地下室からの手紙
零細編集プロダクションを経営する、編集者兼ライターです。商工会議所、商工会主催の「創業塾」で講師もやっています。千代田区九段の事務所では、地下室でときどき宴会を催しています。
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連結器の話
連結器00


1925年7月17日、日本全国の国鉄車両が一斉に連結器を交換した。連結器交換を受けた車両は、機関車3200両、客車8900両、貨車 52万1000両。連結器は1両につき2個あるので、連結器の個数にすれば100万個以上を、一気に全交換したことになる。

もちろん国鉄の職員や関連事業に従事する人々は総動員で、事前の研修によりチームを組み、1チームが1個の連結器を15分で交換できるまでに練度を上げていた。
7月17日というのは、国鉄で統計を取った結果、1年で最も物流の少なくなる日だった。ここをめざして、すべての計画が立てられたのである。

交換といっても、まったく違う機器を取り付けるわけだから、車両の側にも準備をしておかなければならない。そのために、数年前から車両の定期点検のたびに準備工事が行われた。

機関車や客車は交換当日の作業場所が定められていたが、問題は莫大な数の貨車だった。貨車はどの列車に連結されてどこに行っているかがわからない。仕方がないので、貨車は床下に交換用の連結器をぶら下げて移動させることとなった。

アメリカの技術で鉄道が建設されていた北海道では、すでに自動連結器が使われていたが、新しく導入される自動連結器とは高さが違っていた。したがって、7月17日は連結器の高さを合わせる調整作業日となった。

世界の鉄道で、このような大規模な改修を一気に成し遂げた例はない。この結果、輸送力は大幅にアップし、作業員の死亡事故も激減した。日本の鉄道が、世界にその名をとどろかせた、最初のエポックだったのである。

連結器02


それ以前に使われていたのは、「バッファー&リンク」という方式の連結器である。上の写真は松山で復元されて走っている「坊ちゃん列車」だが、これがその方式の連結器だ。

構造は至って簡単で、お互いの切り欠きに金具を引っかけ、ねじを調節して連結長さを決めるだけ。ただし、金具は重く、ねじを回すのは人力なので、連結と解放にはどうしても人手が必要だった。

意思疎通がうまくいかないと、連結作業中の列車が動いてしまい、作業員が轢かれてしまう。現実に、世界中で多くの鉄道作業員が、この事故で生命を失っていた。

バッファーというのは日本語では緩衝器と訳すが、相手を押しつける役目のバネもしくは油圧装置である。連結器は引っ張る力を受け持ち、バッファーは押しつける力を受け持つ。これにより、加減速時のショックはなく、なめらかな走行が実現する。このタイプの連結器が持つただひとつの利点である。

坊ちゃん列車のバッファーは1カ所だが、いまでもヨーロッパで現役として使われているものは、車両の両サイドに2カ所設置されている。何カ国にも線路がつながっているヨーロッパでは、お互いの事情から、ついに連結器交換が実現しなかったのだ。

連結器03


この写真はロンドンのキングズクロス駅(ハリー・ポッターで有名ですな)。拡大してみると、右の機関車にはまぎれもなきバッファー&リンク式の連結器が装備されているのがわかる。それに対して左の車両は日本と同じような連結器がついているが、その理由は、この車両が外国に行かないためである。

1925年の大交換以来、各地の私鉄も自動連結器に交換された。国鉄と線路がつながっているところはもちろん、間接的に影響を受けるところも自動連結器を標準とするようになったのだ。

例外は、線路の幅が違う軽便鉄道や、在来車両と連結しないことが明白な工事用車両である。それらには「ピン&リンク式」というごく簡便な連結器が使われている。

連結器04


連結器05


たとえばこの軌道モーターカーと専用貨車の場合、ラッセルヘッドが邪魔で、通常の連結器は届かない。そこでピン&リンク式連結器と長いリンクの組み合わせが採用されている。

この連結器は軽便鉄道ファンから「朝顔型」と呼ばれ、こよなく愛されているというが、小生は軽便鉄道ファンではないので、よくわからない。

連結器01


話を自動連結器に戻すと、北海道で使われていたものや、1925年の大交換当初は、アメリカ製のシャロン式やアライアンス式自動連結器だった。
その後、鉄道省内部で開発された坂田式自動連結器が採用されて、それらを代替し、柴田兵衛氏の発明になる「柴田式自動連結器」が1920年代後半に出現すると、これが日本における標準型となった。これらは相互に連結可能であったため、その転換はゆるやかに行われた。
現在、日本国内で使われている自動連結器は、すべてが柴田式である。

なお、電車などの密着式連結器も正式には「柴田式密着連結器」という。ただしこちらの柴田は柴田兵衛氏ではなく、実弟の柴田衛氏の名が冠せられたものである。
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【2014/05/01 23:28】 | # [ 編集]


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やまさん-1号

Author:やまさん-1号
本名:山崎 修
東京都文京区生まれ。学習院大学理学部化学科卒。
平凡社「太陽」「別冊太陽」編集部、青人社「ドリブ」編集部、「日本こころの旅」編集長、「起業塾」編集発行人、悠々社「開業マガジン」編集発行人を経て、現在は有限会社悠々社代表(取締役)。
個人のフィールドとしてはライター、編集者、出版プロデューサー、開業アドバイザー。雑誌「商工会」連載、「創業塾」講師など。著書は『もーイヤだ、こんな会社辞めてやる!』(ゴマブックス刊)。

◎このブログは日々の雑感、埋もれた記憶などの整理場所です。興味と暇があったら、下のリンクにある他のブログも併せてご覧ください。
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