第一章 催眠凌辱 @
六月下旬、澄みきっていた青い空は一面灰色のおもい雲に覆われた。
昨夜梅雨入りの発表がテレビのニュースで流れたばかりだが、外ではすでに大粒の雨がバラバラとけたたましい音をたてて降り続いている。
(ハアハア、・・・あっ、あああ・・・・・)
木造モルタル式のアパート。この部屋の一室内で、なにやら奇妙な行動をとっている男がいた。
男の呼吸は、窓をたたきつける激しい雨音さえもかき消してしまうほどに荒々しく、暗闇にされた部屋のなか、まるで忍者のようにピタリと壁に張りついている。
(ハアハア・・・ハアハア)
湿気が高いせいか、額にはベッタリとした不快な汗が無数に滲んでいた。だが、べたつく汗もまるで気にならないほど、神経を集中させていく。
(ハアハア、・・は、遥ちゃん・・・)
見事な曲線で流れるような肉感・・・・真っ白な肌を包み隠していたシャツとジーンズが次々に取り払われていく。そして、清楚感漂う純白のブラジャーさえも、なんの躊躇いもなく取り去られた。
(うっ、・・・・はあぁ・・・遥ちゃん・・・ああぁ・・・)
勃起した肉棒が男の手の中でドクンドクンと激しく脈打ち、正気を失くしたように悶え狂っている。はやく刺激が欲しいのだ。だが男の手は辛抱強く我慢し、摩擦を繰り出す最高のタイミングをしっかりと計っていた。
ブラの肩紐がゆっくりと腕から抜かれていく。そっとカップがはずされと、開放された乳房がブルンと小さく揺れ動き、弾むようにして飛び出してきた。よほどブラが窮屈だったのだろう、その膨らみはさらに増したようにも見える。淡いピンク色をした小さな突起物をちょこんと尖端につけた重量級のバストが、男の表情をいびつに歪ませていく。
女性の指がパンティへ差し掛かると、男の視線もすぐに華麗な脚線をつくっている下半身へと移った。
ムッチリとした肉をつけながらもツンと上向き、なんとも卑猥な盛り上がりを見せているヒップからピッチリと引き伸ばされたパンティがユルユルと脱ぎ降ろされると、少しずつ魅惑の黒い茂みが姿をあらわしはじめた。
(ハアハア、・・・・ゴクリ、んあ、・・・・ハアハア、)
覗き穴につよく顔を押し付けている男の瞼には、うっすらと血が滲んでいた。だが、そんなことに気づくはずもない。男の感覚はいま、情欲以外になにも機能しなくなっていた。
(あ、ああぁ・・・・は、遥ちゃん・・・・んぐっ!)
スラリと真っ直ぐに伸びた長い足のつま先からパンティが抜き取られと、女はついにその淫麗な裸体の全貌を男の視線の中に晒した。
男の手につよく握り締められている肉棒は、まるで赤子のようにダラダラと涎を垂らしながら愚図っている。男は、それをあやすかのようにゴシゴシと上下に扱いた。
官能的に揺れ動く女性の豊乳が男の発作を誘発し、クルリと背を向け屈み込んだ瞬間、顔を歪める男の肉棒からネットリとした白濁液が勢いよく飛び散った。
この男、鈴木俊也は今年大学に入学したばかりの一年生だ。
顔立ちはそこそこ男前なのだが、これまでに女性と交際したことは一度もない。気真面目で内向的な性格が災いしているのであろう。性体験はというと、もちろん童貞だ。
これまでに、沸きあがる性欲で自身の理性を狂わされることなど決してありえないことであった。だが、遥と出会ってからというもの、性への欲求が日に日に大きく膨らみはじめ、最近では自制がきかず毎日のようにオナニーをしている。
二ヶ月ほど前、大学の入学式で落ち着きなくキョロキョロとあたりを見まわしていた鈴木の目に、ふと飛び込んできた美しい笑顔の女性。そのキュートな笑顔におもわず見とれてしまった。これが森下遥との出会いだ。
