【解説】 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス入門 【知財管理65巻6号掲載】

1年ほど前のものですが、知財管理65巻5号(2015年6月)に掲載させていただいた共著記事の全文を、発行元の日本知的財産協会さんにお断りの上で転載いたします。

本記事の著作権は、小職及び共著者である佐藤亮太弁護士(当時は司法修習生)に帰属しています。

が、そもそも本記事は、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのメンバーとしての立場から、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスについて執筆したものです。そこで、佐藤弁護士と相談の上で、本記事を CC BY 4.0 (クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示 4.0 国際) の条件で公開します。ライセンス条件を満たせば、どなたでも本記事をコピー、再配布、加工など様々な形で利用することができます。条件の詳細については、上記リンク先をご覧ください。

また、本記事は企業法務担当者を読者として想定して書かれたものですが、それ以外の方々にとっても、CCライセンスについての良いガイドになろうかと思います。

編集注記:

  • 機種依存文字や脚注の表示方法など、一部体裁が変更されています。
  • 追加ないし変更した箇所がある場合、当該箇所を赤字にしてあります。

「知財管理」 (日本知的財産協会) 65巻5号(2015年6月) 821~826頁

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス入門

増田 雅史
佐藤 亮太

[抄 録]
近年,インターネットとデジタル・コンテンツの普及により,作り手と作品の関係や作品の利用のされ方は大きく変化しています。こうした中で,「時代遅れ」となりつつある著作権制度を補完するものとして注目を集めているのが,クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(以下,「CCライセンス」)です。本稿では,著作権法との関係に触れながら,CCライセンスの思想,仕組み,広がりと今後の展望について,簡単にご紹介します。

1 . はじめに

インターネットの普及した現代では,誰でも簡単に文章,画像,音楽等をデジタルデータの形で入手できます。それらを複製・加工することもまた,手軽にできるようになりました。

我が国の著作権法は,時代の流れに合わせて度々見直されてきましたが,いずれの改正も昭和45年に立法された現行法の修正に留まり,著作権制度を根本から再構築するものではありませんでした。インターネットの普及により,著作物の在り方が根本的に変わったにもかかわらず,著作権法の基本構造は,アナログを前提とした19世紀から大きく変化していません。そして,その結果,著作権法がインターネットを活用した創作活動等の障害になっていることも少なくありませんでした。

CCライセンスは,こうした弊害を取り除き,著作権制度を補完するために作られた,現行制度とは違う条件で流通や利用を簡易に許諾することができるツールです。本稿では,クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの事務局メンバー2名が,CCライセンスの思想,仕組み,広がりと今後の展望についてご紹介します。

2 . CCライセンスとは

2.1 なぜ今,CCライセンスか

(1) 著作権の誕生とアナログ・コピー

著作権は,活版印刷の出現を背景に誕生した権利です。印刷機による複写が可能になったことによって,容易かつ大量に作品を複製することができるようになりました。そうした中で,無許可の複製から出版社や作家等を守るために,著作権が生まれたのです。

その後,20世紀の後半に至るまでに,複写機による文書のコピー,音楽のカセットテープへのダビング等,様々な複製手段が登場しました。もっとも,これらは全て所謂アナログ・コピーであり,著作権保護の仕組みを根本的に変える必要は生じませんでした。

(2) デジタル・コピーの出現

現在,著作物の多くはデジタル化されたコンテンツとなり,CDやDVD等を通し,または媒体を介さずに直接,そのコピーを流通させることが可能となっています。デジタル・コピーは,元となる作品データを劣化させることなく複製する技術です。そのため,誰でも簡単に,複製したものを無断で再販売したり,加工して利用したりできるようになりました。

こうした行為から著作者の権利を守るため,著作権をはじめとした法律の改正が度々議論されるようになりました。最近では,2012年の著作権法改正により,違法ダウンロードに刑事罰が設けられたことが,世間の関心を集めました。

変化を求められているのは,著作権の保護の在り方だけではありません。インターネット上でのデジタル・コンテンツの利用が一般化した現在では,著作物を「いかに保護するか」だけでなく,「いかに利用させるか」という点についても再考が求められるはずです。

(3) 「一億総クリエイター」時代の到来

現行の著作権制度は,原則として著作物の複製等を禁止し,例外的な場合を除いては,その利用には権利者の許諾が必要という構造になっています。しかし,著作権者,特に作者であるクリエイターは,常に著作権の厳格な保護を望んでいるのでしょうか。

デジタル・コンテンツは,アナログの著作物に比べ,非常に少ない費用での制作を可能としました。さらに,作品を公開・宣伝する手段も,インターネット上にはたくさんあります。

