社内スキルアップのためのUXデザイン教育とコツ
UXチームの宮村です。
2015年度はUXデザインの理解・スキル向上のための社内教育を強化し、様々な取り組みを行いました。その中で、講師として気づいた初心者が陥りやすい点などをまじえながら、教育内容についてご紹介したいと思います。
2015年度に行った教育施策は以下の通りです。
- 新卒向け
(社会人未経験) - UXチームの若手UXデザイナー向け
(20代〜30代前半のディレクター経験者や他業界からの転職者など) - 事業部向け
(UXチーム以外の、ディレクターや営業など様々な職能のメンバー向け)
などなど。
それぞれ複数回、数種類のUXデザイン教育をかなり手厚く行っています。今回は、2〜3月に実施した事業部向けのUX視点強化のための教育施策について紹介します。
トレーニング内容について
今回のUXトレーニングでは、以下の目的・目標を掲げて実施されました。
目的:「あるべき姿」(仮説)を導出し、その仮説に基づいた
本質的な課題の発見、課題に対して機能する提案を行う力を強める
目標:事業部メンバーのUX視点の強化
実施内容は大きく分けて以下の4つです。
- キックオフ&講義
- ユーザー定義(ワークショップ形式)
- カスタマージャーニーマップ&UXシナリオ作成(ワークショップ形式)
- 設計方針・施策プランニング(ワークショップ形式)
上記の内容を約1〜2ヶ月間かけて実施しました。
キックオフ&講義
最初のキックオフでは参加メンバーを全員集め、今回行うUXトレーニングの内容に関する講義を行いました。
また、お題として、草津にある某ホテルのウェブサイトリニューアルというテーマを提示し、このトレーニングではこのホテルに予約をして温泉旅行に行くユーザー体験設計を行なっていくこととしました。よって、次回のユーザー定義が始まるまでの間に、各自リサーチを進めておくよう依頼をしました。
なお、講義内のユーザー定義の内容については、2015年11月に僕がヒカラボさんで登壇 させていただいた「UXデザインにおけるユーザー設計とは?」の資料を元に話をしていますので、興味のある方はご覧ください。
ここまでは参加者全員で講義を聞きましたが、この後の各タスクでは4つのクラスに分かれ、ワークショップ形式でトレーニングを進めました。
ユーザー定義
ユーザー定義では、設計対象サイトとリニューアル目的を踏まえた上で、どのようにセグメンテーションしてユーザーを捉えるべきか、セグメンテーション軸を考えるタスクから始めました。
軸をどのように考えていけばいいか?については講義にて伝えてあるものの、個人個人で軸を考えていくのは非常に難しい作業です。一番はじめにユーザー定義を行ったチームでは、軸を出すところでかなり迷走してしまいました。それを受けて、他のチームではチーム内でどのような軸が考えられるかをディスカッションして検討し、その中で各人が有望だと思われる軸を選択してセグメントを考えていく進め方に変更したところ、うまく流れるようになりました。
セグメンテーション軸の検討では、いろいろな軸を提示し、それらを掛け合わせ、セグメントをラフに作って考えることを如何に手早く試せるか? という点がポイントでした。軸をベースにユーザーを見出していくときによくあるのが「出てきたユーザーたちって結局行動に差が生まれないね。これだったら、全部同じユーザーにまとめちゃっていいじゃない?そうなると、今まで考えていた軸って……意味ない?」というケース。いくつかの軸を集中して深く考える人よりも、手を動かしていろいろな軸でどんどんユーザーを考えてみる人の方が、納得のいくセグメンテーション軸を見出しやすかったと思います。
セグメンテーション軸により、納得いくユーザーセグメント群が見出せたら、その中からある一つのユーザーセグメントをターゲットとして選定し、簡易的なペルソナとして定義していきます。今回用意した簡易ペルソナのテンプレート項目に沿って定義していきましたが、ユーザーの概要を表現することに戸惑ったり、ニーズや行動の具体化に悩んだりしながらも、概ねスムーズに進めることができました。題材的に、自分や自分の身近な人に置き換えて想像しやすかったからだと思います。ただし、特定個人のデモグラフィックな情報に寄り過ぎて定義してしまうことで、今後の設計につながるユーザー情報要素が非常に少ないペルソナを作ってしまう人もいました。何のためにユーザーを定義しているのか?その目的を忘れてしまうと、今後の設計の参考にしにくいユーザー定義となってしまうので注意が必要です。
