鏡は嘘をつかない [インドネシア映画]
サンパール荒川でインドネシア映画「鏡は嘘をつかない」を観てきました。
映画公式サイト:http://www.pioniwa.com/kagamimovie/
東京国際映画祭、マニラ国際映画祭、ムンバイ映画祭、香港国際映画祭、台北映画祭など数々の映画祭で上映されたくさんの賞に輝いたインドネシア映画。漁に出たまま帰らない父親の帰りを待ち続ける母と娘を主軸に、女の子を慕う男の子や都会から来たイルカ研究者の青年を交えて、インドネシアの美しいサンゴ礁の島に生きるバジョ族の日々の暮らしを追っています。
海の中に家が建ち、そこに住む人々は海には小さい時から親しみ、一人で船をこいだり、泳いだり、仰向けになって海の上でプッカリと浮かんだり、また昼の時間には昼寝をしたり、夕方になれば地平線の先に沈む太陽や夕焼けが何とも美しく、それだけを観ていても何とも羨ましく、何だか忘れてしまっていたことだなあと思いました。でもそこに住む人にも多かれ少なかれ悩みがあり、漁から帰ってこない父親が行方不明のままで気持ちが宙ぶらりんの状態にされストレスを抱える女の子、そしてその母親で若くして未亡人になりそうな女性もフラストレーションがたまる一方の様子。
母親がおしろいなのか日焼け止めなのか、顔を常に真白に塗っているのですが(ミャンマーのタナカと言われるおしろいみたいなものなのだろうか?またインドでも肌が白い方がいいといってお金持ちは特に小さな時から日焼け止めをかなり塗っているので、そんな感じなのでしょうか?)研究者の青年を民宿にしたその母娘の家に泊めてあげて、その母親のおしろいを青年が落としてあげる感じは秘儀みたいで、ちょっとエロチックでした。また女の子が鏡をもって占い師の元に通って占ってもらうのですが、最後には鏡を母親によって割られてしまい、いろんな家から鏡を盗んでその鏡を人があまり来ない小島の一本の木に下げてキラキラさせていたのはとっても美しかったです。
映画の最後は、女の子の友達の男の子のお父さんも漁に出て亡くなり、またその際に女の子の父親の船の一部が見つかることで、その女の子も母親も一歩踏み出せるような感じになっていました。
男の子たちがインドネシアの歌なのでしょうが、ちょっとインドっぽい歌とそして踊りを披露するところがあり、可愛かったです。即興で歌を歌うのも何だか中国の少数民族の人たちみたいで、アジアに共通しているようで興味深かったです。またもち米みたいなものを良く食べていてタイのカオニャオというもち米を思い出しました。
何だかとってもキラキラした映画でした。そこに住む人たちはきっとこんな生活全然良くない、というかもしれませんが、何だかちょっと羨ましい生活でした。ハリウッド映画ばかりでなくたまには他の国の映画も本当にいいなあと再認識した映画でした。岩波でやりそうな映画だなあと思ったら来月から岩波で公開です。お勧めです。
REVALUE NIPPON PROJECT 中田英寿が出会った日本工芸 [絵画・美術館展・博物館展]
パナソニック汐留ミュージアムで「REVALUE NIPPON PROJECT 中田英寿が出会った日本工芸 」を観てきました。
公式サイト:http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/16/160409/
この美術館に行くのは十数年ぶり。以前ルオーの絵を観に行ったことがありましたが、この美術館はルオーの絵をたくさんもっているので、この特別展のほかにも小さな部屋にルオーの絵も何点か飾ってありました。もともと小さな美術館なので、あっという間に鑑賞してしまいました。
日本伝統工芸を見直そうとのコンセプトのもと、「陶磁器」「和紙」「竹」「型紙」「漆」を使った作品が並んでいました。それぞれ伝統工芸を使って現代風にアレンジしているのがとっても素敵でした。伝統工芸も現代風にアレンジしたらもっと需要もあるだろうなあと思いました。
奈良美智が作ったUFO鍋はとってもキュートで、そして思っていた以上に大きくて存在感ありました。入口から入ったすぐのところに展示していることもあり、とっても目を見張りこの展覧会の一番の目玉でした。いつも大きな目のちょっと小生意気な女の子の絵を描いていて、よしもとばななの本の装丁などによく使われていたので昔から親しみがありました。また偶然知り合った人が奈良美智と同級生だったらしく、奈良くんと気軽に言っていたのを思い出します。
和紙を使った張り子の白クマもサイズが大きいのにびっくり。等身大だとのこと。また大きな作品では真っ赤な梅の花をかたどった漆塗りのお風呂も目を引きました。また記憶に残っているのは、薄く削った竹を使って英語で詩を書いてある作品。それとオルゴールですが、大きな花弁を広げた漆の花で装飾してあった作品。silver balloon と名付けられた染色道具の型紙のその隙間から漏れる明かりを利用しての照明。それぞれとっても繊細でなんとも美しかったです。やはり美術館に行くのは楽しい!と思いました。
帰りは銀座に寄って帰ってきたのですが、中国人の観光客の多さに銀座が乗っ取られた気分。よくテレビの報道では見ていましたがこれほどになっているとは。日本人よりも中国人のほうが多いのではないかと思えるくらい中国語が飛び交って、中国人が銀座を闊歩していました。凄すぎる!
