「選べる」をうたい文句に、4月から一般家庭への電力小売りが自由化されて1カ月余り。地域独占を続けてきた全国の大手電力から「新電力」に乗り換えた世帯は70万強で、全体の約1%にとどまる。

 「電気代を安く」「再生可能エネルギーの電気を」などと思案しながら、「思ったほど選択肢がない」と感じた人も少なくないだろう。

 大企業が母体の新電力は、効率的に契約を増やせる都市部に力点を置く。地方ではここ数年、太陽光など新たな発電所が増えているが、運営は東京や大阪の企業が中心だ。「電力自由化」は、近いようで遠い。

 ただ、実現したのは「買う自由」だけではない。自分たちでつくり、使う。そんなきっかけにもなる。実際、電力の地産地消への取り組みが、各地で広がりを見せている。

 ■原発事故がきっかけ

 神奈川県小田原市。箱根の山すそに広がる造成林で、4千枚のパネルが光を放つ。「小田原メガソーラー市民発電所」。地元の企業38社が出資する「ほうとくエネルギー」が運営する。

 小田原市は福島第一原発の事故後、計画停電やお茶畑からのセシウム検出、自粛ムードに伴う観光客の激減などに見舞われた。遠方の電源に依存する危うさをどう克服していくか。

 注目したのが、太陽光など身近にある自然エネルギーだ。資金集めでは、多くの人が当事者として参加できるよう市民ファンドを設けた。14年初めから4カ月足らずで目標の1億円が集まり、同年秋に発電を始めた。

 つくった電気は今年から、すべて近くの平塚市にある「湘南電力」に卸している。小田原、平塚両市を含む県南地域が対象の電力販売会社で、今秋から家庭向けも始める。湘南電力との連携で、小田原の試みは地産地消の形を整えた。

 年間発電量は、約103万キロワット時。300世帯分に過ぎない。それでも、中心になって事業化を進めてきた鈴廣かまぼこ副社長の鈴木悌介氏は「小さな挑戦でいい。地域から新しい現実を積み重ねていけば大きな力になる」と先を見すえる。

 「全国ご当地エネルギー協会」によると、こうした地域型の電力・エネルギー事業は、小さなものも含めて180ほどある。その多くは太陽光発電だ。

 ただ、太陽光全体では利益を優先する企業が経営するメガソーラーが大半を占める。そうしたメガソーラーを誘致しても、地元が手にするのは土地の売却・貸与収入などにとどまる。電気の販売代金は運営企業の本社がある大都市圏に吸い上げられてしまう。

 ■域内の循環目指す

 これに対し、地域型発電が掲げるキーワードは「循環」だ。

 電力を皮切りにさまざまなサービスも地元でまかない、お金が地域で回るようにする。産業や雇用を広げ、コミュニティーの維持と活性化を図る。そんな「地域資本主義」を実現しようという志が基本にある。

 90年代後半から電力自由化を進めたドイツでは、企業間で合併による寡占が進む半面、地域密着型の事業「シュタットベルケ」が各地で存在感を保っている。電力だけでなく、ガスや熱供給、水道、地域交通といった公共性の高いサービスを担う事業体で、日本総研によると電力小売市場では約半分を占める。

 そんなシュタットベルケを目標に掲げる自治体の一つが、福岡県みやま市だ。

 約4万人の住民の3割は高齢者。典型的な地方の街だ。東日本大震災後、市長の旗振りで再エネ事業に乗り出した。昨年設立した第三セクター「みやまスマートエネルギー」が、市が出資するメガソーラーや近隣の再エネ発電所から電力を買い、公共施設や企業、一般家庭向けに販売している。

 ■「お任せ」を脱して

 注目されているのは、みやま市民の契約者に提供するさまざまな生活支援サービスだ。

 電気と水道をセットにした割引料金を用意したほか、2年以上の契約者にはタブレットを貸し出す。メニューには地域行事や市のお知らせ、電力使用量を通じた高齢者の見守り、市内の店舗が参加する通信販売、困りごとの相談などが並ぶ。

 住民を改めてつなぎ、一人ひとりの力を合わせて地域社会を保つのが目標だ。培ったノウハウや技術は公開し、他の自治体との連携を進める。今年3月にはさっそく、ロケット発射場で知られる鹿児島県肝付町と包括的な協定を結んだ。

 原発事故は、大手電力が中心の「大規模・集中・独占」型のシステムから、「小規模・地域分散・ネットワーク」型へと切り替えていく必要性を浮き彫りにした。それは、電力分野に限ったことではあるまい。

 電力会社や国への「お任せ」をやめ、自ら考え、選び、動く。電力自由化と地域づくりは根っこで結びついている。