ユーザー定義をうまく行うコツ
今回のユーザー定義の作例
この回の参加者コメント
- 非常に難しかったです。ワークショップ形式でやっていくことで自分だけで思いつかない軸が出てくることにメリットを感じつつも、広がりすぎたり狭い部分を追求しすぎたり、と迷うことが多い工程だと感じました。
- この軸が外れていると提案そのものがズレてしまう可能性が高いゆえ、より様々な角度から軸を検討できるスキル・ノウハウが自分には必要であると実感しています。
- ユーザーを考えるとき、いつも軸を選ぶところで悩んでいました。複数の軸を選びすぎて、結局よくわからなくなってしまうことが多かったので、軸の優先順位をつけて考えることをトレーニングできたことが非常に有意義でした。
カスタマージャーニーマップ&UXシナリオ作成
定義したユーザーを元に、ユーザー体験設計としてカスタマージャーニーマップとUXシナリオを作成しました。
初めにカスタマージャーニーマップを作成し、その次に、UX視点からの要件を見出すためにより詳細なUXシナリオを作成する、という流れで進めました。
カスタマージャーニーマップ
ここでは、全体的なユーザー体験を簡単に洗い出すために、カスタマージャーニーマップ作成ツールであるUX Recipe を使ってカスタマージャーニーマップを作成しました。このツールを使うことで体験要素を発想することに集中できたため、迷うことなく楽しく気軽に進めることができたと思います。「楽しく気軽に」、ここも結構重要なポイントだったりします。
カスタマージャーニーマップ上では、温泉旅行の始まりから終わりまでを含めた全体俯瞰的な体験要素を洗い出しました。よって、今回想定したターゲットユーザーが温泉旅行を計画し、草津のホテルを検討し、予約し、旅行を終えるまでのUXがイメージしやすく共有できる状態が生まれました。
今回のカスタマージャーニーマップの作例
UXシナリオ
温泉旅行全体のユーザー体験を俯瞰したカスタマージャーニーマップをもとに、「公式サイトを訪れ、他ホテルと比較しながら予約検討し、最終的に公式サイトで予約して温泉旅行を行う」という、体験をより細かく掘り下げる為のユーザー体験シナリオ(UXシナリオ)を作成しました。ここでは、ユーザー体験をさらに深掘りするだけではなく、そのユーザー独特の体験やサイトリニューアルの目的に沿ったUX視点での要件(UX要件)を一緒に導出します。
カスタマージャーニーマップでユーザー体験を大体整理できていたため、このステップもあまり迷わず進められていましたが、ユーザー体験を掘り下げる粒度や内容が乏しく、結果、UX要件をあまり出せていない人も見受けられました。どのような行動をしているのか? なぜそのような行動をしているのか? どのような状況で何を思っているのか? などから、そのユーザー独自の体験要素を明確にすることで、ユーザー体験設計の深みが生まれてくると思います。
カスタマージャーニーマップやUXシナリオなど、ユーザー体験を整理するステップでは、リサーチや仮説などにより定義されたユーザーを踏まえて、どのような体験が生じるのか? どのような体験を生じさせるべきか?(ここに無理や嘘があってはならない)を紐解かなくてはいけません。そして、施策や設計としてそもそも何をするべきなのか? 何を満たさなければならないのか? という本質的なUX要件をユーザー体験からしっかり見出し、それを今後のアイデアに活かせるようにする必要があります。
重要なこととして、UX要件はイコール施策そのものを見出すことではありません。施策とニアリーイコールなUX要件も当然ありますが、UX要件として見出すべきは「体験を成立させるために何を満たすべきか?という本質的なポイント」です。本質的なポイント=UX要件を具現化するにはいろいろな打ち手で実現できる可能性があり、その打ち手のアイデアの一つ一つが設計要素や施策となります。
ユーザー体験設計をうまく行うコツ
今回のUXシナリオの作例
この回の参加者コメント
- UX Recipeが楽しかったです。旅行先を検索して、予約してという何気なく行う作業を細分化して、感情の流れやどこで何をするかを視覚的に見えるかたちにしてみると、なるほど~こんな風に行動するのかとわかって面白かったです。ここからいろんな気づきがあって、気分が下がったときに課題がある、というのもほんとにそうだ! と思いました。