例えば,音楽業界では従来,CDを制作するのに高額なレコーディング機材や防音設備が必要でしたし,CDをプレスするのにも多くの費用が掛かりました。作品を発表する際にも,TV等に広告を出さなければ,多くの人に作品を聞いてもらうことは困難でした。しかし,現在では,パソコンと10万円程度の機材があれば,個人でもプロ並みの品質の楽曲制作が可能です。YouTube等,公開の場も充実し,必ずしもお金をかけて宣伝しなくとも多くの人に作品を聞いてもらえるチャンスが生まれました。

このように,インターネットとデジタル・コンテンツの普及により,誰でも簡単にクリエイターとして作品を制作し,発表できる時代が訪れました。実際,多くのアマチュアやセミプロがインターネット上で作品を公開しています。

そして,これらのクリエイターは,必ずしも作品を通じた収益を望んでいる訳ではありません。むしろ,作品を多くの人に楽しんでもらったり,使ってもらったりすること自体が創作の原動力だという方は,プロの中にも多くいます。そのようなクリエイターにとっては,禁止を原則とする現行の著作権制度は,少々窮屈な仕組みといえます。

(4) クリエイティブ・コモンズとは

ここに,CCライセンスが必要かつ有用である理由があります。CCライセンスは,クリエイターが自分の意思で,一定の決まった範囲で著作物の利用を許諾し,第三者が自由に安心して使える状態にすることを可能にするために設けられた仕組みです。

このように,作品が提供される公共の場,又はライセンスの普及・実践を行うための活動及びその組織を「クリエイティブ・コモンズ」といいます。万人が従うべき法を作成するのではなく,クリエイターに選択肢を与え創作活動を支援することが主たる目的です。現在,60カ国以上の国で活動が行われており,日本では,特定非営利活動法人コモンスフィアが「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」事務局を設け,その普及・実践のための活動を行っています。

CCライセンスは後述するとおり,各国の言語に翻訳されるなどして,各国において利用できるよう工夫されています。クリエイターは,CCライセンスを利用することで,各国における現行の著作権制度を前提としつつ,それとは異なる条件で,作品の流通や利用を許諾(ライセンス)することができるのです。

CCライセンスの利用は年々増加しており,2014年の時点で,全世界で9億件近い数の作品がCCライセンス付きで公開されています[1]

[1] 「State of the Commons」 https://stateof.creativecommons.org/

2.2 CCライセンスで出来ること

CCライセンスの仕組みについて,もう少し詳しく見ていきましょう。

(1) CCライセンスの基本的な仕組み

まず,文章や画像,音楽等の作者が,作品にCCライセンスを付けて公開します。CCライセンスは,著作権法の知識がなくとも,簡単に使用することができます。クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのホームページ[2]にある「CCライセンス付与」というメニュー上で,いくつかの質問に答え,フォームに作品情報を入力するだけで,ライセンスの「コード」が表示されます。これをコピーして貼付けるだけで,CCライセンスの付与は完成です。

[2] http://creativecommons.jp/

クリエイターの回答に応じて発行されるCCライセンスは,以下の4つの条件の組み合わせによって構成されています。

  • 「表示」 (BY)
  • 「非営利」 (NC)
  • 「改変禁止」 (ND)
  • 「継承」 (SA)

それぞれの条件は,一見して理解・把握しやすいように,上記のカッコ内の文字列や,以下のマークによって表現されます(図1)。

ccl-elements
図1 各マークのシンボルと意味

実際に選択できるライセンス(条件の組み合わせ)は,以下の6種類となります。

  • 表示 (BY)
  • 表示-継承 (BY – SA)
  • 表示-改変禁止 (BY – ND)
  • 表示-非営利 (BY – NC)
  • 表示-非営利-継承 (BY – NC – SA)
  • 表示-非営利-改変禁止 (BY – NC – ND)

クリエイターが作品に付与したCCライセンスの条件は,ライセンス条件を要約した「コモンズ証」の形で外部に表示されます。コモンズ証の下部には,利用許諾条件(リーガルコード)がリンクされており,簡略化されていない正確な条件を確認することも可能です。

利用者は,マークに表示された条件に従いさえすれば,権利者に個別に連絡せずとも,作品を利用することができます。権利者が上記6つのライセンスのどれを選ぶかにより,自由度には多少の幅はありますが,CCライセンスでは,現行の著作権制度のように禁止を原則とせず,自由な利用を原則としています。そのため,利用者は表示された条件のみを気にすればよく,格段に作品を利用しやすくなっています。

