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Vol.03 「シンガポールが『スタートアップ天国』だなんて信じちゃダメ」 〜小林慎和「海外で起業する前に知っておきたかったこと」〜
Text by Noritaka Kobayashi
小林慎和 大阪大学大学院卒。野村総合研究所、グリーを経て、2012年に起業。現在、Diixi社とYourwifi社のCEOを務める。ビジネス・ブレークスルー大学准教授。シンガポール及びクアラルンプール在住。5月14日に『海外に飛び出す前に知っておきたかったこと』が発売予定。
ここ数年、経済成長も相まってシンガポールが注目を集めています。では、この国はアジアのシリコンバレーとなり得るのか。それについて、今回は考えてみたいと思います。
シンガポールでは1日で会社を設立することができます。登記はインターネットで1時間もあれば完了し、その足で銀行に行けばその場で法人口座の開設手続きが可能です。
それから5営業日ほど待てば、口座が開設されたとの連絡があり、資本金の入金ができるようになります。つまり1週間ほどあれば、すべての手続きが整うのです。
日本と違って社判も必要ありません。定款はいたってシンプルな内容で、日本のような厳密性は求められません。法人税は17%、日本の半分以下で済むのです。
シンガポールは東南アジアの中心です。インドも中国もシンガポールの情報をウォッチしています。つまり、シンガポールでビジネスを展開し、メディアなどで取り上げられた場合、またたく間に東南アジアと中国、インドに知れわたります。さらに言えば、ヨーロッパにもその情報は伝わりやすいのです。
飲食店の場合、1店舗目を開業して成功すれば、数ヵ月のうちにバンコクやジャカルタの飲食店事業者がフランチャイズをしたいとアプローチしてきます。私が経営するECサイトも、毎月のように、インドやヨーロッパ、そして中国からパートナーシップの打診が来ます。そのECサイトは開設してからまだ2年も経っていませんが、すでに10ヵ国のパートナーと取引をしています。
投資家も、世界中から集まって来ます。日本人投資家には興味が薄いビジネスでも、違う国の投資家にとっては、喉から手が出るほどほしいビジネスの場合があります。こうした多様な可能性を見出しやすいという点でも、シンガポールには大きなチャンスがあります。
また、シンガポール政府の優れた点の一つとして、動きが極めて速いことが挙げられます。2015年11月には、グーグルのVR端末「カードボード」を学校で活用することを決めました。これはアジア第1号で、良いと思ったらすぐに動くことの好例でしょう。
実は、私の会社「Yourwifi」が提供する出張者向けのポータブル・ルータについても、シンガポール政府はすぐに動きました。15年8月には、政府関係の全職員のすべての出張において、こうしたポータブル・ルータを活用するようにとの指示が出たのです。
Yourwifiはお陰様で、すべてのシンガポール政府機関の指定業者となり、対応させていただくことになりました。日本人が立ち上げた2年にも満たないスタートアップのサービスを、政府全職員の出張で利用する方針を決定したのです。こんな決定は日本の役所はできないでしょう。
非常にドライなビザ取得の基準
これだけ並べると、シンガポールは日本に比べてビジネスや起業に向いていると思われるかもしれません。一方で、シンガポールには次のような事業環境もあります。
日本人が起業(もしくは赴任)してビザを得るためには、マネジメントの場合は、700万〜1000万円程度の所得があると申告しなければビザがおりません。例えば、1000万円でビザ申請した場合の所得税は120万円ほどになります。
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