ショートの黒髪にふっくらとした頬、顎のラインは綺麗に尖っている。長いまつ毛の大きな瞳は艶やかに潤み、その目じりが少し垂れ気味なのがいい。形の良い鼻の下にある薄紅色の唇はやや大きめで、どことなく熟成された大人の色気を感じるのは、たぶんこの唇のせいだろう。また、身長も一六八センチと長身だ。
学校にいる時は常に名前も知らない彼女の姿ばかりを探すようになった。しかし、彼女の姿をどこにも見つけることができなかった。やはり自分とは無縁の人なのかな・・・と、あきらめかけていた鈴木の前に、奇跡が何の前触れもなく訪れたのである。
その日、鈴木はアルバイト先のパスタ店でいつものように労働の汗を流していた。
「鈴木、ベーコン持って来い。急げよ!」
いつもチーフから「ノロノロ動くな、もっとシャキシャキ動け!」と怒られている鈴木は、また怒られないようにと、できるだけ機敏な動作で裏の冷房庫へと向かった・・が、「ガシャ―ン・・・」この馴れない動作が狭い厨房内で裏目にでてしまった。
「何やってんだ、いいかげんにしろよ、この野郎!」
結局、いつもの激しい怒声が厨房内に響きわたっていた。
「す、すみません。すぐに片付けます」
あわてて割れた皿の片付けを行っている最中、その女性はなんの前触れなく突然と面接にやってきた。偶然にも垣間見ることのできた女性の顔に、普段から眠そうにトロンとしている鈴木の目が、ギョッと目玉が飛び出るぐらいに大きく見開いた。そう、面接の女性はまさに鈴木が苦しいぐらいに想いをはせていた、あの一目惚れ相手だったのだ。
頭を鉄のハンマーでおもいきり殴られたような衝撃がはしっていく。顔面は不気味に引きつり、体は全神経を抜かれたかのようにまったく動かない。異常なぐらいに動揺をみせていた鈴木は、もう一枚、皿を割ってしまった。
「あ、・・・す、すみません、本当に申し訳ありません」
「・・・おまえな、・・・どつくぞ、こら!」
必死でチーフに謝りながらも、面接のことが気になってしょうがない鈴木は、割れた皿を片付けようと裏にまわった拍子に何気なく面接の様子を伺ってみた。
そして、面接が終わるのを確認すると、履歴書を真剣な面持ちで見入る店長の背後へとゆっくりまわり込み、うしろからソォ〜ッと覗いてみた。
(森下遥、遥ちゃんか。えー、十八歳・・○○三丁目の・・お、僕のアパートの近くじゃないか。えーっと・・んっ?・・シャ、シャトルハイツ?・・に、二〇三号!・・・ま、まさかな、じょ、冗談だろ・・・や、やっぱりまちがいない、僕の隣の部屋だ!)
「て、店長!」
「んおっ、なんだ鈴木か、突然びっくりさせんなよ」
「あ、いや、すみません・・あ、あの、この人・・さ、採用なんでしょうか?」
「んっ、ああ、採用するつもりだが、なぜお前がそんなことを聞くんだ?」
「あ、い、いえ、ただ同じ大学の人だったんで聞いてみただけです」
こんな夢みたいな偶然があるのか、いや、これは本当に単なる偶然なのか・・・この時から、鈴木の遥に対する想いは、なにか運命めいたものへと変わっていった。
その日の夜、仕事が終わった鈴木は一目散に自宅へと向かった。いまだ半信半疑で、どうしても自分の目で真否を確かめないことにはとても信じられない。住宅街特有の入りくんだ道を、日頃は見せない巧みなハンドルさばきでスイスイと見事に自転車を操り、自宅までの道をかっとばしていく。
・・キキ―ッ、・・ガチャ、ガチャ、・・・
「え〜っと、二○三号・・・あっ!」
(二○三号、森下遥・・・ほ、本当だったんだ!)
