「久々の大型インフラ案件」。欧州債務危機からの回復の薄日が差し始めたロンドンの金融街シティーで今春、バンカーたちの注目を集めた案件がある。日立製作所が4月中旬に英政府との正式受注契約を発表した英高速鉄道の車両更新事業だ。欧州で過去最大規模となる総額4000億円のインフラ事業には、国内外の資金をたくみに呼び込む英政府の柔軟な戦略が垣間見える。
■官民連携で大規模な資金調達
「世界水準の鉄道システムを構築する」。マクロフリン英運輸相は宣言する。
プロジェクトでは、ロンドンから東北部のニューカッスルを経てスコットランドのエディンバラなどまでの約1000キロを結ぶ幹線高速鉄道の車両を日立が全面的に更新する。現在の車両は英国の旧国鉄時代に製造したもので、早期の更新が必要になっていた。環境に配慮した車両への置き換えや保守基地を新設、より多くの座席を配置し、時間を短縮する計画だ。
大がかりな事業内容の陰に隠れがちだが、金融界の注目を集めたのは、官と民が連携するPPP(官民パートナーシップ)方式による大規模な資金調達方法だ。
仕組みはこうだ。まず英政府が、日立製作所と英大手ゼネコンのジョン・ラインが共同出資する特別目的会社(SPC)に更新事業を発注。このSPCが借り入れ主体となり、三菱東京UFJ銀行を主幹事とした銀行団から車両の製造や保守基地の整備費用22億ポンド(約3800億円)を29.5年間の長期の協調融資で借り入れる。SPCは車両の運行会社からの運賃収入などの中から融資を返済していく。
融資には国際協力銀行が8.5億ポンド、日本貿易保険が1億5000万ポンドをそれぞれ融資や保険引き受けをするなど日本政府も全面的に支援。2010年の欧州債務金融危機以降、欧州で官民が協力する最大規模のPPPがらみの資金調達となり、「欧州金融の復活」(シティバンク幹部)を印象付けた。
もっとも、注目すべきは金額の大きさだけではない。契約内容のいたるところに、民間資金を効率的に呼び込もうとする英政府の姿勢がにじむ。