北野幸伯 [国際関係アナリスト]
2016年5月2日
「単純でない」ことを説明するために、世界の「核兵器保有」の現状を見てみよう。まず、核兵器の無秩序な拡散を防止するために1968年、「核兵器拡散防止条約」(NPT)がつくられた(発効は70年)。日本は70年に署名し、76年に批准している。
NPTは、米国、英国、フランス、ロシア、中国の核兵器保有を認め、その他の国々の核兵器保有を禁止するという、極めて「不平等」な条約である。しかし、それでも現在190ヵ国が加盟しており、NPTは「世界的秩序」になっている。
世界には、この5大国の他にも、核兵器を保有している国がある。まず、インドとパキスタンは、最初からNPTに参加せず、核兵器保有を実現した。北朝鮮はNPTに加盟していたが、93年に脱退。厳しい制裁を受けながら核兵器保有を果たした。イスラエルは、「核兵器保有を肯定も否定もしない国」だが、「全世界がイスラエルの核保有を知っている」という変わった状況にある。
以上、現在世界で核兵器を保有しているのは、9ヵ国である。そして、ここからが重要なのだが、「NPTは、日本とドイツの核武装を封じる目的でつくられた」のだ。これは、筆者の妄想ではなく、NPT加盟時の村田良平・外務事務次官の言葉である。
これに関連して、米国在住国際政治アナリスト伊藤貫氏の『中国の「核」が世界を制す』(PHP)の中に、驚愕の話が登場する。米国と中国は「日本に核武装させない『密約』を結んでいる」というのだ。(太線筆者、以下同じ)
<一九七二年二月、北京でニクソンとキッシンジャーが習恩来と外交戦略の会談をしたとき、米中両国首脳は、「日本に自主的な核抑止力を持たせない。日本が、独立した外交政策・軍事政策を実行できる国になることを阻止する。そのためにアメリカは、米軍を日本の軍事基地に駐留させておく」という内容の、米中密約を結んだ(この密約の要点を書き留めたニクソンの手書きのメモが残っている)。>(78p)
米中は70年代、「日本に核兵器を持たせない」ことで合意していたことがはっきり分かる。さらに、この本には伊藤氏が94年、当時米国防総省の日本部長だったポール・ジアラ氏と会った際の会話が再現されている。
ジアラ氏は次のように述べたという。
<「クリントン政権の対日政策の基礎は、日本封じ込め政策だ。>
<一九九〇年にブッシュ政権は対日政策のコンセプトを大きく修正『日本を封じ込める』ことを、米国のアジア政策の基盤とすることを決定した。>
<クリントン政権も同じ考えだ。クリントン政権のアジア政策は米中関係を最重要視するものであり、日米同盟は、日本に独立した外交、国防政策を行う能力を与えないことを主要な任務として運用されている。>(以上200p)
ちなみに当時から北朝鮮の「核問題」はあった。これについてジアラ氏は、どういう見解だったのだろうか?
<現在、北朝鮮の核開発が問題となっているが、たとえ今後、北朝鮮が核兵器を所有することになっても、アメリカ政府は、日本が自主的核抑止能力を獲得することを許さない。東アジア地域において、日本だけは核抑止力を所有できない状態にとどめておくことが、アメリカ政府の対日方針だ。この方針は米民主党だけでなく、共和党政権も賛成してきた施策だ。>(200~201p)
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