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[FT]移民問題はEU離脱の理由にならない(社説)

2016/5/9 15:50
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 英国が6月23日に欧州連合(EU)からの離脱を決めるとすれば、その原因は移民問題に対する怒りだろう。ヨーロッパの人々が英国に住んで働く権利よりも、英国のEU離脱「ブレグジット」を支持する有権者にとって、それ以上に心配な問題はない。移動の自由というEUの原則は、域内のより貧しい国の人々が英国で就業し、公共サービスを圧迫し、福祉制度に依存するのを助長すると多くの英国民が考えている。英国が国境の「管理を取り戻す」というEU離脱派の訴えは、こうした英国民にとって力強いスローガンなのだ。

ドーバー海峡を臨む船着き場で、移民に反対する人々の脇に待機する騎馬警官=PA・AP
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ドーバー海峡を臨む船着き場で、移民に反対する人々の脇に待機する騎馬警官=PA・AP

 英国民が感じている移民に対する懸念はいくらか理解できる。EU加盟国から英国に渡ってくる移民の数は、経済成長に伴い過去数年で急増した。歴代首相によるこの問題への対応もまずかった。ブレア元首相が2004年の東欧諸国のEU加盟後にこれらの国々から英国にわたる移民の数を著しく低く見積もっていたことから、移民は制御できない状況にあるとの疑念が広がった。キャメロン首相は移民の純流入数を「数万人」に抑えると約束し、ミスを重ねた。EUには移動の自由という規則があるため、この約束を実現するのは不可能だ。15年9月までの1年間で移民の数は32万3000人にのぼった。

 だが、政治家への不信感で経済面での事実に対する有権者の目が曇ってはならない。移民の流入で英国民が仕事や給与で被る損失についての議論の多くは誇張されたものだ。英国の労働市場は柔軟で、移民の流入で仕事を失った多くの被雇用者はすぐに別の仕事を見つけている。また、域内からの移民は、賃金に対して目に見えるような影響を及ぼしてもいない。英国政府の政策――例えば国の最低賃金を上げることや給付金を削減することなど――のほうが、給与によほど大きく影響する。

 英国の一部地域では、域内からの移民急増が病院や学校の受け入れ能力を圧迫している。また英国中で、もともと深刻だった住宅不足が悪化している。だが、移民によって福祉制度が破綻するという議論は根拠がない。域内からの移民は英国民の平均年齢より若く、扶養家族としてではなく働くために英国に渡る人々が圧倒的に多い。英国の財政を悪化させるより、貢献のほうがはるかに大きいのだ。

 どこの国でも、受け入れられる移民の数には必ず限度がある。離脱派は、英国がEUにとどまればEUの拡大に伴って移民の流入も増え続けると主張する。だが、04年のEU拡大の衝撃が繰り返される可能性は低い。既存加盟国からの移民はこれまでずっと英国への移動の自由を享受しており、英国で働きたいという欲求はおそらく既に満たされているからだ。EUに新たに加盟する可能性が高いのはバルカン半島の小国で、英国はこうした国々の加入に対する拒否権を持っている。

 EUから離脱すればたやすく自由な移動を禁じることができるとほのめかす離脱派の論拠はさらに弱い。たとえEUを離脱しても、英国の輸出高のほぼ半分を占める5億人の消費者を抱える単一市場に参入する権利は維持したいだろう。しかし、EUに加盟していないノルウェーやスイスは、域内市場に参入するための取り決めで、域内の人々の自由な移動を許すことが求められてきた。英国も、同様の妥協案の受け入れを間違いなく求められるだろう。

■住宅不足、教育問題…まず失政の解決を

 英国の社会問題や経済問題で、本来なら政府の失策が指摘されるべきところで移民が非難の対象になることがあまりにも多い。英国は、移民がいなくても需要が圧倒的に上回っている住宅の供給量を大きく増やす必要がある。また、閣僚は英国の白人労働者の子供たちの低い学業成績にも対処しなければならない。この積年にわたる問題を解消しない限り、加盟国からの労働者とどれほど競争するかにかかわらず、多くの若者が低賃金労働に従事することになるだろう。

 移民は世界中の国々で難しい政治課題になっている。だが、活力に満ちた経済国にとって、労働意欲のある有能な人々を他国から受け入れることは利点ばかりだ。英国は欧州にとどまり、域内からの移民の流入に対応するために住宅やインフラに十分な投資を行うべきだ。移民に対する英国民の不安は簡単には解消されないだろう。しかし、英国のEU離脱の代償はあまりにも大きすぎる。

(2016年5月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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