ビキニ事件 周辺で操業の元乗組員など きょう提訴

ビキニ事件 周辺で操業の元乗組員など きょう提訴
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62年前のアメリカの水爆実験で日本の漁船の乗組員が被爆した、いわゆる「ビキニ事件」で、周辺の海域で操業していた漁船の元乗組員などが、被爆した可能性があるのに国が放射線量の検査などを行わなかったなどとして、9日、損害賠償を求める訴えを起こします。
アメリカが昭和29年に太平洋のビキニ環礁で行った水爆実験では、静岡県の漁船「第五福竜丸」の乗組員23人が被爆し、半年後に1人が死亡しました。
弁護士などによる支援団体によりますと、当時、周辺の海域にはおよそ1000隻の船が操業していましたが、このうち高知県内の元乗組員などが、自分たちも被爆した可能性があるのに、第五福竜丸の乗組員の被爆が明らかになったあとも国が放射線量の検査などを行わなかったなどとして、損害賠償を求める訴えを起こすことになりました。
原告団には元乗組員やその遺族など45人が加わり、元乗組員1人当たり200万円の賠償を求めて、9日午後、高知地方裁判所に訴えを起こすことにしています。
「ビキニ事件」で国に賠償を求める訴えを起こすのはこれが初めてです。
今回の提訴について、厚生労働省は、現段階でコメントできないとしています。
「ビキニ事件」を巡って、国はおととし9月に、第五福竜丸以外の一部の漁船の乗組員からも通常より高い放射線量が検出されていたことなどが記載された記録を開示しています。厚生労働省はこれらの資料を分析する研究班を立ち上げ、被ばく線量の評価などについて、今後、見解を示すことにしています。

提訴前に関係者が会合

訴えを起こすのを前に、8日、高知市内で、原告の元乗組員や支援団体の関係者が会合を開きました。
この中で、支援団体の山下正寿事務局長は「独自に調査を始めてから32年がたち、何度も諦めかけたが、ようやく訴えを起こすことができる段階に来た。元乗組員の救済につなげていきたい」とあいさつしました。
会合のあと、原告の1人、高知市の元乗組員、桑野浩さん(83)は「元乗組員の中には若くして亡くなった人も大勢いる。裁判を通じて、ビキニ事件について多くの人に知ってもらい、国に責任を認めてもらいたい」と話していました。
また、山下事務局長は「元乗組員の病気と被爆が関係していることを証明して、本人や残された遺族の救済につなげたい」と話していました。

「第五福竜丸」以外にも被爆あった可能性

ビキニ事件では、「第五福竜丸」以外の船の乗組員も健康に影響が出る放射線量を浴びた可能性があると指摘する専門家もいます。
放射線被ばくに詳しい広島大学の星正治名誉教授は、今回の原告の1人で高知県西部の元乗組員から歯の提供を受け、被ばく線量を調査しました。調査はおととし、ほかの専門家と共に行われ、歯のエナメル質の損傷の程度から、この元乗組員の当時の被ばく線量は319ミリシーベルトだったと推定しました。この数値は、広島県に投下された原子爆弾で爆心地からおよそ1.6キロの距離で被爆した人と同程度の被ばく線量に相当するということです。
星名誉教授は、周辺にいたほかの船の乗組員も健康に影響が出る放射線量を浴びた可能性があると指摘しています。星名誉教授は「歯の測定結果を見て驚いた。広島や長崎と同じように被爆者としての支援が必要なので、国が早急に調査を行うべきだ」と話しています。
一方、国は、第五福竜丸以外の一部の漁船の乗組員を対象に当時行われた放射線量の測定結果を記載した記録を、おととし9月に開示しました。記録には、第五福竜丸以外の12隻の漁船の一部の乗組員から、通常、自然界で被ばくする年間の放射線量のおよそ2倍に当たる4ミリシーベルトを超える放射線量が検出されたことが記載されていました。中には40ミリシーベルトを超えていた乗組員もいたということです。
記録を開示した際、厚生労働省は「一部の乗組員について通常より高い放射線量が検出されているが、健康に影響があったとは考えられない」という見解を示しています。
厚生労働省は去年1月に研究班を立ち上げ、この記録やほかの資料を分析して、周辺の乗組員の被ばく線量について、今後、新たな見解を示したいとしています。