レヴェナント 蘇えりし者 [Leonardo DiCaprio]
レオナルド・ディカプリオが念願のアカデミー賞主演男優賞を獲った「レヴェナント 蘇えりし者」を観ました。
映画公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/revenant/
実話をもとに書かれたマイケル・パンクの小説「レヴェナント」の映画化。舞台は1820年代のアメリカで、毛皮を求めて移動する遠征隊の道案内のグラス(レオナルド・ディカプリオ)がクマに襲われ瀕死の重傷を負う中、彼の世話をするため残った2人のうち一人のフィッツジェラルド(トム・ハーディ)が、グラスを置き去りにした上、グラスの子供を殺してしまう。命を取り留めたグラスは、過酷な自然に耐え、先住民たちの襲撃をかわしながら、フィッツジェラルドへの復讐をする…。
荒野の中、しかも季節はずーっと雪の積もった極寒の中、クマに突然襲われ、身動きできなくなり、そこから世話してもらえるはずの仲間に裏切られ荒野に見捨てられ、しかも自分の大切な息子を殺され、そこから先住民の襲撃に遭い激流に流され、死んだ動物の骨に残った肉をむしゃぶり、魚をとらえて生で食べ、別の先住民に会い、獲物の生肉を分けてもらいそのまま食べ、体が腐りかけていると言われてテントの中でいぶして治療してもらっている中、その良くしてくれた先住民は他の部隊に殺され首をつったままにされ、再び一人になったグラスが寝ているところをまた襲われて、盗んだ馬で逃走する中、崖からそのまま落ち馬も亡くなり、その馬の内臓をえぐり出して自分が裸になってその馬の体の中にすっぽり自分が入り寒さをしのぎ、元の遠征隊に合流して自分を見捨てたフィッツジェラルドの居場所を突き止める…。フゥー。すごい映画でした。
グロテスク。サバイバルとは本当に生易しいものではないということが、この映画のワンシーンワンシーンから伺えました。矢が突然人を射抜いて、すぐに争いが始まったり、ドンパチ拳銃が鳴り響いたりのアナーキー状態。心臓に悪いシーンがたくさんありました。その一方で、雪が降り積もった荒野、大自然が美しくもあり、静かな風景も心に残りました。主人公のグラスは先住民の女性と結婚して息子もいましたが、自分の妻となった人は早くに亡くなってしまい、事あるごとに彼の頭の中に妻の面影がよぎります。先住民の言葉が時々しゃべられ、静と動のメリハリある映画にも仕上がっていました。また息子も殺されてしまったあとは殺したフィッツジェラルドに復讐の念を持ち、体がまだ元に戻っていないにも拘らず自らグラスは復讐に立ち上がりますが、その戦いも雪の真っ白な中、ナイフで指を落とし、足をぶつぶつと刺し、真っ赤な血が真っ白な雪の中に広がるのです。凄まじい映像でした。
レオがやっと手に入れたアカデミー賞主演男優賞。その価値は本当にあると思いました。賞レースが始まったとき、「リリーのすべて」で同じようにゴールデングローブ賞主演男優賞やアカデミー賞主演男優賞にノミネートされていたエディ・レッドメインが、「賞は間違いなくディカプリオが獲ると思います」と言っていたのですが、この映画を観ると本当にまさにレオがこの役に徹していてブレがなく、堂々としたグラスを演じていました。本当に長い間願っていた賞が獲れて良かったです。レオ、おめでとう!と言いたい。
また憎まれ役のフィッツジェラルド役のトム・ハーディや遠征部隊の隊長のドーナル・グリーソンも良かったです。トム・ハーディは「裏切りのサーカス」で注目したのですが、レオと一緒に「インセプション」にも出ていてレオとは縁があるのかなあと思いました。また雑誌Timeのインタビューにトム・ハーディが「僕はベネディクト・カンバーバッチやエディ・レッドメインとは違うタイプだし、彼らのようにはなれない。もちろんエディとは仲が良くて友達だけどね」と言っていた記事を読みましたが、もっと彼の出演作品も観てみたいなあと思いました。またドーナル・グリーソンが「アバウト・タイム 愛しい時間」の主役ティム役を演じてた同じ人とは知らずに観ていて、後からチェックしてびっくりしてしまいました。彼の作品ももっとチェックしたいです。