確かな証拠に鈴木の顔面筋はユルユルと垂れ下がっていった。
音になっていない無様な口笛を満面の笑みで吹きながら、軽やかな足取りで一気に階段を上がっていく。木造三階建てのシャトルハイツは一階に三室ずつがあり、鈴木の部屋は二○二号室で、ちょうど真ん中の部屋だ。自分の部屋の前までくると、隣の二○三号室のドアに目をやった。そこには森下と書かれた白いプレートがちょこんとぶらさがっていた。地味な顔に爽やかな笑顔がパーっと晴れわたっていく。
(明日は早めに起きよう。遥ちゃんが何時に家を出るか分からないからな)
同じ大学に通っているのだから当然、通学ルートも同じだろう・・・問題は彼女の学科だ。自分の選択授業の時間より、しばらくは遥の時間にあわせて学校へ行こうと鈴木は考えていた。明日からはじまる新しい生活を思うと、ワクワクしてとても眠れるような状況ではなかったが、それでも強引に就寝することにした。
ジリリッ、・・・外はまだ薄暗いにもかかわらず、セットしためざまし時計がけたたましく鳴り響く。ビクッと、瞬時に反応した鈴木は、アラームをオフにすると目を細めてゆっくりと窓の外を見た。
梅雨晴れの強い日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる。まだ重く圧し掛かかろうとする瞼を、ゴシゴシと手で何度も擦りながら時計に目をむけた。
(・・六時か・・ね、ねむい・・もうちょっとだけ・・・ハッ、いかん、いかん。布団に 入っていたら眠ってしまいそうだ。・・早めに準備しておくか)
鈴木は、隣の物音に注意を払いながら迅速に準備をすすめ、玄関口に待機した。
・・・ガチャ、ガチャガチャ、・・・
(んっ?)
隣から聞こえた金属音に、そっとドアスコープを覗いてみる。わずかに瞼をむくませた遥がちょうどドア前を通り過ぎようとしていた。
(あっ!・・は、遥ちゃんだ。朝の顔もまた可愛いな・・)
鈴木は、後を追うようにあわてて家を飛び出した。徒歩で通学する遥にあわせて、鈴木もまた自転車をおき徒歩であとを追っていく。距離が縮まると、それ以上は怖くて近づけず、離れようとすると早足で距離を縮める。ある一定の間隔を保ちながら歩いていく鈴木は、どのタイミングでどういうふうに声をかけたらいいかなどと、一生懸命に頭の中で思案していた。
それにしても・・・なんと形の良い尻だろう。歩くたびに官能的な揺れをみせ、堪らなくなまめかしい。紺色のシャツはとても爽やかな雰囲気をかもしだしているが、ピチッとフィットした白色のデニムパンツが尻の肉感をムッチリと厭らしく浮き立たせ、おまけにパンティラインもうっすらと透けているではないか。
そのエロティックな後ろ姿を前に、朝から敏感になっているペニスが反応しないわけがなかった。股間の物が膨らみかける都度に立ち止り、必死に雑念を払っては早足で追いかける。鈴木はそんなことを繰り返しながら遥の後を追っていた。
(あ、信号待ちしている。チャ、チャンスだぞ・・・な、なにか声をかけるんだ)
絶好のチャンスにもなかなか勇気をだせない鈴木は、挙動不審にちかい動きをするばかりで距離さえも満足に縮められない。そんなおかしな空気を感じとったのか、前を向いていた遥がふいに後ろを振り返り、挙動不審の鈴木をジッと見つめてきた。これには鈴木もあわて、仕草がさらに変な動きへとなっていった。すると、なんと遥のほうから鈴木に声をかけてきたではないか。
「・・・あのー、確か同じ大学の方ですよね?」
予想外の展開に、どぎまぎと答える鈴木の声は、周囲の人も吹きだしてしまうほどに高く裏返っていた。
