米大統領選は、民主党のクリントン氏と共和党のトランプ氏の対決になりそうだ。夏の両党の全国大会で正式に決まる。

 両党とも候補選びは激戦になった。とくにトランプ氏の勝利は当初の想定外であり、世界が選挙の行方を注視している。

 予備選・党員集会は党内での争いだったが、今後は両氏とも本選挙を見すえて本格的な政策づくりに入る。米国が担う重責をわきまえた理性的な政策の提示と論戦を望みたい。

 多くの国々が懸念するのは、浮き彫りになった米国の内向き志向だ。トランプ氏は、難民や移民を嫌い、中東やアジアへの関与を重荷とみる発言が目立った。クリントン氏とともに、保護貿易に傾く姿勢もみせる。

 テロの不安や財政難は、どの先進国にも難題だが、その対策には地道な国際社会の調整が欠かせない。米国が自国優先の思考ばかりに走れば、米国も世界もいっそう不安定になる。

 そもそも米国は、グローバル化の旗手として人の移動や自由貿易を推進してきた。自ら広めた市場経済の世界で米国自身が内に閉じこもれるはずもない。

 そうした現実を踏まえているのか、今も疑問符がつきまとうのがトランプ氏である。

 雇用不安や格差の拡大など、政治への大衆の怒りは大きい。トランプ氏は、そうした人々の留飲を下げる言動で人気を集めることには成功したが、実際に効果のありそうな政策はほとんど何も語ってこなかった。

 日本などとの同盟関係については、駐留米軍の費用を同盟国の全額負担にするよう一方的に求めている。日韓の核武装までも容認するような暴言からは、米軍の最高司令官にふさわしい分別はうかがえない。

 共和党は正念場にある。本当に国家元首の候補に立てるのなら、トランプ氏を現実的な政策へ誘導する義務がある。党の分裂を恐れるあまり、国民を分断する扇動を黙認するようでは、責任ある政党とは言えない。党の再建は、同氏とのまっとうな政策調整から始めるべきだ。

 一方のクリントン氏は当初から本命視されていたものの、やはり内向きな発言が目立った。国務長官時代に推進した環太平洋経済連携協定(TPP)について、反対に転じたのは選挙向けの戦術とみる向きが多い。

 大統領に求められる資質は、国民が聞きたい言葉を語ることではなく、国民を導く賢明なビジョンを説くことだ。秋の選挙まで残る6カ月は、米国と世界の未来を見すえた実りある政策論議を展開してもらいたい。