文化庁が数年のうちに京都に移る。「地方創生」の目玉として政権が旗を振った政府機関の地方移転である。

 中央省庁で文化庁だけが全面的な引っ越しの対象となった。

 文化庁の年間予算は約1千億円、職員定員は約230人と、省庁の中では規模が小さい。その行き先が大都市の京都というのは、人や仕事を地方に移して活力をもたらす効果より、象徴的な意味合いが強い。

 移転に向けて、8月末までに具体的な計画の概要をまとめるという。だが、スケジュールありきの準備にしてはならない。

 単なる引っ越しにせず、日本の文化行政の現状と将来像を見据え、文化庁の役割をしっかり再点検する機会にすべきだ。

 誘致した京都では、千年以上の歴史に彩られた文化の都として、文化行政に貢献したいと意欲的な声があがる。

 ただ、政府がいう移転の利点は「文化財を活用した観光の強化」程度で、具体性に欠ける。文化行政をどうするかという肝心な議論が深まっているとは言いがたい。

 移転後も、外交や国会対応など、ある程度の部署は東京に置くという。京都と東京の分担をどうすべきか、慎重に考える必要があろう。

 大半が首都圏に集中している文化・芸術団体からは、現場と役所との意思疎通が難しくなるのではないかとの懸念がでている。そうした意見にも丁寧に耳を傾けてもらいたい。

 「全面移転」にこだわって、文化行政をつかさどる中央官庁としての機能が弱まるようでは困る。

 何より大事なのは、東京か京都かという狭い発想に閉じこもるのではなく、これを機に、国全体の文化行政を充実させる方策を練ることだ。

 文化は土地とそこで暮らす人と結びついているものだ。たとえば、文化行政の拠点を全国に広げるのも一案だろう。

 文化庁は07年から京都に関西分室を置いている。その実績や課題を踏まえて、自治体や民間団体、文化施設などと協力して、各地に核となる場や組織を設けてはどうか。

 そこを足場に地域の芸術振興や文化財の保護・活用などに、きめ細かく対応する。並行して地域同士を結び、全国的なネットワークづくりを進める。そんな多極化した体制が目指せないだろうか。

 移転は新しい視点で自らを見直す好機でもある。文化庁は大胆に理想の未来図を描く気概で取り組んでほしい。