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アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と- 作者:一星

第三章 里での生活

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六話 買い物

 朝起きても隣に寝ていたキャスが、俺に抱き着いている訳でも無く、普通の目覚めで今日を迎えた。昨日までの宿では五月蠅かった朝の喧騒が、遠くに聞こえる事がこの宿の立地の良さを伺わせる。

 俺が起き上がった事でキャスも目を覚まし、朝の挨拶を交わしてお互いベッドから降りた。ソファーに座り少しボーっとした所で、備え付けてあるベルを鳴らし、水の入った桶とタオルを持ってこさせる。昨日預けておいた俺等の服も、同時に持ってきてくれたので、顔を洗った後に今のパジャマ姿から自分の服に着替えた。

 メイドに尋ねてみた所、追加を支払えば朝飯も食べられるらしいので、簡単な物で良いので用意してもらう事にした。直ぐ用意できるとの事なので、キャスの着替えも終わった事を確認して、一階フロント脇にある食堂へと足を進めた。

 朝食はパンと卵焼きにサラダと、日本でもおなじみのメニューが出てきた。
 大分慣れてきたが、醤油が無い事を少し残念に思いながら食事を終えた。
 食後の飲み物には、バラの香りがするハーブティーが出された。それを飲みながら今日の予定を改めて考えていると、支配人に声を掛けられ軽く挨拶を交わした。
 キャスも飲み終わった所で、宿から出る事にする。
 高いだけあって良い体験が出来た。それ以上にこの世界における高級品の一部に触れる事が出来たし、支配人との話はとても実りのあるものだった。
 支配人に宿の扉を開けてもらい、俺等は宿から出た。

 今日はキャスを連れて買い物をする。昨日は金が無くなって買えなかった物や、大量に手に入れたい物があるので、一時的に保管できる場所を確保しに行く。事前にキャスには当たりを付けてもらっていたので、その場所に出向き今日一日場を借りたいと、交渉しに行くことにした。

 キャスの案内でたどり着いたそこは、町の中心から少し離れた場所ある倉庫で、使っていた店が閉店した為に今は使われていない場所らしい。
 その倉庫に隣接する建物に住んでいる持ち主を訪ね、一日大銀貨一枚で使わせてもらえる事になった。

 場所も確保する事が出来たので、早速買い物に向かう。
 朝だけあって商店街はそれほど込み合ってはいないが、所々で値段の交渉が行われているのが目に入る。客側も商人の様だが、値段交渉は基本の様だ。まあ、俺は知識もないし、キャスにしてもこの辺の知識は少ないだろう。平均的な値段だけ調べてその価格で買えればいいと考えた。

 それ程考えを練った訳では無いのだが、今後の事を考えて欲しい物が数点ある。この街に来てからの情報収集のお蔭で、大分方向性は決まっているのだ。

 まずは食品関係だ。マジックバッグのお蔭で腐る事は無いので、大量にストックできる。
 穀物、芋類、豆類に果実、それらに加え塩や油など、それらを百キロ単位で買っていく。一か所の店では用意が出来ないので、数店舗を回り集めて行った。
 その全てを借りてある倉庫に運ばせて、次に酒を買いに行く。
 この世界の酒はワインが主な物で、他にもエールや蜂蜜が入った酒などがある。子供の俺が飲んでも、この世界では問題視されないみたいなので、本当に少しずつだけ試し飲みして、ワインやエールを樽に詰めて買って行った。

 次に向かったのは昨日も来た木製品の店だ。昨日の宿で思ったのだが、何時でも取り出せるなら家具を持っていても良いだろうと思い、この機会に買っておくことにする。
 また、近いうちにゴブリン達の集落にもいく予定なので、彼奴らにお土産としても購入したい。
 椅子や机など数十点を買占め、店員のお姉ちゃんの清々しいまでの笑顔と、職人のおっさんの嬉しそうな売る物が無くなったとの声を聞き、これも倉庫に送ってもらう事にした。

