カリッと歯ごたえ 銘菓「けんけら」
福井県大野市中心部にそびえる越前大野城のすぐ近くに1887(明治20)年創業の老舗菓子店「亀寿堂(きじゅどう)」がある。店から奥の作業場につながるのれんをくぐると、ほのかに甘い香りが漂う。ここで作られているのが、水あめときな粉を主原料とするカリッとした歯ごたえが特徴の地元銘菓「けんけら」だ。
春の大型連休前に訪ねると、4人の職人が黙々と手を動かしていた。社長の嶋田滋(しげる)さん(68)は「最近観光客が増え、けんけらもお土産によく売れる。たくさん作っておかないと」と作業しながら話す。
けんけらは、きな粉の香りと素朴で控えめな甘さが売りの和菓子だ。しつこくない甘さと歯ごたえがやみつきになる。亀寿堂では、すりつぶしたゴマを練り込み香ばしさを増している。手ごろな値段と賞味期限約3カ月という日持ちの良さから、お土産やおやつとして約400年前から県内で愛されてきた。
珍しい名前の由来は諸説ある。亀寿堂によると、最も有力な説が、1682年に大野藩主となった土井利房が名付けたという説。家臣から献上された菓子を気に入り、「堅い菓子を作る家来は心も堅いこと(=忠実)であろう」と述べ、「堅家来(けんけらい)」と名付けたというもの。地元の宝慶寺の「建径羅(けんけら)」という僧が作ったから、という説もある。
けんけら作りは水あめと砂糖、水を混ぜ、銅製の片手鍋で煮詰めるところから始まる。あめ色に変わったところできな粉とすりつぶしたゴマが入った直径55センチの銅鍋に移し替える。
冷めて固まる前に成形しなければならず、ここからはスピード勝負だ。長さ約1メートルの柄のついたヘラで混ぜ合わせる。力作業に、職人の額に汗がにじむ。
けんけらの生地を作業台に乗せると、のし棒とローラーで1ミリほどに延ばす。裁断機で一枚を縦4センチ、横2センチほどに切りそろえ、一枚ずつ手でねじれば完成だ。嶋田社長は「こうすると見た目も良いからね」とほほ笑む。
かつて、市内にけんけらを作る店舗は十数店あったが、今では3店舗しか残っていないという。嶋田社長の弟修三さん(58)は「重労働で後継者も不足し、ここまで減った」と話す。
亀寿堂では時代に合わせ、改良もしてきた。戦後、堅いものが苦手な人向けに薄いけんけらを作った。1960年ごろには柔らかい食感の「そふとけんけら」も開発した。一方で、製法や形などの伝統はかたくなに守った。修三さんは「昔から残ってきたもの。少しでも残したい」と話す。
素朴な味の中に、大野の歴史が息づいていると感じた。【立野将弘】
=◇=
亀寿堂のけんけらは本店(福井県大野市城町2の11)と支店(同市元町2の1)の他、JR福井駅のショッピングゾーン「プリズム福井」の亀寿堂ブースでも販売。本支店の営業時間は午前8時半〜午後8時、不定休。プリズム福井は午前8時半〜午後7時、年中無休。65グラムのけんけらは350円、12個入りのそふとけんけらは650円。問い合わせ先は本店(0779・66・2510)。