ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
ロシアから見た「正義」 “反逆者”プーチンの挑戦

日本が核武装したら「世界の孤児」になる理由

北野幸伯 [国際関係アナリスト]
2016年5月2日
previous page
4

孤立せずに事実上の核保有ができる
「ニュークリアシェアリング」とは?

 ここまで、「核武装で日本は世界の孤児になる」という話をしてきた。実をいうと、孤立せずに「事実上の核保有」を実現する方法がある。「ニュークリアシェアリング」だ。これは、核兵器を持たないベルギー、ドイツ、イタリア、オランダが、米国と結んでいる条約である。

 ニュークリアシェアリングによって上記の4ヵ国は有事の際、米国の核を使って反撃できるのだ。そのため、これらの国々は日常的に米国の核を使って訓練している。第2次世界大戦時、日本の同盟国として米国と戦ったドイツ、イタリアが入っているが、ニュークリアシェアリングに参加していることで、「ドイツとイタリアでファシズムが復活している!」という批判はない。

 つまり、日本が同じ決断をしても「世界的孤立」は避けられるということだ。よって、「国連で制裁を受ける」とか、「エネルギー供給を止められる」といった心配をする必要がない。そしてニュークリアシェアリングによって、日本は米国の核兵器を利用することができるようになり、中国に対する強力な「抑止力」を得る。これは、「自国は核兵器を保有しなくとも、核兵器保有国と同じ抑止力を持てる」という仕組みなのだ。

 米国が日本にニュークリアシェアリングを許すか、現段階では分からない。しかし、日本単独の「核武装」よりはずっと、抵抗が少ないことは確かだろう。

 ただし、問題となるのは中国、ロシア、北朝鮮の反応だ。彼らは反発し、相応の対抗措置を取るだろう。中ロはますます反米・反日化し、一体化する。ロシアは、北方4島を軍事要塞化させ、北方領土返還は事実上「不可能」になる可能性がある。こういう副作用を考えると、ニュークリアシェアリングですら、現時点で必要か疑問だ。

 今回の話は、読者の皆さんには、「時期尚早すぎる議論」と思えるかもしれない。しかし、安倍総理は、日本人離れした「決断力」と「実行力」をもっている。「決断力」と「実行力」は、肯定的な場合もあれば、「間違った決断を大胆に行う」ことにも使われかねない。「気がつけば、核武装を目指すことが既定路線になっていた」とならないよう、今のうちから「予想される悲惨な結末」を明示しておくことが大切なのだ。

previous page
4
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
ビジネスプロフェッショナルの方必見!年収2,000万円以上の求人特集
ビジネスプロフェッショナルの方必見!
年収2,000万円以上の求人特集

管理職、経営、スペシャリストなどのキーポジションを国内外の優良・成長企業が求めています。まずはあなたの業界の求人を覗いてみませんか?[PR]

経営課題解決まとめ企業経営・組織マネジメントに役立つ記事をテーマごとにセレクトしました

クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR

経営戦略最新記事» トップページを見る

注目のトピックスPR

話題の記事

北野幸伯 [国際関係アナリスト]

きたの・よしのり/1970年長野県生まれ。モスクワ在住24年の国際関係アナリスト、作家。その独特の分析手法により、数々の予測を的中させている。1996年、日本人で初めて、ソ連時代「外交官・KGBエージェント養成所」と呼ばれたロシア外務省付属「モスクワ国際関係大学」(MGIMO)を卒業(政治学修士)。1999年創刊のメールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」は現在読者数3万6000人。ロシア関係で日本一の配信部数を誇る。主な著書に「隷属国家日本の岐路」(ダイヤモンド社)、「プーチン最後の聖戦」、「日本自立のためのプーチン最強講義」(共に集英社インターナショナル)など。


ロシアから見た「正義」 “反逆者”プーチンの挑戦

ウクライナ問題などで欧米に楯突き、“反逆者”となったプーチン・ロシア大統領。しかし、ロシア側から物事を眺めれば、ウクライナ問題で暗躍する欧米側の思惑など、日本で報道されている“事実”とは異なるものが見える。気鋭の国際関係アナリストがモスクワから、欧米vsロシアの真相を解説する。

「ロシアから見た「正義」 “反逆者”プーチンの挑戦」

⇒バックナンバー一覧