 その他、村では売っていない雑貨や染料、木炭や鍛冶、大工の道具や調理器具に色々な素材などを買い込み気付いたら昼になっていた。
 キャスは文句も言わず付き合ってくれていて、むしろ上客扱いされる事に笑顔を絶やさずにいた。買い物ってストレス発散になるし、あれ程良い対応されたら楽しいよね。

 昼飯を食う為に移動していると、道の先に知った顔が居る事に気が付いた。

「や、やあゼン君! キャスさん!」
「こんにちは、ランドルさん何してるんですか?」
「あら、ランドルさん。こんにちは」
「こんにちは、キャスさん! いや、暇だから散歩でもしようと思ってね!」

 こっちに気が付くまで、すげえキョロキョロしてたけど、道にでも迷ってたのか? つい最近この街に来たって話だしそれもあり得るか。

「そうなんですか。それじゃあ俺等行きますので、また」
「そっ、そうかい? 魔法で分からない事があったら僕に聞くんだよ? 絶対だよ?」
「は、はい」

 そう言ってランドルとは別れた。

 何か物凄い緊張してたが、キャスを目の前にしてるとヤバいぐらい挙動不審になるな。キャスが気にして無いのが本当に救いだぜ……。
 キャスに「あんな怪しい奴と付き合うな」とか言われたら、俺の心が痛くなるもん。

 そうこうしている内に今日の昼飯を取る為に向かっていた店に着いた。何と今日は米を食べる。宿屋の支配人のアルドーから聞いて食べられる場所を教えてもらったのだ。ただ、米と言っても日本で食べられている短粒種のジャポニカでは無く、タイ米などで有名な長粒種の米で、出された料理はパエリアだった。
 この事は既に聞いて知っていたので、別に落胆などはしていない。兎に角、米が食べられるだけで良かったのだ。
 米はこの地方ではそこまで食べられていないらしく、南の方から運ばれてくるとの事だ、もしかしたら短粒種も見つかるかもしれない。南には海もあると言うし、いつかは行って見たいものだ。

 久しぶりの米料理を平らげ、買い物タイムを再開した。
 最早、俺に奢られる事に何の疑問も持たないキャスと、夜は魚を食うか肉を食うかと相談しながら次の目的地へと歩いていく。
 次の目的地は昨日も来た職人街だ。
 今回は俺の防具を買う為に訪れる。昨日もこの通りには来たのだが、俺は先に魔法の道具が欲しかったので、防具に関しては後回しにしようと思っていたのだ。

 職人街を歩き何軒もある店を見ているが、別にどこで買っても変わらなそうだったので、俺は適当な店を選んで入ってみた。
 店に入ると作業を中断した、弟子らしき青年がこちらに向かってくる。挨拶をそこそこに、俺は防具を求めている事を告げると、店の主人であろうハゲたオッサンが声を掛けてきた。

「お坊ちゃん。予算を教えてくれます?」
「鉄で軽めの鎧を作ったら幾らぐらいなります?」
「そうですね、お坊ちゃんは体も小さいし少し安くなりますね。まけて金貨一枚でどうでしょう」

 キャスの顔を見てみると、うんうん言っているのでこんな物なんだろう。大した金額でも無いのでこれで決定でいいか。

「それでお願いします。出来る限り軽い感じに作ってください」
「ほう、機動性重視ですね。それなら胸当てと腕と足を守る物が良いですね。下半身は革で作りましょう」
「よろしくお願いします。どれ位で出来ますか?」
「今日はもうやる仕事も大半終わってますので、明日の昼には出来ますよ」

 体のサイズを測られ、どんな物が出来るかを、出来合いの物を参考に説明を受けた。他にも店に置いてあった出来合いの武器を、鑑定で品質の高い物だけ選んで数種類買っていく。一通り見た所、九割方が高品質だったので、鎧の方も期待できるだろう。

