――もし、描いた手法がCGではなく絵画の場合ではどうでしょうか?
お話しした基準に照らし合わせると、この判断基準はCGだけに適用される訳ではありません。裁判所は「絵画の場合は、実在するモデルを描く意図であっても、その描いたものが稚拙なために、一般人から見て当該児童と同一と認識できない場合は、写真と絵画が同一と認定しにくい」とも指摘しています。
またCGや絵画を問わず、一般人から見て顔や体全体から輪郭と同一性があると言っても、例えば胸部・陰部を加工するなどして、結局胸部などの特定な部位においてモデルとの同一性が認められない場合がある。そういう場合になってくると、結局、同一とは認定しにくい、との指摘もありました。
――では、いろんな画像を集めて一人の人物を作り上げた場合は?
コラージュのやり方次第だと思います。例えば、Xという少女の裸体に他の児童の写真を合成、または絵を描き加えた場合、実在する児童と認識できない場合には、児童ポルノと指摘する必要はないでしょう、というのが裁判所の見解です。ただ、Xの児童の顔に、Bという別の児童の体を合成したものであっても、Bが実在する場合にはXではなく実在するBを描写したもので、児童ポルノに該当しうるのではないかと指摘していました。
また、児童の顔に成人女性の体を合成すると、児童の姿を描写していないので児童ポルノではありません。首から下が実在する児童であれば、児童ポルノに当たり“得る” としているのです。
――このような争点から裁判所はどのように考えたのでしょうか?
まず裁判所としては、そもそも検察が元となった写真(画像)に写っている児童が実在しているか否かを判断しています。実在する児童をCGで描かない限り、児童ポルノとはなり得ないためです。
出典不明の写真画像がハードディスクにあったというだけでは、裁判所は児童が実在することを認めていません。最近はカメラやコンピュータソフトの技術の向上があり、写真やデータを改変することがものすごく簡単になっているからです。そうなると、写真自体が改変されていることもあり得えるのです。結果的に写真集に写っている被写体以外は、そもそもモデルが実在するかどうかは分からないという前提で判断しています。
さらに、その年齢についてです。裁判所は、写真集のプロフィールなどに書かれている「●●才」というのは重視していません。正確な年齢を記載している根拠がなく、さらに写真集となると幼さを強調する内容になっていることも多く、サバを読んでいる可能性もあるからです。
検察官は、写真に写っている女性が18才未満かをいわゆる「タナー法」で立証しようとしました。タナー法は、性発達を評価する学問的な方法で、乳房の膨らみと乳輪の隆起具合、陰毛の濃さや広さから、1度から5度の5段階で発達ステージを定義して評価する研究手法です。5度だと成人女性である可能性が高くなると評価します。しかし、裁判所はこの認定方法の信頼性についても、かなり否定的な見方をしています。あくまで年齢的判定は統計的水準であって例外を認めないものではなく、さらにDNA鑑定ほど正確ではないからです。
裁判所は、本件において、タナー法での1~2度の写真は、一見して顔立ちが幼いとか、乳房や肩幅、骨格など全体が未成熟なので、18歳未満と判断できるとしています。裁判所は、被写体が実在し、かつ、その被写体が18歳未満であると認定し、しかも、被告がこれを参考にしたものと認定した写真(画像)とCGを比較した上で、CG34枚のうち3枚が児童ポルノに該当するとの判断をしています。
弁護団としては、この3枚も児童ポルノに当たらないと全面的に争っていくつもりで控訴しています。今回のインタビューにおける回答は、裁判所の判断の枠組みを解説しているのであって、妥当であると受け入れている訳ではありません。
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