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【社説】

保育士・介護職員 待遇改善はなお不十分

 安倍晋三首相は保育士と介護職員の賃金を来年度から引き上げるよう指示した。平均月額で保育士は約六千円、介護職員は約一万円を想定。実現は好ましいが、この程度で人材は確保できるか。

 首相は「一億総活躍社会」を実現するための国民会議で、保育や介護の人材を確保するため「競合他産業との賃金差がなくなるよう処遇改善する」と述べた。

 保育士も介護職員も、人手不足はより深刻になっている。背景にあるのは低賃金や長時間労働など、待遇の問題だ。

 安倍政権は昨秋、一億総活躍社会を実現するとして「出生率一・八」「介護離職ゼロ」などの数値目標を打ち出した。緊急対策に、保育の受け皿、介護が必要な高齢者の受け皿を従来目標に上乗せして整備することを盛り込んだ。

 しかし、肝心の担い手となる職員が足りなくては“絵に描いた餅”に終わる。保育士は二〇一七年度末までに九万人、介護職員は二〇年代初頭に二十五万人も不足すると見込まれている。

 政府は保育士の賃金を月額2%引き上げるのに加え、経験や職責に応じて数万円上積みすることを検討する。介護職員は平均月一万円のアップを目指す。

 実現すればいいが、財源はどうする。さらにこの程度の賃上げで人材が確保できるのだろうか。保育士や福祉施設の介護職員の月収は平均で約二十二万円(一五年)。全産業平均と比べ十万円以上低く、引き上げても、差は依然として大きい。現場からは「この程度では焼け石に水」との声も上がる。政府は、将来見通しや理念、また必要性を国民によく説明した上で、待遇の改善策を検討すべきではないか。

 自民、公明、民主の三党で合意した社会保障と税の一体改革では、子ども・子育て支援に、保育士の給与引き上げや職員配置を手厚くする財源も含め、年間一兆円が必要としていた。しかし、消費税が10%になってもまだ、三千億円足りない。賃金2%アップに必要な財源は五百億円程度。国民との約束を果たすには、予算配分の見直しが必要になる。

 「保育園落ちた」という匿名ブログが、多くの反響を呼んだのは記憶に新しい。しかし、不確実な政策なら、口だけの選挙向けと批判されるだろう。

 政府は今月中に「一億総活躍プラン」を取りまとめる。そのスローガンにふさわしい、実効性ある対策を打ち出してほしい。

 

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