 これで今日の買い物も終わったので、倉庫に向かい歩いていく。今さっき買った武器は二人で持っても重いので、早めに路地に入ってマジックバッグに収納しておいた。

 倉庫に着くと頼んでいた物が、昼を挟んだからか全て届いていた。受け取りは倉庫を貸してくれた、夫人がしてくれていたみたいなので、お礼として購入して倉庫にある家具を一点差し上げる事にした。
 倉庫の荷物は馬車で運びますと夫人には説明をして、後の事は任せてもらい家に戻ってもらった。
 夫人が離れた事を探知で確認してから改めて周囲の気配を探り、倉庫に運ばれた物を一気にマジックバッグに収納していった。
 キャスは改めて見たマジックバッグの性能に、度肝を抜かれていた。これだけの容量が入るのは国に一つあるかと言うレベルらしい。
 なので、これだけ入れてもまだ容量の十分の一も、使っていないのはうるさそうなので秘密にしておいた。

 少し休憩をしてから倉庫を閉め、夫人に鍵を返し用は済んだとお礼をする。別れ際にもらった芋を蒸した物を食べながら、今日また泊まる華の乙女亭へと歩いて行くと、宿屋の近くでランドルにまた出会った。
 どうやら散歩をしていたらしい、この街は広くは無いが歩き回れば数時間は掛かるし、良い暇つぶしになるんだろう。本人は偶然出会えた事を嬉しがっていたし、俺も彼が好きなのでうれしい。

 ランドルと少し話をしてから、俺とキャスは宿に入った。別れる時にさびしそうな顔をしていたが、彼は自分の仲間とはつるまないのだろうか? あぁ確か同じパーティーの子に振られたとか言ってたっけ。もしかしたら、顔を出し辛いのかもな。そうじゃないとちょっとヤバそうな行動してる気がするから、自重してほしいわ……。
 まあ、彼の事は良いだろう。彼もパーティーがあるのだ、どの道この街だけの関係になるのだろうから。



 今日は頼んであった靴と鎧を受け取ったら、帰る事にした。
 定期で来る馬車はあと数日待たなくてはならないのだが、他にすることも無く、観光も大して見る所が無いので、割高になるが一台馬車と業者を雇って直接帰る事にした。
 来るときに掛った費用の五倍程はするのだが、大した金額でも無いので懐が痛い訳じゃない。成金ポイ考えだが、早く村に帰ってポッポちゃんに会いたいので、金なんてどうでもいいのだ。

 朝飯を食べた後部屋でボーっとして昼前には宿屋を出た。すると、宿の前ではまた偶然ランドルが立っていた。

「おはようキャスさん、ゼン君」
「……おはようございます」
「お散歩ですか? よく会いますね」

 よく会う? ランドル……、君はもしかして……。

 数度の会話で大分ランドルも、緊張が解けているみたいで成長が伺える。どう考えても偶然じゃない出会いなんだが、キャスは一体どう思っているのだろう?

「そうなんですかー。私たち今日この街を出るんですよ」
「えっ!? キ、キャスさん本当ですか!?」
「わっ! びっくりした。 驚かせないで下さいよ。今日の昼にはこの街出るつもりですよ。ね、ゼン君」
「うん」
「そ、そんなぁ……」

 俺そっちのけで二人で話していたのだが、街を立つと知ったランドルが物凄い顔をしている。お前その顔、昨日も振られた後にしてた顔だろ。

「ど……」
「ど?」
「ど、何処なんですか村は?」
「えーっと、ブロベック村なんですが、分かります?」
「北の森の近くの村でしたよね」

 これはやはりストーカーが一人生まれたか!? いや、別にキャスは嫌がってないし良いか。

 その後ランドルとキャスの世間話も終わり別れる事となった。俺が結構ないがしろにされてた気がするが、ランドルの全神経をキャスに集中する姿を見せられていると、むしろ頑張ったと褒めてやりたくなった。
 ランドルと別れ少し歩いた所で、気になった事をキャスに聞いてみた。

「ねえ、キャス姉って恋人とか居るの?」
「はっ!? な、何言ってるのかな君は!?」
「何でそんな身構えるんだよ……。居るのか聞いてみただけじゃん」
「いくらゼン君がお金持ってても、君は子供なんだからね?」
「そういう意味で聞いたんじゃねえし……」

