ソロスチャートが示す黒田緩和の円安効果、迫る日米マネー量の逆転
- 日本のマネタリーベースはドル換算で米国の96%相当に増加
- 一方向の円高進行は考えにくい-UBS証
日本銀行が異次元緩和によって積み上げてきたマネタリーベース(通貨供給量)。それが米連邦準備制度理事会(FRB)を追い抜く日が迫っている。著名投資家ジョージ・ソロス氏の名を冠した分析手法によれば、円安・ドル高要因だ。
日銀によると、4月のマネタリーベースは386.2兆円。黒田東彦総裁が異次元緩和を導入してからの3年余りで2.6倍超に膨らんだ。ドル換算では経済規模が約4倍もある米国の約96%に相当する。ソロス氏は1990年代に日銀の資金供給増にいち早く着目し、円安を予想して的中させた。市場関係者はマネタリーベースの二国間比較に基づくけい線を「ソロスチャート」と呼ぶ。
UBS証券ウェルス・マネジメント部の中窪文男チーフインベストメントオフィサーは、日銀によるマネタリーベースの急増は「円が過剰になり、ジュースが薄まるように円の価値がどんどん下がる要因になっている」と指摘。「為替相場はファンダメンタルズを無視して勢いだけで動く場面もあるが、日本のマネタリーベース増加も考慮すると、円高がどんどん一方向に進み続けるとは考えにくい」と言う。
円の対ドル相場は、日銀が追加緩和を見送った4月28日に3%を超える上昇となり、2010年5月以来の大幅高を記録した。日本が連休中の今月3日には1ドル=105円55銭と黒田総裁が追加緩和に踏み切る直前に当たる14年10月以来の高値を付けた。円はドルに対する年初来の上昇率が12%前後と主要10カ国通貨の中で最も高いが、ブルームバーグが市場関係者から集計した今年末の予想中央値は1ドル=115円と現在よりも円安が見込まれている。
昨年10-12月期の名目国内総生産(GDP)は年率換算で499.8兆円。マネタリーベース残高は、それの77%相当にまで膨らんでいる。異次元緩和の導入直前に当たる13年3月末の割合の2.5倍超に上る。ドル換算で米国を上回れば、世界的な金融危機前の06年以来となる。
米国のマネタリーベース残高は足元で3兆8673億ドル。同期間の増加率は22%にとどまる。08年9月に発生したリーマンショックの直前までは8500億ドル前後だったが、3度にわたる量的緩和策によって急増した。FRBは14年10月に量的緩和第3弾を終了させた後も償還を迎えた債券の再投資を続けており、昨年4月には過去最大の4兆1305億ドルに達した。ただ、その後は緩やかな減少傾向にある。
第2次安倍晋三内閣が発足した12年12月当時、円の対ドル相場は85円前後だった。異次元緩和の導入や追加緩和を経て、15年6月には125円86銭と13年ぶりの安値を記録。その後は世界的な景気減速や金融市場の混乱、米国の利上げや大統領選をめぐる不透明感を背景に円高に進んだが、なお輸出企業の採算レートの103円20銭よりは円安の水準にある。