例えば,自分が撮影した花の写真に,「表示-改変禁止」(BY – ND)をつけて公開したとします。そうすると,その作品を見つけた第三者は,作品名や作者名といった作品情報を表示さえすれば(BY),作品を改変しない限り(ND),自由に複製したり,ブログで紹介したり,それを販売して収益したりすることができます。仮に「改変禁止」(ND)が付いていなければ,改変して自分の作品に使用することも可能です。

(2) 面倒な許諾を不要にする

現行制度の下では,原則として許諾が必要ですが,権利者が誰か,いかにして権利者に連絡をとればよいか等が分かりづらい場合があり,それが著作物の利用の障害となっていました。

これに対し,CCライセンスは,作品にライセンス条件を簡易に表示することにより,作品と一緒に流通する仕組みになっているので,利用者にとっても利用条件が明確です。

(3) メタデータで検索可能にする

CCライセンスは,同ライセンスを採用した著作物の著作権情報を示すメタデータを提供します。これを著作者のWebサイト等に追加することにより,検索エンジンもライセンス条件が機械的に理解できるようになりますので,CCライセンスが付与された作品を検索することが可能になります。

(4) 時代に合わせてライセンスを更新

CCライセンスには「バージョン」が存在します。イメージとしては,WindowsにXPやVista,8といった複数のバージョンがあるのと似ているかもしれません。現在の最新のバージョンはCC4.0ですが,それ以前のバージョンも有効です。時代に合わせ,従来の問題点を改善し,より使いやすく,よりニーズに沿うように,常に新しいライセンスを提供しているのです。

最新のCC4.0では,主に次のような点が修正・変更されました。

  •  従来は,複数の国にまたがった利用の場合に,各国法に対応したライセンス相互間の関係が不明確になると指摘されていました。
     CC4.0では,各国の法制度にカスタマイズすることなく,全世界で単一のライセンスを利用することとなりました。それだけですとライセンスが英語版しか存在しなくなってしまいますので,CC本部が管理する「公式訳」が用意されています。
  •  著作物の利用にあたっては,著作権とは別の権利が同時に問題になることがあります。従来は,このような各種権利との関係が不明確であると指摘されていました。
     CC4.0では,著作権法以外の関連法規とライセンスとの関係を明確化しました。具体的には,データベース権[3]をライセンスの対象とする権利に含め,データベース提供者によるCCライセンスの利用を可能にしました。また,それ以外の権利(著作者人格権,パブリシティ権,プライバシー権等)には,原則としてCCライセンスの効力が及ばないものの,CCライセンスの付与者が,ライセンスの条件に反しない限りこれらの権利を放棄又は不行使することが明文化され,その後の作品利用による権利侵害リスクを減らしました。
  •  従来は,CCライセンスの付与された著作物を利用しようとする際,「表示」(BY)要件を満たすため,著作物に関する様々な情報を表示する必要がありました。しかし,インターネット上では,ある程度ボリュームのある情報は作品中に表示するのではなく,別の場所に記載してリンクを貼るといった方法も一般的です。
     CC4.0では同慣習に従い,著作物に関する情報の掲載ページへのリンクを表示すれば「表示」(BY)要件を満たすこととしました。
  •  従来は,二次創作の場合(改変した場合)にのみ,原著作者がその氏名・名称を表示しないようにさせることが可能でした。
     CC4.0では,単なる複製の場合にも「表示」(BY)義務の免除を認めることとしました。
  •  従来は,CCライセンスの利用許諾条項に反した利用が行われた場合,許諾の効力がただちに失われることになっていました。
     CC4.0は,被許諾者(利用者)が30日以内に違法状態を解消すれば,許諾の効力が継続することとし,是正の機会が与えられました。
[3] データベースの抽出・再利用による利益をデータベース作者が独占できるようにする権利。

3 . CCライセンスの現在

3.1 近年の主な採用例

CCライセンスを採用したコンテンツとして,最も有名なものは,Wikipediaでしょう。Wikipediaは不特定多数の利用者によって作成・更新されているウェブ百科事典ですが,実はそのテキストには,CCライセンスの「表示-継承」(BY – SA)が自動的に付与される仕組みとなっています。

また,若者を中心に人気の音声合成ソフトであるVOCALOID「初音ミク」も,その公式イラストにCCライセンスを採用しています。これにより,同キャラクターを使った二次創作が活発になっています。

