検査院との協議記録なし「作らなかった可能性」
特定秘密保護法を巡り、会計検査院との事前合意に反して関係省庁への通知内容を後退させていた内閣官房が、検査院とのやりとりの記録を公文書として残していないことが分かった。毎日新聞の取材に担当者は「記録を作成しなかった可能性がある」と認めた。行政機関の意思決定過程の記録を義務づけた公文書管理法の趣旨に反する恐れがある。
公文書管理法違反の恐れ
検査院は法成立前の2013年、行政機関の判断で秘密の提示を拒めるとの条文が、全ての会計検査を定めた憲法90条に反すると指摘した。内閣官房は法施行後遅滞なく、秘密保護法の条文によらず会計検査に応じるよう関係省庁に通知することを約束した。
検査院が毎日新聞の情報公開請求に開示した記録で、通知を巡るその後の双方のやりとりが明らかになった。内閣官房内閣情報調査室(内調)の担当幹部らが法施行直後の15年1、2月に検査院幹部を訪ね「検査院に提供できない特定秘密はないとの通知を発出することは困難」と伝え、発出時期も16年の通常国会終了後に先延ばしすると通告していた。
内調への情報公開請求では、検査院との協議に関する文書は開示されなかった。4月下旬に改めて協議記録の有無を確認すると、内調の担当者は文書の保存期間満了で廃棄した可能性を示唆した。
しかし、再度の問い合わせには「文書を作成・廃棄した記録がなかった。作成しなかった可能性が高いのではないか。理由は分からない」と答えた。協議の事実関係は「検査院が記録しているなら、こちらに反論する材料はない」と話した。
公文書管理法は行政機関に対し、法令の制定・改廃とその経緯▽複数の行政機関による申し合わせ、他の行政機関や自治体に示す基準の設定とその経緯−−などについて文書作成を義務づけている。
NPO法人「情報公開クリアリングハウス」理事長で公文書管理に詳しい三木由希子さんは「重要な法令の解釈に関わる組織同士の交渉なのに組織としての対応が公文書で分からないのはおかしく、公文書管理法の趣旨を大きく逸脱している。これに限らず内調の文書作成の姿勢には疑問がある」と指摘した。
内調は民主党政権時代の11年に秘密保護法制の在り方を検討した有識者会議の議事録も作っておらず、会議での発言者や内容が記録に残っていない。これが発覚した12年に内調は「当時の担当者が不要と判断したのだろう。議事要旨や報告書を公表しており、それが全て」と釈明していた。【青島顕】