この作品がアカデミー賞作品賞を獲ってもおかしくない位、作品自体も完成度が高かったと思います。お勧めです。
帰ってきたヒトラー [ドイツ映画]
「帰ってきたヒトラー」をイイノホールで観てきました。
公式映画サイト:http://gaga.ne.jp/hitlerisback/
外国映画輸入配給協会の主催による「優秀外国映画輸入配給賞」授賞式があり、最優秀賞を獲ったギャガが提供する受賞特別試写会「帰ってきたヒトラー」が上映されました(6月公開映画)
独裁者アドルフ・ヒトラーが現代にタイムスリップ。周りの人たちはまさか本物のヒトラーであるとは夢にも思わず、ヒトラーの物まねがものすごくうまい芸人だと思い込みやがてテレビに引っ張りだこに。今の世の中を真剣に情熱的に憂い正論を展開し、民衆の心を徐々にわしづかみにしていく。でもそれはちょっと狂気的。そしてあっという間に人気者に。そのうち彼の残虐さが明るみに出て人気も下火になるもそれを利用し自伝を執筆し映画化に…。
白黒の記録画像でしか見たことがないヒトラーですが、その顔立ちといい振る舞いといい、何ともよく似ていました。今のドイツを批判し、風刺した映画になっていてちょっと笑えたりもしましたが、ヒトラーが書いた本「我が闘争」がドイツ国内では長い間販売禁止にされ、ヒトラーに関してはタブー視されているドイツにあって、この映画が作られたというのは本当に画期的なことなんだろうなあと思います。娯楽性が高いユーモアある作品とみる人もいれば、ヒトラーを映画化するなんて正気の沙汰でないという批判もあるかもしれませんが、私としては面白かったです。若者と高齢者の貧困、失業者…。今の日本だって同じじゃないか、と思えた映画でした。
また言うことを聞かない子犬を銃で即、射殺してしまうシーンがあるのですが、ヒトラーの性格を良く表しているシーンだと思いました。こんな風にユダヤ人も簡単に殺していったのだろうなと思い怖かったです。ヒトラーに家族を殺されて今は認知症を患っているおばあちゃんがヒトラーをちらりと見たとき、狂ったように「私は忘れていない、出て行ってくれ」と泣き叫ぶシーンも印象的でした。知らないうちに戦争へと進まぬよう私たちは絶えずウォッチしていかないといけない、ヒトラーのような人が今の時代にもてはやされたりすることがないようにしないといけない、そう映画は語っているようでした。
笑いの中にたくさんの問題提議がなされ、色んなことを考えさせられる映画でした。
よしもとばななの本 [本]
よしもとばななの本を読みました。
宮本輝とよしもとばななの対談の本で、作家2人が作家の資質とか作家として生きることや死に関してなどいろいろな話をしています。結構薄っぺらい本なのであっという間に読めます。宮本輝が若い時にサラリーマンをしていて会社に行けなくなりそれで作家になり、それからも結核になったりしていたなんて知りませんでした。
ダライラマとよしもとばななが対談したものをまとめた本。よしもとばななのエッセイとダライラマのメッセージと質疑応答みたいな感じでまとまっていて、この本もまた薄っぺらい本で活字まで大きいので30分もかからず読めてしまいます。こんな本が出ていたことを知りませんでしたが、ダライラマもよしもとばななも好きなので私にとっては絶対に読まないと、という本でした。
よしもとばななが初めてネパールのスワヤンブナート寺院に行ったとき、「私はこういう場所にいたことがある、ここに帰りたい…そんな気持ちがどんどん溢れてきました」「もし前世というものがあるなら、私は僧侶としてチベットにいたことがあるに違いない、とその時から思うようになり、ダライラマ法王のご著書やチベットに興味を持つようになりました…」と述べています。私も前世があるならチベット人だったと思うので(ネパールでチベットのお坊さんに前世占いしてもらった時、チベットで尼さんのような生活をしていたと言われ、満更うそでないだろうなあと自分自身納得できるのです。