ロシア南部のソチを訪ねた安倍首相がプーチン大統領と会談し、北方領土問題や平和条約の締結問題について「新たな発想に基づくアプローチで交渉を進める」ことで一致した。

 会談後、首相は「2人で未来志向の日ロ関係を構築していく中で解決していこうという考えで一致した」と語った。9月に首相がウラジオストクを訪問するなど、年内に首脳会談を重ねていく方針も確認した。

 戦後70年を過ぎてなお、平和条約が結べないのが日ロの現実である。領土問題を解決し、平和条約を結ぶ糸口をつかもうとする首相の姿勢は理解できる。

 中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイルによる挑発に向き合い、北東アジアに安定した秩序をつくるためにも、日ロの首脳同士が対話を重ね、関係改善を図ることには意味がある。

 ただ、守るべき原則を忘れてはならない。領土問題などでの「力による現状変更」を許すことはできない。この普遍的な理念をともにする米欧などと緊密に連携してこそ、ロシアとの対話も成果をあげられる。

 その意味で首相がプーチン氏に対し、ウクライナ問題に関して、ウクライナ政府と親ロシア派との停戦を決めた「ミンスク合意」の完全履行を求めたのは当然のことだ。

 一方で、首相はエネルギー開発や極東地方の振興策など8項目の協力プランを提案した。

 ロシアはウクライナ問題で国際的な地位が低下し、国内経済は低迷が続く。アジア2位の経済力をもつ日本をひきつけることで、国際社会の足並みを乱す思惑もうかがえる。

 米欧や日本がロシアに経済制裁を科し、国際秩序への復帰を迫るなか、日本の協力プランが何をめざし、守るべき外交の原則とどう整合するのか。日本が議長国を務める今月下旬のG7首脳会議(伊勢志摩サミット)などを通じ、首相は国際社会に説明する必要がある。

 何より首相に説明を求めたいのは「新たなアプローチ」が何を意味するのかだ。

 日本政府は、これが具体的に何を指すかについて明らかにしていない。政府高官は、四島の帰属問題を解決して平和条約を締結するという従来の外交方針は「まったく変わっていない」としているが、ならばいったい何が新しいのか。

 領土問題の解決には妥協も必要だろうが、国民の理解と支持がなければ禍根を残しかねない。基本的な考え方について、できる限り国民に説明し、理解を広げる努力をすべきだ。