トランプ氏 同盟はカネ次第なのか
まさかと思ったことが現実になったのである。当初は泡沫(ほうまつ)候補とみられた実業家のトランプ氏が事実上、米共和党の大統領候補の座を手に入れた。3日のインディアナ州予備選で大勝した同氏は、共闘していたクルーズ上院議員とケーシック・オハイオ州知事を撤退に追い込んだ。
驚くべき強さである。共和党主流派は、政治経験がなく問題発言を繰り返すトランプ氏がいずれ失速すると見ていた。同氏が勝ち続けると、候補者指名に必要な代議員を得られない可能性に望みをかけ、その場合は7月の党大会の決選投票で別の候補を擁立・指名したい考えだった。
しかし同党のプリーバス全国委員長は3日の予備選後、トランプ氏が実質的な候補者だと語り、「トランプ降ろし」の終息を印象づけた。一時本命視されたルビオ上院議員の撤退も含めて党執行部や主流派の誤算と迷走が目立つ候補者選びだった。
だが、これで終わりではない。同党は、異端視していたトランプ氏を候補者とすることで大きなジレンマを抱え込んだ。同氏の政策を党として受け入れ、大統領選へ党の結束を図ることが果たして可能か−−。
党大会では綱領の策定も焦点になる。綱領の中に「日韓の核武装を容認する」「メキシコ国境地帯に壁を造る」などの同氏の主張を取り入れるのは無理だろう。ブッシュ前大統領ら有力者の間ではトランプ氏を支援しない動きが広がっている。
共和党は候補者の極端な主張について修正を求めるのが当然である。トランプ氏はCNNテレビとの会見で、日本など米軍が駐留する同盟国に駐留費の全額負担を求めると語った。米国に守ってほしければ金を払えという発想だろうが、日本などに基地を置くのは米国の世界戦略の一環だ。同氏の主張はあまりに一面的で幼稚と言わざるを得ない。
既成の政治に不満を持ち、変化を求める人々がトランプ氏に夢をつないでいることは理解する。「アメリカ・ファースト」で米国に豊かさと強さと偉大さを取り戻そうと言えば、支持する米国人も多いだろう。
だが、米国の負担のみを声高に言い立て、同盟国の対米支援を軽く見るのは不当であり、支持者に幻想を与えることにもなる。同盟をカネで測るような態度では、米国が長年かけて築いた地位と信用を、米国の価値そのものを失わせるからだ。
共和党の候補者選びは、品のない低レベルの論戦がトランプ氏の問題発言を目立たなくした。11月の大統領選は民主党のクリントン前国務長官とトランプ氏の戦いだろうが、世界の行方を左右する選挙では傾聴に値する論戦を聞きたい。その論戦こそトランプ氏の試金石といえよう。