私自身もインドやネパール、チベットのチベット寺にいくらいても飽きず、またチベット文化に心地よさを感じています。チベットの娘さんたちの髪飾りや女性のエプロンに使われてるショッキングピンクと水色を見たとき、この色こそ昔からよく知っていて大好きだと思ったし、チベットに個人旅行できないときに個人旅行できたのもそういう縁からきているのだと思いました。またダラムサラでダライラマ法王にお会いしたときは一日中幸せ感が体の中から湧き上がってきて仕方なかったのを思い出します)やはり、こうしてチベット繋がりで繋がっているからダライラマにもよしもとばななの書いたものにも惹かれるのかもしれません。不思議ですが、理屈じゃないなあと再確認させてくれたよしもとばななの言葉でした。
動物のこと、旅先でのこと、作家仲間のこと、食べ物屋さんのこと、家族のこと…、彼女が幸せだと思えること、思い出などが書かれていました。彼女の文章を読んでいると、それは随筆でも小説でも幸せ気分になります。優しい気持ちになれます。だからこそ、たぶんずっと彼女のファンで居続け、彼女の本を読んでいるのだと思います。
写真が入った本。ハワイにまつわるエッセイ。イルカが好きなこと、フラを習っていること、その踊りのうまい知り合いのこと、家族で行ったハワイ旅行のこと、ハワイが天国に近い場所であることなどなど。私は未だにハワイには行ったことがないので、いつか行ってみたい。よしもとばななの感性に似たものがあるといつも思っていて、彼女と同じような体験やその感じ方を時々しているなあと思うことが度々なので、彼女が好きなハワイに行ったら私も何か感じるものがあるだろうなあと思いました。ハワイは、いつか死ぬまでに行きたい場所のひとつです。
おまけ:
女流画家ゲアダ・ヴィーイナと「謎のモデル」 ~アール・デコのうもれた美女画~
- 作者: 荒俣 宏
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2016/03/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
映画「リリーのすべて」で夫アイナー(リリー)をモデルにした妻ゲルダの絵が気になってこの本を探し当て読んでみました。たくさんのゲルダの絵が入っていて、また二人の物語が更に語られていて興味深かったです。ゲルダの絵は時に漫画のような、それでいてセクシーでエロチックで、1920年代のパリにあって華やかで、美しくフレンチカンカンみたいな世界でした。当時のたくさんの雑誌を飾り、やはり夫リリーをモデルにして描いているゲルダの絵は一番彼女自身が輝いている時代でもありました。夫がどんどん女性になっていくのを支えるのは心理的にも苦しい時だったでしょうが、皮肉にも夫をモデルにしたことで彼女の絵が売れ出しもてはやされていくのですから、人生とっても皮肉なものです。
映画の中ではリリーのオペは2回あって、それでリリーは亡くなる感じでしたが、実際には4回~5回もしたらしく、しかもリリーは新パートナーとの間に子供を望み、子供が授かることを望んでの手術で命を落としたことがわかりました。またその時既にゲルダとリリーの二人は離婚し(その離婚も簡単にできないためデンマーク国王に直接手紙を書いて認めてもらうというようなやり方で離婚の手続きをし)それぞれ別のパートナーと一緒になり、ゲルダはパリに住み、リリーはデュッセルドルフに住んでいたため、二人の手紙のやり取りもしていて今もその手紙が残っていて、この本にはその手紙の一部も公表されていました。その最後のオペのことをリリーはゲルダに知らせたくなくて、また死を覚悟の上でのオペであったことがこの手紙からよくわかります。そしてリリーが亡くなると、ゲルダの絵も生活も一変。ゲルダはパートナーとも離婚し、家に引きこもりがちの生活を送ったと言うことです。 最後まで本当はこの二人は一緒にいなければならない存在だったのだろうなあと思いました。本にも書いてあったけれど、ゲルダはリリーにとって姉のような母親のような存在だったのかもしれません。この本を読んでまた涙を流しました。