- 実際の作業では、いかにペルソナを理解し、ニーズや行動特性を理解できるかが、スムーズにシナリオを作成するポイントにもなると思うため、日頃の観察力やイメージ力が問われるなと改めて感じました。これまでも何度か案件でシナリオは作成していましたが、同じテーマで他の方のシナリオを見る機会がなかったので、特にその観点で参考になりました。
- シナリオの作成は、まだまだ理解が足りないなと感じています。UX要件を考える時は特に、シナリオが浅いせいなのか、うまく要件に落とし込めませんでした。レビューを受けて、シナリオが浅いのは最初に設定したペルソナを忘れがちになっているからだと気づきました。「このペルソナならではの~」という軸を見失わないようにすることが私の課題になるように感じました。
設計方針・施策プランニング
最後は、整理したユーザー体験と見出したUX要件を踏まえて、設計の方針を立ててもらいました。また、重要なUX要件を満たすための施策案をいくつか提示してもらいました。
設計方針は
- 設計コンセプト
- 設計のポイント
- サイト概要図
の3点で成り立たせました。この設計の幹となる考え方が、検討したユーザー体験やUX要件とちゃんと結びついているかが重要です。この段階に来て初めて、ちゃんと描けたと思っていたはずのUXシナリオやカスタマージャーニーマップ、ペルソナなどが、実は設計に対して必要な深みが全然足りていなかったことに気づく参加者が多かったと思います。
何をもって設計のコンセプトやポイントを見出すべきか? ユーザー体験設計を振り返ったときに、設計方針のネタをあまり見出せない場合は、ユーザー体験を掘り下げて整理できなかった証拠です。また、人によっては、今まで積み上げてきたユーザー体験設計の大半をすっかり忘れて、自分が単に思いついたアイデアを設計方針として提示してしまう人もいます。ユーザー体験と紐付いていない設計方針はUXデザインアプローチの正しい結果ではありません。
ちゃんとした設計方針を導き出せた人は、ユーザー体験設計に深みがあり、そこから何をするべきか大事な点をしっかり見出した上で、あるべき姿を組み立てられています。また、クライアントのビジネスやブランドを深く理解し、その価値とユーザー体験をうまく掛け合わせて見出しています。単にユーザー体験をきちんと把握できているところで留まっていてはいけません。そこから、これから設計する対象物(もしくは対象サービス)のコアな設計思想をきちんと創造する力が必要なのです。
今回のトレーニング体験の中で、そのことを体感/理解できれば、参加者として得たものがあったかと思います。
設計方針をうまく考えるコツ
今回の設計方針・施策アイデアの作例
この回の参加者コメント
- 設計のコンセプトを考える上で、「ユーザー定義」に立ち戻って考えることで、色々と見えてくることがありました。これまで、提案の方向性を考えるとき、ユーザー定義が曖昧なのであまり魅力的なものが出てこず、苦労したことがあったのですが、今後の提案でもユーザーがどんな人で、どんな体験か、を考えて導くことをクセづけていきたいです。
- 今までの中で一番難しかったです。軸を考えてペルソナからジャーニーマップやシナリオ作りを経て、今回のコンセプト作りに繋がるという一連の流れがすごく実感できました(そして、シナリオまでの過程が甘すぎると全然設計できないことがよく分かりました・・・)。「設計のコンセプトを考える」にだけに注力してしまうと、今まで考えたユーザーのペルソナやシナリオが置いてきぼりになったり、逆にそこを見すぎると全然思いつかなくなったり(シナリオがしっかり出来ていないのもあると思いますが)とかなりハードルが高かったです。
- 設計コンセプトのイメージは、シナリオを作成していることもあり、漠然とではあったものの、すぐに出せた気がします。ただ、シナリオ作成時やUX要件の落とし込み時に迷いがあったためか、設計のポイントを出すのに苦労しました。
おわりに
全チームがトレーニングを全て終えたタイミングで、全員を集めて各チームの代表者に発表をしてもらいました。その中で一番良いとみんなが投票した人を最優秀者として表彰し、各代表者や参加者にも賞状を配るなど、イベント化して楽しく最後を締めくくりました。
受講後に取ったアンケートでは、
- 今回の講義は為になったと思いますか?