「えっ、あっ、ああー、は、はい、そ、そうです」
「ふふ、沢田先生の授業で一緒ですよね?」
「え?・・さ、沢田教授の講義・・う、受けてたんですか?」
「はい。えっと・・いつも前の方の席に座ってますよね。私は、いつもその後ろあたりに座ってるんですよ」
(な、なんてことだ・・あれだけ学校中を捜し歩いても見つけられなかったのに・・沢田教授の講義のときはいつも僕のすぐ後ろにいたなんて・・・)
この日をさかいに、鈴木は一気に遥と友達関係になった。
ピンポーン・・ピンポーン・・・
「はーい!」
「おはよう!」
「あっ、は、遥ちゃん?お、おはよう」
「俊也くん今日は二時限目からだよね。私も今日は二時限目からなの。一緒に行こうと思って・・・もしかして、まだ寝てた?」
「い、いやいや、いま用意してたんだよ。ちょっ、ちょっと待ってて、すぐ出るから」
鈴木にとって夢のような出来事であった。一目惚れしてからというもの、何をしていても、遥のことが頭から離れることはなく、常に大きな存在で鈴木の中に君臨している。そんな遥が、部屋のチャイムを鳴らし、なんと、一緒に学校へ行こうと誘ってきているではないか。異常に舞い上がる鈴木の動きは、一つ一つがとても滑稽で、遥の笑顔と笑い声を常に誘っていった。
「ねえ俊也くん、今日バイト終わってから何処かでご飯でも食べて帰らない。少しだけど給料も入ったことだし」
「えっ、あ、う、うんそうだね。た、たまには栄養つけなきゃね」
「うん、そうそう。あっ、恵理子ちゃんだ。じゃあ俊也くんまた後でね。バイバイ」
「う、うん、バイバイ」
当然、その後の授業などに集中できるはずもなく、ゆっくりと刻む時計の針にジレンマを感じソワソワと落ち着かない。そして、ようやく全授業が終了すると、普段のゆったりとした動きからは想像できないほどの俊敏な動きで、一目散にバイト先へと向かった。
「お疲れ様でーす!」
「おう、お疲れ。鈴木、今日は仕込みが多いから早めに仕事につけ」
「あっ、はい」
鈴木はすぐに、すでにシフトインしている遥の姿を探そうとキョロキョロしていたが、料理長にうながされて仕方なくロッカー室へと向かった。
「あ、俊也くん、お疲れ様。・・・ご飯食べにいくの忘れないでね」
「あっ、は、遥ちゃん。う、うん、わかってる」
(ああ・・なんて可愛いんだろう。このユニフォーム・・本当によく似合ってるなあ。)
淡い黄色の制服からは、うっすらとブラの線が透け、制服を持ち上げている乳房が見事な隆起をつくっている。ヒップにしても、スカートのサイズが小さいのかハッキリと肉感をあらわしており、そのムッチリとした様子には誰もが堪らずに目を向けてしまう。
そんな美貌にも当の本人は気付いていないらしい。洒落っ気が少なく、どこか垢抜けていないのだ。しかし、この純朴な性格が同世代の男性はおろか、既婚者までをも虜にしているのであった。
「おーい、森下!」
「えっ、あっ、加藤さん」
せっかくの雰囲気を邪魔してきた突然の割り込みに、鈴木の表情が曇っていく。
「今日、飲みにでもいかねーか?お洒落でバッチリなとこ見つけたんだよ」
(えっ!な、なんだと?・・・は、遥ちゃん・・・)
「あっ、あの、今日はちょっと・・その・・約束があるんで・・ま、また今度さそってください、すみません」
「・・そうか。約束があるんなら仕方ねーな。じゃあ、来週は必ず付き合ってくれよ」
「は、はい」
加藤は、つり上がった細長い目をさらに細めると、遥の肩をポンポンと叩きその場をあとにしていった。
(加藤さん、もしかして遥ちゃんのことを狙っているのかな・・・)
