「大事なのは、いかに捨てるか」羽生善治が20年間トップに君臨し続ける理由
20年にわたり将棋界のトップを走り続ける天才棋士・羽生善治氏。10代の頃から常に結果を残してきた羽生氏ですが、長年活躍し続けられる理由は一体どこにあるのでしょうか。2006年に行われたサイバーエージェント社長の藤田晋氏との対談のなかで、“若さ”や“経験”が勝負事になにをもたらすのかについて語っています。
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- 将棋棋士 羽生善治 氏
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経験を積むことで失ってしまうもの
社会では経験を積むことが重要視されますが、一方でそれによって失ってしまうものもあると羽生氏は語っています。
ここぞっていうときに踏み込めるかっていうのはすごく大事なことで。メンタルな面からいうと年齢が上がってくると、その点はうまくできるんですけど、最後決めのことになると、「前こんなことやって失敗した」「こんなことやってしくじったな」ていうのが脳裏によぎってなかなか踏み込めない(笑)。
あともうひとつは年齢が上がると「これをやっとけばそこそこ平均点で、まあまあいいところは絶対行けるだろう」ていうこともだんだんできるようになってきてしまう(笑)。それをずっとやってると、リスクを取らなくなってしまうのもすごくよくあるんです。
若いときは何にも考えないで、怖いもの知らずにどんどん突っ走って行けるんで、それがかえって勢いを生んだり、ものすごい大きな流れを作ったりできるんですけど、それが自然に思慮深く・賢くなるというか。だんだん経験を積んでくると、そういうところは抑え気味になる。
たとえば最悪のこととか、危機管理としてこういう場面のときにはこうしよう、ああしようとか考えてるのは大事なんです。でも悪いことも、実際起こるのはたったひとつだけのことなんで、あまりたくさん想定しすぎちゃうと危機管理よりももっと大事なものを見失ってしまう。それが故に失っているっていうのは結構ありますよね。
引用元 「リスクの裏に楽しさがある」羽生善治氏がCA藤田晋氏と語った“勝負師のメンタリティ”とは
「いかに捨てるか」が重要になってくる
歳を重ねるにつれ、これまでの知識や経験というものに頼りがちになるもの。しかし、時代の変化に対応するために、時にはそれらを捨てることも必要になってきます。
とくに羅針盤・カーナビが効かないような状況で本当の真価が問われるんだ、って一面もありますし、あと、今ものすごい情報化の時代でデータとか簡単にどんどん入って来るんで、莫大な量を使いこなすことによって力をつけてるって感じもあるんですね。
そこが実は私が最近興味持ってるとこで。莫大に持ってる情報量が、全然見たこともない場面のときに自然に対応できる質に転換できるかどうかっていうのは、これから先に出て来る若い人たちの大きなテーマ・課題みたいなものなんじゃないかなあっていうふうに思ってます。
ただただ丸暗記してそれを使うっていうのは無理なんですけど、自分なりに栄養にして吸収して、本当に血となり骨となって行くことに変えられるかどうかっていうのは、すごく今問われているんじゃないかなと思っているのと。
あと実は、将棋の世界で一番の最先端の技術・流行の形っていうのは、ほとんど20代の前半でまだプロになってるか、なってないかくらいの人たちが大体作ってます。
いかに得るというより「いかに捨てるか」と「忘れる」って大事なことで、たとえば自分がすごく時間をかけて勉強したものを捨てるってなかなかできないんですよ。でもそれをむしろためらいなくどんどん捨てることをしないと、変化の激しいところは絶対ついて行けないってことは感じていて。私も15年前くらいにすごく研究・勉強してた形とかあるんですけど、今まったく何の役にも立たない(笑)。
引用元 「知識と経験を捨てろ」羽生善治が語る30代・40代の“強み”の活かし方
常に成長し続けるために「こだわり」を持つ
では、歳をとっても成長し続けるためにはなにが必要なのでしょうか? 羽生氏は、「こだわり」をいかにたくさん持っているかが重要だと語っています。
どこを見て、何を求めて、どこを目指してっていうところに結局最後は行きついてしまうのかなと、私は感じてることがあるんですよね。もちろん勝負だから「勝ちたい」っていう気持ちもあるし、見てる人たちが感心・感動してくれるとか、そういうものも残したい。何を目指すかっていうのは、何を決めるか、何をするかっていうときに、やっぱりすごく大きいのかなと。
実力、力を上げてくっていうのは、そういうこだわりをいかにたくさん持ってるかってことと、ほとんど比例してる感じなんですよ。「こういうことは絶対しない」「こういう手は絶対指さない」「こういう形は何があっても自分は作らない」とか、そういうものをいかにたくさん持ってるかっていうことが、力を上げてくことに関連していて。
そうするとほんのちょっとした隅っこの小さいところだけで争ってる感じなんですけど、でも、そういうこだわりがあるから、力を上げていくことができるっていうことはあるんですよ。
引用元 もう能力不足を「環境のせい」には出来ない–羽生善治氏が予測する、ネット時代に必要な成長力とは?
知識や経験を過信せず、こだわりをたくさん持つこと。羽生氏が常にトップに君臨し続けている理由の一端が垣間見えたのではないでしょうか。ぜひ参考にしてみてください。