ラーメン名店の味、今こそ復活
熊本ラーメン発祥店の一つとされ、1月末に閉店した熊本市の「こだいこ」のラーメンが、熊本地震の被災者を元気づけるために熊本県菊陽町の店で提供されている。こだいこの元店主、村田峰年さん(82)は「昔からの熊本の味で少しでも皆さんを元気にできれば」と話している。
こだいこは1954年、同県玉名市で豚骨ラーメン店「東洋軒」として創業。57年に熊本市に移転して改称した。豚の頭骨のみを3日間、鉄釜でじっくり煮込んで取ったスープは臭みがない。麺は中太の卵麺。ラードを使い、塩味に仕上げる。熊本ラーメンでは外せない焼きニンニクのトッピングは全て自家製だ。熊本に豚骨ラーメンブームをもたらす店の一つとなり、県内外からラーメン好きの芸能人も通った。
創業から一人でスープの仕込みをしてきた村田さんは3年ほど前、脳梗塞(こうそく)で倒れた。店は続けたが体調を崩すことが多くなり、「動けなくなったからやめましたというのは嫌だ」と1月末に店をたたんだ。
閉店後間もなく、「麺空間 灯(あ)かり」(菊陽町光の森7)のオーナー、清元貴史さん(41)が「こだいこのラーメンは熊本の大事な文化。もっと多くの人に食べてもらいたいから作り方を教えてほしい」と後継ぎを志願。これまで後継者を育ててこなかった村田さんも、熱意に押されて極意を伝えた。新生こだいこラーメンは、全国のご当地ラーメンを集めたイベントなどで出展された。
そんな中、熊本地震が起きた。熊本市北区にある村田さんの自宅は、窓が全て割れ、壁も崩れて生活が困難となった。しかし、隣の工場にある鉄釜は傷一つ付かなかった。村田さんは「もう一度スープを作れと言われているような気がした」。
4月18日にスープの仕込みを再開し、20、21日に「灯かり」で炊き出しをした。計約400食のラーメンとおにぎりを振る舞った。被災者やボランティアたちは「こんなにおいしいラーメンは初めて」「熊本のためにこのラーメンを残してほしい」と話し、涙を流す人もいたという。
「自分にできるのはラーメンを作ることぐらい。この一杯で元気になれる人が一人でもいるのなら、作り続けないといけない」と村田さん。週1回はこだいこのラーメンを食べてきたという熊本市東区の会社員、清田聖さん(40)は震災後に「灯かり」を訪れ、「多くの人にこの味を知ってもらい、笑顔になってもらいたい」と語った。問い合わせは灯かり(096・288・6015)。【森野俊】