイルランド)のジェニファー・シュウェッブだ。「もはや複写とか出版とかの必要はない。あっという間にすべてがリツイートされる」
 小心者も、反論を恐れずに発言できる。匿名でブログを書くのに勇気は要らない。
 しかも罰せられるチャンスは少ない。多くの国では憲法で「言論の自由」が認められているから、当局が悪意ある発言をチェックするのは難しい。「私たちは憎悪の大きな輸出国になってしまった」と言うのは、憎悪犯罪に詳しいスタンフォード大学のクララ・ルイスだ。
 憎悪の輸出が増えすぎたせいだろう、最近は学会でもこの問題に真剣に取り組もうとする姿勢が目立つ。例えば5月には、イギリスで「国際憎悪研究ネットワーク」の第1回シンポジウムが開かれている。

不安が憎悪に変わる要因
 人はなぜ憎しみの声に耳を傾けるのか。08年の金融危機の時を思い出してみればいい。景気が急激に悪くなると、誰もが手頃なスケープゴートを見つけようとした。そしてユダヤ人が恰好のターゲットになった。
 加速する経済のグローバル化、押し寄せる移民の波、ホロコーストの記憶の風化、イスラム原理主義の台頭、経済格差の増大、社会の急激な変化(30年前には同性婚などあり得なかった)。これらすべてが「いけにえ」探しの口実になる。
 一部のマイノリティーの場合、社会に受け入れられたがためにかえって反対派から目を付けられるようになったとも言える。同性愛者はカミングアウトしやすくなったが、それだけ攻撃をうけやすくもなった。
 ブラジルでは毎年世界最大のゲイ・パレードが開かれ、250万人も参加しているが、同性愛者を狙った犯罪の数でもおそらく世界一だ。昨年だけで、同性愛や性転換を理由に殺された人は312人に上る
 こうした風潮に、政治はどう対処すべきか。一部には厳罰主義で臨む国もある。
 いい例がロシアで、中央アジアからの移民に対する差別的な言動に対しては厳罰が科される。例えばモスクワの「ラディカル・ポリティクス」に載った記事が「民族や人種間の憎悪を増長する」と判断された事件では、編集者に6年の禁固刑が言い渡された。フランスでも、露骨な反ユダヤ主義のお笑い芸人デュドネ・ムバラ・ムバラがヘイトスピーチで6回も罰金刑を食らっている。
 とはいえ、政府は概して慎重だ。やれ迫害だ、国家権力による言論弾圧だと騒ぎ立てられても困るし、処分の効果も疑問だからだ(現にデュドネの人気は一向に衰えていない)。
「法廷に引きずり出しても宣伝に利用されるだけだ」と言うのは、ルーベン大学(ベルギー)のヨッフム・フリーリンク。実際、自分のウェブサイトのアドレスを大書したTシャツ姿で出廷した男もいるという。

大義なき者の悪あがき?
 しかし経済不安が憎悪の源だとすれば、少なくともアメリカでは峠は越したのかもしれない。景気回復に伴って、差別主義的団体の数が12年から減少に転じたとのデータもある。また同性婚をめぐる対立も、ほぼ勝負はついたようにも見える(同性婚を合法化した州は、10年前には皆無だったが今は首都ワシントンと19州にまで増えた)。
 そもそも、憎悪は無知や貧困という大きな病の症状の1つと考えることができる。確かに今のアフリカでは同性愛が嫌われていて、ウガンダでは死刑になる恐れがあるし、南アフリカではレズビアンが「矯正」の名の下にレイプされている。
 だがアフリカでも、豊かな都市部ではこうした犯罪が減っている。「同性愛者に対する憎悪犯罪の90%は貧しい黒人居住区で起きている」と、南アの同性愛権利団体アウトのダウィー・ネルは言う。「憎悪と暴力、貧困、失業の根は1つだ」
 一方で、ヘイトスピーチが暴力犯罪につながるという確証は得られていない。そもそもの定義が曖昧なため、統計的な比較が困難だからだ。
 やたら細かいイギリス当局の調べによると、昨年だけで4万件を超えるヘイトクライムが国内で発生したことになっている。ところがギリシャでは(移民排斥を掲げる極右政党の活動家が暴れ回っているのに)そうした事例の報告はゼロに等しい。統計がないからだ。
 憎悪が増えたのではない。憎悪に気付く人が増えただけだ、と前向きに考える人もいる。ユダヤ人のフォックスマンが言う。
「私は反ユダヤ主義者に殺されかかった。しかし人の心は変えられる。世の中には善人のほうがずっと多い。偏狭な諸君はほんのひと握りだ」 

ウィリアム・アンダーヒル

p28
newsweek世界で増殖する差別と憎悪28
p29
newsweek世界で増殖する差別と憎悪29
p30
newsweek世界で増殖する差別と憎悪30
 p31
newsweek世界で増殖する差別と憎悪31

この記事でわかったこと
「ヘイトスピーチ規制」は、ヘイトクライムを減らすためのもの
ヘイトスピーチ規制がヘイトクライムを減らしたという効果は実証されていない

今日本で規制すべしと言われているのはなぜか「日本人」の「朝鮮人」に対する「スピーチ」だけだが、実際に日本人が朝鮮人を狙ったヘイトクライムなどあるだろうか?
むしろ逆のパターンならいくらでもあるが
生野区殺人未遂1
テロ、ヘイトクライムの横行するやさしい社会に

つまり本来「ヘイトスピーチ規制」賛成派は
ヘイトクライムを減らすために「朝鮮人」の「日本人」に対する「スピーチ」を規制するべしと主張しなければおかしい

今また関東大震災時の朝鮮人虐殺()を持ち出すのはヘイトスピーチ規制に無理やり結びつけるためだろう

残念ながら当時朝鮮人テロリスト集団が日本で活動していたことも分かっているので
関東大震災で日本人10万人を虐殺した朝鮮人の黒幕
そんな穴だらけのロジックで国民が納得するはずもなく
いずれ朝日新聞のようにやり玉にあがることだろう


ちなみにもし人権委員会が設置されるようなことがあれば公約違反です

参考
『ヘイトクライムに関するアメリカの連邦法』
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8382747_po_02580002.pdf?contentNo=1

文中のあらゆる形態の差別的偏見」と闘うユダヤ系団体・名誉棄損防止連盟(ADL)
 
この団体は杉原千畝命のビザキャンペーン=日本は反ユダヤ国家という侮日キャンペーンに加担している
日本を貶めようとする悪意2 杉原千畝「命のビザ」キャンペーン