鈴木の脳裏に不安の文字がよぎっていく。この加藤という男、鈴木達よりふたつ年上の大学生で、ひょろりと痩せてて背が高い。色黒の肌につり上がった目が怖い雰囲気をつくっているが、けっして悪い人物ではなく人当たりの良い話し上手な優しい先輩であった。
が、しかし、彼のまわりにはとんでもないような黒い噂がいくつも飛び交っていたのであった。
「おい、聞いたか? このあいだの合コン」
「ああ、お持ち帰りした女のことだろ、昨日本人から聞いたぜ。すごいのを撮ったらしいな」
「あの話って本当なのかな? いくらなんでもその日知り合ったばかりでヌードなんか撮らせねーだろ。しかも小便までぶっかけてんだろ?」
「ほんと、不思議だよな。なんであいつだけいつもあんな可愛い子をお持ち帰りできるんだ? 成功率一〇〇%だぜ、信じらんねーよ」
「あ、そういえば、あいつのホームページ見たことあるか? マジすごいらしいぜ」
「ああ、そうらしいな。ハメ撮り画像の販売でかなり稼いでるって聞いたことあるよ」
「ばか、ハメ撮りどころじゃねーって。一度あいつのホームページ覗いてみろよ。半端じゃなくエロいから」
「なあ、遥ちゃんもやばくないか? 加藤の奴、本気で狙ってるみたいだし。もしかしたら近いうち、ネット上にあの巨乳が出まわるかも知れないな」
「ああ、心配だな・・・遥ちゃんって騙されやすそうなタイプだもんな。・・・でも、ちょっとは見てみたい気がするな」
鈴木にとって、耳を覆いたくなるような会話が最近は毎日のように耳を刺激していたのである。絶対に遥ちゃんは僕が守ってみせる・・・胸にかたく決意すると、加藤の後ろ姿をジッと見据え、おおきく深呼吸した。
「お疲れ様でした!」
バイトが終わった鈴木と遥は、その足で帰宅途中にある和風居酒屋へと向かった。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
酒はあまり飲めない鈴木であったが、遥に勧められるとついつい調子にのってビールを注文してしまう。しかも、何故か苦いだけのビールが、今日はとても美味く思えるのだ。
いつにも増して喉が乾いていく鈴木は、一杯目をあっという間に飲み干した。その一杯で酔いがまわりだしたのか、鈴木の目じりがトロンとなさけなく垂れ下がってきた。
「俊也くん、このヤキトリ美味しいね。私、実はお酒あんまり飲めないんだけど、今日のお酒はとっても美味しい。何杯でも飲めちゃいそう」
「ぼ、僕も実はあんまり飲めないんだよ。で、でも、僕も遥ちゃんと同じで今日のビール、なんだかとっても美味しく感じるんだ」
そう言うと、二杯目のビールグラスに口をつけゴクゴクと喉を鳴らして飲んでみせた。
一方、ピーチハイを飲んでいた遥もアルコールがまわりだしてきたのか、頬を熟れた桃色に染めあげ、大きな瞳が艶やかに潤みだし、妖しいまでの色気が滲み出ていた。また、気だるそうな仕草がなんとも妖艶でありエロティックだ。鈴木は、そんな遥におもわず見とれてしまい、ポカンと間抜けな表情をしては遥の笑いを誘っていた。
「俊也くんは好きな人とかいるの?」
「えっ?・・う、う〜ん・・い、いるのはいるけど・・」
唐突な遥の質問に、遥ちゃんのことが好きだ・・・一瞬この一言が脳をよぎったが、結局はしどろもどろの答えしかかえすことができず、アルコールで真っ赤に染めた顔をうつむきかげんに、キョロキョロと目だけを泳がせた。
「・・は、遥ちゃんは、ど、どうなの。・・す、好きな人は・・い、いるの?」
「・・・・・・」
