シニア世代が地方から東京へと移り住む動きが続いている。昨年、他道府県から東京に移った65歳以上の人は1万5千人を超える。高齢者のニーズをつかもうと、高度成長期にできた古い団地を高齢者向け住宅に改築する取り組みも進む。
栃木県那須町に住んでいた落合美江(よしえ)さん(69)は昨年6月、かつて「東洋一のマンモス団地」といわれた高島平団地に移った。
20年前に夫・茂さんの定年退職をきっかけに共通の趣味のスキーを楽しもうと東京から那須町に移住した。敷地は100坪(約330平方メートル)。庭付き一戸建て、居間の薪ストーブで暖を取る。マンションでは考えられなかった暮らしを満喫していた。
だが、2007年に茂さんが他界。総合病院まで車で30分、ゴミ捨て場にも車で向かう生活。腰痛で1週間寝込んだ時「このままでは孤独死してしまう」と東京に戻ることを決めた。
住む部屋は、40年以上前に建てられた団地の空室を改築したサービス付き高齢者向け住宅。家賃は月9万7千円。地下鉄の駅、病院、スーパーは徒歩圏だ。
団地は高齢化が進み、65歳以上の住民が4割を超える。その分、高齢者が集まる会合や場所が多くある。
落合さんも、栃木では生かせなかった着物着付けの資格を使い、自宅で個人教室を開くようになった。「自然や広い家はなくなったけど、東京に戻ったら安心と趣味を生かせる場がある」。
団地を改築した高齢者向け住宅を運営するコミュニティネット広報室の村岡鮎香さんは「高齢者が多い団地なので、高齢者にとって住みやすい場所にもなっている」と話す。
50年以上前にできた東京都日野市の多摩平団地を改築したサービス付き高齢者向け住宅に住む余吾佳栄さん(90)。85歳の時、夫や兄弟が亡くなったため、愛知県から子どもがいる東京に移り、多摩平で一人暮らしを始めた。
足腰が弱く、散歩するには介助が必要だ。散歩の同行や軽作業など入居者同士がお金を支払って助け合う仕組みを通じ、高沢洋子さん(84)が付き添ってくれる。施設責任者の清水敦子さんは「地縁や血縁に変わる、ゆるやかなつながりが今の価値観に合わせて生まれつつある」と話す。
総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告によると、昨年、都外から東京に移り住んだ65歳以上の人は1万5561人と全国最多。大阪府に移った65歳以上の人の2倍に上る。ただ、東京は他県へ転出も多く65歳以上は2万人余りが転出した。
高齢者向け住宅だけでなく、都内の新築マンションも高齢者からの引き合いは強いという。大手不動産会社の都内販売担当者は「ファミリー向けやOL向けに売り出したマンションなのに、購入はシニア層が半数近くというのも珍しくない」と話す。リクルート住まいカンパニーの調査によると、首都圏のマンション購入者に占める60歳以上の割合は03年の2・5%から13年は3・9%に上昇した。
住宅情報誌「SUUMO」の池本洋一編集長は「昔と違って今の高齢者は家を守ることに縛られず、感性も若い。利便性や上京した子どもを頼るのは合理的な選択だ。今後もこの傾向は続くだろう」と分析する。
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