 うむ、こいつ間違いなくいねえわ。まあ、親父さんが死んでから大変だったって話だし、そんな余裕も無かったのかも知れないな。今ランドル押しをして、下手扱いても彼が可愛そうだし、放って置く事にするか。

 靴屋に向かいながら俺がそんな事を考えていたら、何時の間にか店の前までたどり着いていた。店に入ると店員の爺ちゃんが声を掛けてくる。

「坊主来たか。もう出来てるぞ、履いていくんだろ?」

 そう言い、カウンターの近くから俺が注文をした靴を出してくれた。形状は所謂ブーツだ。素材が気になり鑑定してみると、ワイルドブルと出た。名前の通り牛の革なんだろう。

 靴屋の爺ちゃんが地面に置いたそれに、足を突っ込んでみると少し大きい。すると、すかさず爺ちゃんが布を詰めてくれた。どうやら成長する事を考えて少し大きめに作ってくれていたみたいだ。詰め物をすれば問題なく履けるので、もう片方にも詰め物をしてもらい店を出た。

 新品の靴だけあってまだ全体的に硬いのだが、そのうち慣れるだろう。しかし、そんな硬さに違和感を感じる以上に、靴を履けた事が嬉しい。
 この世界に来ていきなり全装備を失って以来、遂に普通の人間の格好をしたような気がする。
 しかもこの靴、日本でも普通に売ってそうな位質が良い。全て手作りの靴は日本でもあったし、この世界はスキルがある。もしかしたら手作りの質はこの世界の方が高いのかも知れないな。

 キャスに靴屋は何のスキルを使っているか聞いてみると、意外な事に裁縫だと言う。どうやら革関係は裁縫に属するらしい。そう言われれば革を切って加工して縫って作り上げる靴作りは確かに裁縫スキルの範疇だと思えた。

 そんな話をしながら、次の目的である鎧を取りに行く。
 程なくして着いた店の扉を開き、扉近くにいた弟子の青年に声を掛け、俺の鎧が出来ているか尋ねる。
 すると、奥からハゲた店主が出て来て俺の鎧を用意してくれた。

 服の上からでも着れるタイプなので、今の格好のまま店主に手伝ってもらい着けていく。店主がサイズのチェックや曲がり具合を確かめて、微調整後引き渡しとなった。

 出来上がった鎧は五キロ以上ありそうだ。鉄の素材の鎧は弱点となる場所や、良く衝撃を受けるであろう部分を厚くして、その他は薄くする軽量化を図ってくれている。
 頭部を守るヘルムは頭がすっぽりと入り、顔の部分は出るが、耳から後頭部までを守れる形だ。上半身は革を下地にして胸、肩、腕を鉄で覆い、その他の腹部等には、硬い皮が使われている。下半身は部分部分を硬く加工した革で作ってあり、脛の部分は鉄で覆われている。

「時間が無かったから細工は出来なかったが、これなら狼程度に噛みつかれても、固い部分なら牙は通らないだろう」

 鍛冶屋の言うとおり確かに硬い部分なら、噛まれても問題なさそうだ。狼以外でもゴブリンが棍棒で殴ってきても無傷で耐えれるだろう。
 鑑定でチェックしてみても、全て高品質なので確かな品な事は分かった。金貨一枚ならいい買い物だろう。

 俺は慣れる為にも、このまま着ていく事にして店を出た。
 武器は持っていないが、これで子供ながらいっちょ前の冒険者に見られるのだろうか?

「キャス姉、どうよ?」

 俺はキャスに向かってポーズを取り自分の恰好を確かめさせた。

「強いの分かってはいるんだけど、初めて冒険に出ますって感じで可愛いわ」

 なんてキャスは頬を抑えながら言っている。
 まあいいか、今は子供の体だし可愛いもありだな!

 こうしてこの街でする事は一先ず終わった。満足の行く収穫が多くあり、今は難しいが、きっといつか活かせる日が来るだろ。

 その日のうちに帰りの足を探して、俺等は村へと戻ったのだった。
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