北野幸伯 [国際関係アナリスト]
2016年5月2日
日本には、「共和党は、日本の核武装を支持する」という楽観論がある。しかし、ジアラ氏の言葉を読むと、共和党がそれを許すかは極めて疑わしいことが分かる。「米中が共同で日本の台頭を阻止する」という70年代の方針は、ごく最近になっても不変だった。特に民主党系の学者や言論人は、新世紀に入っても相変わらず日本の自主防衛、核武装に反対している。
<彼らの多くは、「台湾が中国に併合されるのはやむをえない。米中両国は東アジア地域において、日本にだけは核を持たせず、日本が自主防衛できないように抑えつけておき、米中両国の利益になるように日本を共同支配すればよい」と考えている。>(113p)
このように米国と中国は、70年代から現在まで、「日本の核武装に反対すること」で一体化している。もちろんトランプが大統領になり、全世界に向けて、「私は日本の核武装を絶対的に支持する!国連安保理で制裁決議案が出ても、拒否権を使って阻止する!」と公式に宣言すれば情勢は変わる。しかし、歴史的経緯と現状を見ると、そんなことは起こりそうにない。第一、トランプは決して「親日」ではない。
「問題の本質」を整理してみよう。日本が「核武装」を目指すとすれば、それは、(北朝鮮問題もあるが)主に中国に対抗するためである。しかし、中国に対抗するために「核武装」すると、結果として中国ばかりでなく、米国も敵に回してしまう。
そればかりでなく、「核兵器寡占体制」を維持したい英国、フランス、ロシアも敵にしてしまう。米中英仏ロは、「公認」の核兵器保有国であると同時に、国連安保理で「拒否権」を持つ「常任理事国」でもある。つまり彼らは、その気になれば国連安保理経由で「強制力を伴った対日本制裁」を課すことができる。
一方、日本は核武装を決意すれば、NPTを脱退することになる。190ヵ国が参加・支持するNPTからの脱退は、日本を「世界の孤児」にしてしまうことだろう。実際、NPT元参加国で、後に脱退して核武装した北朝鮮は、過酷な制裁を受ける「世界の孤児」になっている。つまり、日本が核武装に突き進めば、世界を敵に回して孤立し、過酷な経済制裁を課される可能性が高い。最悪、戦前戦中の「ABCD包囲網」のように、「エネルギー封鎖」をされるかもしれない。
こう書くと、必ず「GDP世界3位の大国に経済制裁などできない。自分たちが損をするのだから」と反論される。しかし、「自分たちが損をしても」制裁が行われることはある。たとえば、日本と欧米は今、経済的損失を出しながら「対ロシア制裁」を続けている。ロシアとの結びつきが薄い日本と米国はあまり損失を感じないが、ロシア経済と深く結びついている欧州では大きな影響が出ている。
さらに、「制裁する側」の利点は、「自分たちが困る製品は、制裁リストから外せる」ということだ。たとえば欧州は、ロシアに制裁する一方で、同国からの原油・天然ガス輸入は続けている。もし「この日本製品が入ってこなければ困る」というのなら、その製品を制裁リストから外すことができるのだ。
既述のように、核兵器は安価で抑止力が強く、純粋に軍事的観点から見れば「持っていた方がいい」ものである。しかし、中国ばかりか米国、そして全世界を敵にまわすリスク、そして過酷な制裁を受けるリスクを考えれば、「メリットよりデメリットの方が多い」と言わざるを得ない。
日本の核保有論者は、「日本の立場は特殊」と考えがちだ。しかし、「敵対的核保有国が近くに存在している国」は、日本以外にもたくさんある。たとえば、日本と同じように中国の脅威に怯える、ベトナム、フィリピンは、核武装するべきだろうか?あるいは、2008年に核超大国・ロシアと戦争したジョージア(旧グルジア)や、クリミアを奪われたウクライナは、核武装するべきだろうか?
「すべての国は平等だ」という「理想論」に従えば、「持つべきだ」となるだろう。あるいは、「すべての国は、核兵器を持つべきではない」となるだろう。しかし、これらはいずれも「非現実的議論」に過ぎない。そして、「国際社会は、中国の脅威に直面している日本にだけは核武装を許す」と考えるのも、現実離れした楽観論である。
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