日露首脳会談 領土打開へ次につなげ
安倍晋三首相がロシア南部のソチでプーチン大統領と会談し、北方領土問題について「これまでの発想にとらわれない新しいアプローチで交渉を進めていく」ことで合意した。
北方四島(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)の帰属を確認して平和条約を締結するというのが両国間の合意である。これまでの交渉で日本側は四島が「日本の固有の領土」であると主張してきたのに対し、ロシア側は、四島が「第二次世界大戦の結果、ロシア領になった」と強引に領有を正当化してきた。
突破口を開くには、両首脳の政治決断が必要だ。それには過去の行為の正当化に固執するのではなく、幅広い建設的な関係構築の中から可能性を探る必要がある。それを確認できたとすれば、平和条約交渉の次のステップに寄与するだろう。
首相が医療、都市インフラ、エネルギー開発など8項目の協力計画を提案したのも、経済など多角的な関係強化を通じて領土交渉の打開を促す狙いがある。
ただ現状は厳しい。両国がロシア極東など地域の経済発展に協力できる可能性は大きいが、ウクライナ問題をめぐる対露制裁や資源価格の低迷で、多くの日本企業は対露投資に慎重になっている。当面は地道な協力を重ねつつ、長期的な可能性を探るしかないだろう。
一方、日露には台頭する中国や核開発を進める北朝鮮にどう向き合うかという安全保障上の共通の課題もある。中国の南シナ海進出や米国のミサイル防衛システム配備をめぐって意見の違いもあるが、互いの立場への理解を深めるために人的交流のパイプを太くして関係強化を進めることは必要だ。
両首脳は、9月にロシア極東のウラジオストクで開かれる経済フォーラムに合わせて再び会談することでも合意した。プーチン大統領が訪日しないまま安倍首相が4回続けて訪露するのは外交上異例ではある。
ロシアには国際社会で孤立していないことを示すため日本を利用したい意図もあり、米国が懸念を伝えている。強固な日米関係と主要7カ国(G7)の結束という大前提を崩してロシアに接近するという選択肢が日本にないことは改めて確認したい。首脳会談を重ねることは重要だが、こうした点にも慎重な配慮が必要だ。
2009年に当時の麻生太郎首相とメドベージェフ大統領は「新たな、独創的で型にはまらないアプローチで領土問題を解決する」ことに合意した。しかし、その後の大統領の国後島訪問などで日露関係は急速に悪化した。
失敗を繰り返さないよう、日露双方の建設的な努力が求められる。