【ドバイ=久門武史】世界最大の原油輸出国サウジアラビアのサルマン国王は7日、在任20年のヌアイミ石油鉱物資源相を退任させ、後任にファリハ保健相を起用した。同時に省庁再編も決定。昨年1月の国王即位以降、最大規模の内閣改造となった。経済政策を統括するムハンマド副皇太子による「脱・石油依存」に向けた改革の一環。側近のファリハ氏への権限集中で改革のスピードを上げる狙いだ。
ファリハ氏は8日、「安定的な原油政策を維持する」と表明した。ロイター通信が伝えた。ファリハ氏はヌアイミ氏の下で長く国営石油会社サウジアラムコを率いており、市場シェア維持を優先する路線に変わりはない見通しだ。
7日の勅令では、水利電力省を廃止するなどの省庁再編も決定した。石油鉱物資源省をエネルギー産業鉱物資源省に改称し、広く電力にかかわる事務を担当させる。ロイター通信によると同省はサウジの経済生産の53%を所管するという。
商工省は商業投資省に衣替えし、カサビ社会問題相をトップに据えた。ラビーア商工相はファリハ氏の後任の保健相に就いた。中央銀行に当たるサウジアラビア通貨庁(SAMA)の総裁にはアハメド・ホリフィ氏が就いた。
副皇太子は4月25日、向こう15年の経済改革の道筋を示す「ビジョン2030」を公表した。アラムコを上場させて2兆ドル(約220兆円)超の企業価値を生み出し、政府系ファンドで運用収益を稼ぐことなどが柱だ。
副皇太子は経済政策の意思決定機関のトップのほか国防相も兼ね、急速に権限を集めた。父であるサルマン国王の後ろ盾を得て、強力に改革を進めようとしている。行政機構に大なたを振るうことで、改革実現を急ぐ狙いがある。
ヌアイミ氏は1995年から石油相を務めたベテランで、サウジが主導する石油輸出国機構(OPEC)の顔役として大きな影響力を持っていた。しかし主な産油国が増産凍結を目指した今年4月のドーハでの会合では、直前に副皇太子がイラン抜きでの凍結に応じない考えを重ねて強調。サウジは土壇場で合意を拒み、協議は物別れに終わった。
このため副皇太子が原油政策でも決定権を握り、ヌアイミ氏の存在感は薄れたとの指摘があった。ベネズエラのデルピノ石油鉱業相は産油国会合後、ヌアイミ氏について「何かを決定する権限を持っていない」と漏らした。
ヌアイミ氏は80歳と高齢で、ファリハ氏への交代は既定路線とみられていたが、6月のOPEC総会を「花道」にすることもなく退任が決定。閣僚を退いたヌアイミ氏は王室顧問に就いた。
■ハリド・ファリハ氏 1982年に米テキサスA&M大を卒業。サウジアラムコでは2009年に最高経営責任者(CEO)、15年には会長に就いた。今後はエネルギー産業鉱物資源相とアラムコ会長職を兼務する。ムハンマド副皇太子と近く、助言する関係にあるとされ、15年4月の内閣改造で保健相に抜てきされた。原油政策を巡る発言も活発で今年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では「原油安が続いても、我々は長期的に耐えられる」などと述べていた。