アピタル・森戸やすみ
2016年5月9日06時00分
お子さんたちは保育園、幼稚園、学校に慣れた頃でしょうか?
小児科外来は、新しい年度や学期が始まる頃はちょっと空きます。お子さんたちが新しい環境に緊張感を持っているからかもしれません。だんだんと慣れてくるに従って疲れも出てくるのでしょう。5月の大型連休が終わるころになると、学校や園で風邪が流行ったりお休みする子が出てきたりします。連休明けは、「くるぞ~」と、親御さんは心の準備をしておくとよいかもしれません。
さて、初めて保育園に入ったという小さい子は、少し事情が違います。毎月といわず、毎週のように体調を崩します。なぜでしょう?
生まれてくるとき、赤ちゃんは、お母さんから免疫をある程度もらっています。だから、生後しばらくは、お母さんがかかったことのある病気にはかからないことが多いのです(一部の感染症は別です。水ぼうそうなど、抗体が胎盤を通りにくい病気は、お母さんがかかったことがあっても、感染者と接触があれば発症することが多いです)。ところが、この免疫は徐々に減り、生後6ヶ月になるとほぼゼロになります。だからそれ以降になると、自分の免疫機能が未熟な乳幼児は、頻繁に感染症にかかります。
子どもがかかる感染症で一番多いのが、上気道炎、つまり風邪。風邪は、鼻の粘膜や、咽頭・喉頭などの粘膜が、ウイルスや細菌に感染することで起こります。
子どもが風邪をひくと自分のせいだと思う親御さん、特にお母さんが多いのですが、それは違います。「私が寒い思いをさせたから…」、と思う気持ちはわかりますが、ウイルスや細菌がいなければ、寒いだけで風邪はひきません。
また、「私が保育園に預けたから…」と思うお母さんもいるかも知れません。そういう気持ちは私にも経験があるので、とてもよくわかります。でも、お母さんが働かなくてはいけない事情がある家庭もあるし、お父さんがしっかり働いていても何が起こるかわかりません。今は再就職が難しい世の中ですから、産前と同じように働き続けたい女性もいます。今の時代は、大黒柱は複数あった方がいいですね。それに子どもを産んだら女性は全てを子育てに捧げなくてはいけないとは、私は思いません。男女ともに仕事も子育ても両方できる社会が健全な社会だと思います。子どもを預けて働くことに、罪悪感を持つ必要はないのですよ。
新しい環境には、経験したことのないウイルスがいるものです。ある程度人が集まると感染症が起こるのは、仕方がありません。大きくなるまで一回も感染症にかからない人はいないのだから、それを目指すのは現実的ではありませんね。「何歳になったら感染症の心配がなくなる」というものでもありません。大人だって、風邪をひきますよね。
では、風邪をひいたら、何をしてあげるのがいいでしょう?一刻も早く、病院に連れて行くのがよいのでしょうか?
実は、お家で、大好きな家族と安静にしているのが一番の治療です。
保育園や幼稚園、学校などからは、「医療機関で検査してもらってください」、「早く治してもらってください」言われることがあるかもしれません。もちろん、風邪なのか、もっと重い病気なのか診てもらいたい場合は、受診してください。でもちょっとした発熱、咳、鼻水だったら、必ずしも受診の必要はありません。残念ながら、早く医療機関にかかったり早く薬を飲んだりしても、早く風邪が治るわけではありません。
風邪を治す薬を発明したらノーベル賞ものだという話を聞いたことがある人もいるでしょう。風邪の原因になるウイルスは、少なくとも数十種類あります。ところが、インフルエンザなどの特別なウイルスで無い限り、その風邪がどのウイルスによって起こっているのかを特定することは、今の医療ではできません。それに、いわゆる「風邪」は比較的症状が軽く、数日~1、2週間で自然治癒する感染症なのです。
外来では、つらい症状を取るための薬を処方することもあります。でも、よく効くとは言い難いのです。咳の症状には、痰を出しやすくする薬や、ゼイゼイする場合は気管支を広げる薬などがありますが、薬で咳を全く出なくすることはできません。発熱は、本人が辛くなければ、無理に下げなくても大丈夫です。解熱剤は、熱で眠れなかったり、頭や関節を痛がったりした場合に限り、必要に応じて処方します。
家庭でできるケアもあります。鼻水だったら、吸引器がいろいろ市販されています。電動式のものは高価ですが長く使えますし、携帯できるスポイト式や、大人が口で吸うタイプもあります。吸ってあげたり、拭いてあげたりしてください。鼻を擤(か)めるようになったら、すすらずに擤むように言いましょう。
もしお子さんが体調を崩したら、「これでまた一つ、からだが丈夫になったな」と考えてみるのも良いかも知れません。来年の今頃には、きっと1年分、お子さんは丈夫になっているでしょう。親御さんもお子さんも負担の少ない方法で、風邪と付き合っていきましょう。
<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>
http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)
小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在は一般病院の小児科に勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(メタモル出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。
おすすめコンテンツ
良い終末期医療とは何か。日本をはじめ、諸外国の制度や課題についてまとめてみました。
認知症にまつわる悩みは尽きません。「メディカル玉手箱・認知症にまつわる悩み」シリーズ、「医の手帳・認知症」、「もっと医療面・認知症」の記事をピックアップしました。
三カ月以上続く「慢性腰痛」は、ストレッチや筋力強化といった運動で軽減しやすいことが科学的にも明らかになってきました。腰痛の専門家が提唱する「腰みがき」と「これだけ体操」の具体的なやり方などを動画で解説します。
PR比べてお得!