「とても思う」「思う」が100% - 講師の教え方はわかりやすかったですか?
「とても分かりやすかった」「分かりやすかった」が100% - 今回の講義を受けることを人に勧めますか?
「強く勧める」「勧める」が87.5% - また参加したいですか?
「はい」が81.25%
と、非常に良い回答をいただくことができました。
このトレーニングを通じて、参加者たちが
などの態度変容をしてくれることを期待しています。
嬉しかったのは、参加者の営業の方が、今回のUXトレーニングを参考に営業レベルでお客様とのUX勉強会を開いてみた、という活動報告を早速してくれたことです。様々な立場の人が、今まで以上にUX視点で動き始めてくれることこそ教育により強化された証であると思いますので、このような反応は一つの大きな成果だと感じました。
最後に、今回の取り組みにおいて、工夫した点を幾つかまとめます。
- 小人数のチームに区分け
今回は多くの参加者を集めて実施しましたが、小人数のチームに区分けすることで、教育のスケジュールが調整しやすく、かつ、講師が各参加者の成果を細かく見ていくことができました。最初の講義と最後の発表・振り返りを全員集めて行ったため、全体的な統一感も保てました。 - リフレクションと成果物の適時共有
各回ごとに、参加者と講師がGoogleスプレッドシートにリフレクションとしての参加コメントを記述しました。また、成果物をGoogleドライブで共有することで、どのチームの講師/参加者であっても、他の人たちの進め方や成果、考えや課題を把握できるようにしました。作業中の宿題を共有し、その内容に対して講師が途中段階でコメントする、という動きも行っています。 - 課題・悩みの適時共有
ChatWorkを活用して、各チームや講師&アシスタント陣それぞれの連絡事項だけでなく、トレーニング上の課題や悩みを素早く把握できるようにしました。それによって、先に講習内容を進めていたチームの知見を、後から進めているチームに反映させていくなど、フレキシブルな改善を図っていくことができました。 - グループワーク→個人ワーク
当初は各チームで個人ワーク中心に時間内に課題を終わらせる予定でしたが、UXデザインの経験や知見の浅い参加者が多かった今回のケースでは、その進め方では難易度が高いことがわかりました。よって、グループワークにて考えるべきネタを出し合い、それを昇華させていく部分を個人ワークとし、やりきれなかった作業は宿題とすることで、うまく回るようになりました。グループワークと個人ワークの行き来があることによって、進めやすくなるだけではなく、得るものの深みが出たという利点もありました(ただし、宿題が多くなってしまって、そこが通常業務との兼ね合わせでかなり参加者に負担をかけてしまうことになりました)。 - 楽しいイベント化
全員が集まった発表会では表彰を行うなどイベント化することで楽しい教育体験としました。 - 今後の教育内容への改善
トレーニングが終わった後、講師陣で振り返りを行い、次回どのような内容にアップデートすべきかを議論しました。改善しながら、2016年度もこの取り組みを続けていきます。
ということで、今回は弊社内でのUXデザインを強化するための教育の取り組みの一例を紹介させていただきましたが、いかがだったでしょうか?
なお、社外においても同様のトレーニングを提供することが可能です。ご興味がありましたら是非ご相談ください。
デジタルマーケティングプロデュース事業部
ソリューションデザイングループ UXチーム
UXデザイナー 宮村 和実 ( 記事一覧 )
2001年より、ネットイヤーグループ株式会社にてIA/UXデザイナーとして活動。情報アーキテクチャやユーザーエクスペリエンスデザインの専門家として、UX/UI設計や評価に従事している。クライアントやパートナーなど関係者を巻き込んで、設計のディスカッションを行うことが多い。また、社内でのIA/UX教育も進めている。
UXチームについて
クライアントビジネスの課題の本質や、誰も気づかなかった課題を、ユーザーの行動データやインタビュー、経験知から導出・発見。その課題解決に向けて、ユーザー心理・行動に沿った最適なシナリオを描き、それを具現化するコンテンツや機能、ソリューションを設計(デザイン)していくチームです。経験者絶賛募集中!
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