近年、不妊症に対する男性の意識は高まってきましたが、まだまだ低いのが現状。不妊は女性に原因があると言われ、また治療にも女性に多くの負担がかかっていますが、実は不妊の原因の約半数に男性が関わっているのです。男性、女性どちらに原因が有っても、一緒に取り組むことが大切です。今回は男性の不妊についてお伝えします。
男性の不妊
晩婚化が進み、不妊症に悩む人が増え、不妊治療をしている人も多い。不妊治療は費用もかかりますが、女性の身体への負担も大きく、なかなか人できずに諦めてしまう方も多いです。
不妊は女性に原因があると考える男性も多く、「仕事が忙しい」「自分は大丈夫」などと考えて検査を受けない人も少なくありません。男性にも不妊の原因があることを認識し、検査を受けることが大切です。
検査を受けて原因が見つかると「性的能力が劣っている」と劣等感を持ってしまう方もいらっしゃいますが、現在は不妊の治療には様々な選択肢があるので、検査や治療を前向きに捉え、早めに医療機関に相談することをおすすめします。
不妊の原因の約半数は男性が関わっています
不妊の原因は女性にある、という考えがいまだに根強い傾向があるのは残念ですが、WHOの報告では男性のみに原因があるのは24%、双方に原因があるのが24%とおよそ半分に男性が関わっています。男性の10~20人に1人に不妊の原因があると考えられているのです。
男性に起こる不妊の主な原因には
- 精子を作る機能に問題がある
- 精子の輸送経路に問題がある
- 性機能に問題がある
が有ります。
不妊の原因
男性の不妊の原因の8~9割を締めるのが、精子を作る機能の問題です。健康な場合、精子は精巣で作られ、精管を通って体外へでます。この流れのどこかに異常があると、不妊の原因となります。
精子を作る精巣(睾丸)が小さいことや、病気などが原因で
- 精子が全く無い
- 少ない
- 動きが悪い
ことが有ります。
また、精子の通り道である精管が狭くなっているなど、
- 精子を運ぶ輸送経路に問題がある
勃起障害や射精障害と言った
- 性機能に問題がある
場合などがあります。
検査の方法
基本となるのは精液検査です。泌尿器科でまず精液の状態を調べます。精液検査には健康保険が適用されます。
検査日の数日前から禁欲をし、検査当日に医療機関で自分で精液を採取します。都合がつかない場合は、自宅で採取してパートナーが持参して検査を受けることもできますが、採取してから時間がたつと、精子の活動性が低下し、正確な診断が難しくなります。できるだけ本人が医療機関を受診してください。
検査項目
WHO(世界保健機構)の基準をもとに以下の項目を調べます。
- 精液の量: 1回の射精で、精液の量が1.5ml以上かどうか
- 精子の数: 精液1mg中に1,500万以上あるかどうか
- 精子の活動性: 活発に動いている精子が全体の40%以上あるかどうか
- 精子の形: 形の良い精子が全体の4%以上あるかどうか
あくまでも目安です。基準値を下回っていても、妊娠した例は多くあります。また、採取した時の心身の状態によっても精子の状態は異なるので、通常は複数回数行ってから診断します。
スマホアプリでも精子の動きがわかるものが、最近話題となっていました。アプリ、おそろしです(笑)
さらに詳しい検査
精液検査で不妊症が疑われる場合、以下の項目についても検査を行ないます。
- 精巣の大きさ
- 精巣の炎症の有無
- 精索静脈瘤の有無
- ホルモンの値
【精巣の大きさ】
精巣の大きさは、精子の数に比例すると一般的に言われており、精巣が小さすぎる場合は、精子の数も少ないと考えられます。
【精巣の炎症の有無】
精巣に炎症が起こると、精子を作る機能が低下することがあります。尿中の細菌やおたふくかぜのウイルスなどが原因となります。
【精索静脈瘤の有無】
精子を作る機能を障害する代表的な病気です。精巣から心臓へ流れる静脈の血流が悪くなり、うっ滞した血液で静脈の一部がコブ状に膨れます。静脈瘤にたまった血液で精巣が暖められ、精子を作る機能が低下します。
【ホルモンの値】
生殖能力に関わるホルモンの分泌量を調べます。バランスが崩れていると、精子を作る機能が低下します。
男性の不妊治療
原因がわかっている場合は、それに対する治療が行われます。
- 静脈瘤を防ぐ手術: 精索静脈瘤がある
- 薬物療法: 精巣が炎症を起こしている
- 輸送経路の手術: 精子の輸送経路に問題がある
- 勃起障害改善薬: 勃起障害
*男性型脱毛症の治療薬の一部に、不妊症の原因となる副作用を起こす薬があるので、不妊治療の間は使用を控えます。
原因がわからない場合の不妊治療
検査で原因が特定できるのは、実は多くありません。男性の不妊は原因不明のことが多いのです。その場合、
- ビタミン剤、漢方薬の服用: 精子の数や活動性を高める効果が期待できる
- タイミング療法: 女性の排卵期に合わせて性交を行う
を続けます。1年ほど継続しても妊娠しない場合は、
- 人工授精
人工授精を数回行っても妊娠しない場合は、
- 体外受精
- 顕微授精
を検討します。
お金と身体の負担を考える
女性の妊娠・出産には年齢の制限があります。健康な女性でも30歳代後半になると、妊娠しにくくなります。男性が躊躇している間に機会をのがしてしまうこともあるので、不妊治療は双方が検査をし、一緒に治療を行うことが大切。また、人工授精や体外受精は、女性のからだに大きな負担をかけることも知っておきましょう。治療にかかる費用についても、きちんと考えておかねばならない問題です。
特別養子縁組を考える
不妊治療を数年試しても妊娠できず、心もからだもボロボロになってしまう可能性もあります。どうしても子どもが欲しい場合、特別養子縁組を考えてみるのも一つの選択肢です。
先日新聞に、そのような方の記事が掲載されていました。
奥さんが不妊治療で、疲れ果ててしまって、続けられなくなった時に、持ちかけられた特別養子縁組。最初は自分の子どもでないのに愛情が持てるのか、不安だったそうですが、育ててみて、「そんなことは関係ない。自分がしたかったのは子育てだったんだ」と今は親子水入らずで幸せ、という記事でした。
条件などいろいろあるので、簡単に考えるものではありませんが、一つの選択肢として覚えておいて欲しい。
参考: 特別養子縁組
特別養子縁組(とくべつようしえんぐみ)とは、児童福祉のための養子縁組の制度で、様々な事情で育てられない子供が家庭で養育を受けられるようにすることを目的に設けられた。民法の第四編第三章第二節第五款、第817条の2から第817条の11に規定されている。
普通養子縁組の場合、戸籍上、養子は実親と養親の2組の親を持つことになるが、特別養子縁組は養親と養子の親子関係を重視するため、養子は戸籍上養親の子となり実親との親子関係がなくなる点で普通養子縁組と異なる。特別養子縁組の条件として子供が養子縁組できるのは、子どもの年齢が6歳になるまでと制限されている(ただし6才未満から事実上養育していたと認められた場合は8才未満まで可能)
まとめ
晩婚化も背景にあり、不妊に悩むカップルも少なくありません。周りの言葉に傷つくことも。男性にも不妊の原因があり、約半分は男性がかかわっていることを認識する必要があります。女性だけに負担をかけず、不妊は二人の問題ととらえて一緒に治療することが大切です。費用についてもしっかり話し合うことも忘れずに。
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