画像では,写真共有サービスであるFlickrがCCライセンスを採用しています。Flickrでは,一千万人以上のユーザーが投稿した100億枚以上の写真を,ライセンスの種類別に検索することが可能です。現在,「表示」(BY)のみの条件で使用できる写真だけでも5,000万枚以上,「表示-継承」(BY – SA)の条件の下で使用できる写真は2,500万枚以上もあります[4]

[4] https://www.flickr.com/creativecommons/

さらに,我が国の文化庁は2013年,公式にCCライセンスを支援していく旨発表し,官公庁の一部ウェブページでCCライセンスが採用される等,公共部門からの関心も非常に高まっています。

3.2 企業等での活用例

CCライセンスのついた作品は,企業活動の中で利用することもできます。

例えば,先ほど紹介したFlickrに投稿された写真を,社内プレゼン用の資料やパンフレット等の印刷物に使用することが考えられます。Flickrには100億枚以上の写真があり,指定語句検索もできますから,印刷物に載せたい写真を自社で用意するよりも,手軽かつ容易に,必要な写真を入手できることも多いでしょう。

では,どのライセンスが付されたものまでが使用可能でしょうか。社外向けのものについては,営利目的で利用していることが明らかですから,「非営利」(NC)のものは利用できません。他方,あくまで内部資料としてしか使わないものについても,それがひいては事業に資するために用いられているといえることから,やはり「非営利」(NC)には該当しないという意見があります。クリエイティブ・コモンズはこの点について公式の見解を公表しておりませんので,利用態様に不安がある場合は,顧問弁護士などにご相談いただくべきでしょう。

4 . CCライセンスの課題と展望

4.1 課  題

CCライセンスは,簡易な方法によって,万人にわかりやすい形で利用範囲を示すライセンスです。これがCCライセンスの良さを支えているわけですが,このような「良さ」の裏返しになる問題もあります。よく議論されている3つの問題を紹介します。

(1) 権利者以外がライセンスを付与するリスク

CCライセンスは作品と一緒に流通する仕組みになっているため,ライセンス内容さえ確認すれば面倒な許諾が必要ない点にメリットがあることは前述しました。しかし,その許諾をしたのが本当にその著作物の権利者なのか,確認が難しい場合があります。

現時点では他人の作品に勝手にCCライセンスをつけて流通させることを物理的に防止する手段はないため,クリエイターにとっては,CCライセンスが自らの意思に反して付与されてしまうリスクがあり,利用者にとっては,ライセンスを信じて利用したのに本来の権利者の著作権を侵害してしまうリスクがあります。このようなケースが多いわけではありませんが,CCライセンス自体に「身元保証」的な役割までは無いことには,留意する必要があります。

(2) 著作権以外の権利を侵害するリスク

例えば,CCライセンスが付された写真に撮影者以外の顔が載っているが,その人物は写真を撮ることやネットに掲載することを許していない,という場合,その写真の利用は肖像権侵害となる可能性があります。

前記のとおり,CC4.0はライセンス付与者にこのような権利を放棄させるのですが,付与者以外の人物の権利が関係する場合,その権利は勝手に放棄できませんので,残ったままになっています。このため,特に人物の写った写真を使う場合には注意が必要です。

(3) 「非営利」の範囲が不明確であること

4つの条件の1つである「非営利」(NC)は,比較的よく利用される条件です。にもかかわらず,例えば企業の「内部資料」としての利用について前述したとおり,「非営利」(NC)の範囲は必ずしも明確ではなく,時に作品の利用をためらわせる原因となっています。

クリエイティブ・コモンズがその明確な線引きを示せればよいのですが,我が国でいえば著作権法上の「営利目的」の解釈など各国法の解釈とも関連しうる問題であり,必ずしも一筋縄ではありません。

4.2 展  望

こうした課題の解決に向けて,各国の団体は常に検討を重ねており,今後も,CCライセンスのアップデートや,ライセンスの解釈に関する何らかの見解表明など,ライセンスを利用しやすくする努力が続けられていくでしょう。

すべての課題をただちに解決することは,残念ながら難しい状況です。今後,新たな課題が浮上する可能性もあります。しかし,時代が逆行することはない以上,著作物のオープン利用を進める動きは今後も広がりを見せるものと思われます。CCライセンスをはじめとしたクリエイティブ・コモンズの活動は,今度もその世界的な中心を担っていくものと思われます。

5 . おわりに

著作権は,身近でありながら複雑で難しい権利です。しかし,純粋に作品を楽しんでもらいたいという作り手の気持ちは,難しい議論抜きに,多くの方に理解していただけるのではないでしょうか。本稿をきっかけに,一人でも多くの方に,クリエイティブ・コモンズの考え方に共感していただければ幸いです。