鈴木は、怖いくらいにドキドキしていた。同時に聞くんじゃなかったと、すぐに後悔もした。下手すると、この瞬間にも恋が終わってしまう可能性さえある。緊張で顔面を強張らせている鈴木の顔を、上目遣いでジッと見つめていた遥がゆっくりと口を開いた。
「・・・いるよ。同じ大学なんだ。・・・う〜ん、なんていうのかな・・同じ講義を受けているうちに・・そうね、一目惚れってやつかな?・・不思議なんだけどね、妙にその人とはいろんな偶然が重なるの。そのうちにね、なんだか運命みたいなものを感じてきちゃって・・ふふ、だからいま毎日が楽しいんだ」
(なんだか僕の場合とよく似ているな・・ま、まさかね・・)
その後、しばし楽しい時間を過した二人は、店をでて家路についた。
「俊也くん明日は何限目からなの?」
「えっとね・・二限目からだったかな」
「あっ、私も二限目からだ。本当によく重なるな・・」
「えっ?」
「あっ、いやなんでもない。じゃあまた学校いくまえにチャイム鳴らすね・・あっ!」
足を絡ませてバランスをくずした遥を、咄嗟に鈴木は両手をさしだして、脇を抱えた。
「あっ、ご、ごめんね俊也くん。・・あ、ありがとう」
「い、いや。だ、大丈夫?飲みすぎたんじゃない?」
「うん、大丈夫。じゃあまた明日ね。おやすみ」
「お、おやすみ・・」
ガチャ、ガチャ・・バタン・・ニコニコしながら部屋に帰っていく遥を見送っていた鈴木は、しばらくその場に立ち尽くし、両手に感じた遥の柔らかな肉感と、いまもなお鼻腔の奥に残る甘い香りに酔いしれた。
(は、遥ちゃん・・もしかしたら僕に好意を抱いてくれてるのかな・・ああ、どうしよう好きで好きで堪らないよ・・)
部屋にもどるとすぐにシャワーをあびた鈴木は、部屋の電気をすべて消し、高揚したまま敷きっぱなしの布団にゴロンと寝っころがった。
(・・いい匂いがしたな・・あの肌の感触・・)
目を瞑ると、つい先ほどの出来事が鮮明に頭の中で甦り、脳が淫靡な分泌物を次々に吐きだしてくるようだ。(・・は、遥ちゃん・・・あ、ああ)無意識のうちにこんもりと膨らんでいる股間を掌で上下に擦り、揉んでいく。
(・・あ、あ、・・遥ちゃん)
ウズウズする性欲に耐えられなくなった鈴木は、トランクスから己のいきり立つ一物を取りだすと、それをゴシゴシと強く擦った。興奮状態から繰り出される手の動きは終始活発で、睾丸から快楽の淫液がうねりをあげだすのにそう時間はかからなかった。
「ハアハア・・あ、あ、・・んあっ!」
妄想上の遥がパンティをずらしたところで鈴木のペニスは緊張の糸を切らした。小さく唸り声をあげながらドロドロとした白濁液を放出していく。
「ハアハア・・んは、・・ハアハア・・んっ?」
大量の白濁液を吐き出しても、いまだビクンビクンと脈をうつ肉棒を軽く擦ってなだめていると、遥の部屋のほうからなにやら妖しげな声が聞こえてきた。
硬直する鈴木の全神経が隣へ向けられていく。
・・あ・・あ・・・んん・・・
(ん?・・は、遥ちゃん?・・なにやってんだろう・・)
なにやらくぐもった声ですすり泣いているようにも聞こえる。心配になった鈴木は、暗い部屋の中をゆっくり立ち上がると、物音をたてないよう慎重に壁側まで歩み寄り、壁に耳をつけた。
(んっ?・・・・はっ!)
・・・あ、・・んん・・・はあ、
(・・・ま、まさか!)
壁にあてた耳をさらに強く押しつけた。
壁伝いに聞こえてくるその声は、普通の泣き声とは違い、どちらかというと喘ぎ声に近かった。鈴木の目が、ギョッと大きく見開いた。
(は、遥ちゃんが、オ、オナニ―を・・・ま、まさかうそだろ?)
あの遥が、まさか自慰行為をするなどとはとても信じられない鈴木は、僕の勘違いではないのか、と、あらためてその声に神経をかたむけた。
|