26日の衆院安保特別委員会では、安倍総理が出席して総括的集中質疑が行われ、岡田代表が民主党のトップバッターとして(1)安保法案で想定される「存立危機事態」をめぐる諸問題(2)日韓関係(3)どのような国を目指すのか――について安倍総理の見解をただした。

 岡田代表は質疑に入る前に、各種の世論調査では国民の8割が「政府の説明は不十分だ」と感じていることを指摘し、国会審議で大事なことは審議時間の多寡ではなく、「国民がどれだけ理解したかで(採決の)適否を決めるべきだ」と釘を刺した。これに対し安倍総理は、60年安保改定やPKO法案の審議などを引き合いに出し、「実施される中で理解される側面もある。議論を戦わせ、どこかの時点で議論が尽くされたという判断がなされれば、決めるときには決めることになる」と述べ、国民的理解が得られなくても採決しうるという考えを示した。

■存立危機事態の判断について

 岡田代表は、先般の党首討論でもテーマとして取り上げた「重要影響事態」(=米軍等に対する後方支援)と「存立危機事態」(=わが国自身の武力行使)の違いについて、「(日米安保条約に関わる記述を除けば)その判断基準はほとんど同じだ」と指摘し(資料1参照)、分かりやすく説明するよう求めた。

 安倍総理は「存立危機事態は重要影響事態に包含されるもの」とした上で、重要影響事態から存立危機事態と認定されるプロセスを以下のように説明した。

  1. わが国の近隣で武力紛争が差し迫っている状況で、米軍も事態の拡大を抑制し、その収拾を図るために活動をしている。わが国も重要影響事態法の下で対応措置を行っていたが、状況がさらに悪化し、わが国と密接な関係にある国(例えば米国)に対する武力攻撃が発生した。
  2. その時点では、わが国に対する武力攻撃が発生したとは認定されないものの、攻撃国はわが国をも射程に捉える相当数の弾道ミサイルを保有しており、その言動などからわが国に対する武力攻撃の発生が差し迫っている状況にある。
  3. 当該国の弾道ミサイル攻撃からわが国を守りこれに反撃する能力を持つ同盟国である米国への艦艇への武力攻撃を早急に止めずに、わが国に対する武力攻撃の発生を待って対処するのでは、弾道ミサイルによる第一撃によって取り返しのつかない甚大な被害を被ることになる明らかな危険がある。

 そこでさらに岡田代表は、「どの時点で存立危機事態を認定し、防衛出動するのか」と重ねてただし、安倍総理から、1.は重要影響事態として後方支援をする段階、2.は切迫事態として防衛出動が可能になる段階、3.が存立危機事態かどうかを判断する段階、とする旨の答弁を引き出した。この安倍総理の説明に対し岡田代表は「それでは間に合わないのでは」と疑問を投げかけ、引き続き議論が必要だとした。

岡田代表 パネル資料1

岡田代表 パネル資料1

■「必要最小限度の武力行使」の意味について

 岡田代表は武力行使の3要件(資料2参照)について、「第3要件の『必要最小限度の実力行使』は、第1要件にある状況を排除するためのものである」ことを確認した。その上で、政府が集団的自衛権の行使の例としてあげる「ホルムズ海峡での機雷掃海」を行う場合、第1要件を満たす状況を取り除くためであれば、仮にホルムズ海峡での戦闘行為が続いていても第3要件である必要最小限度の武力行使が法制上可能であり、その場合の「必要最小限度」とは「戦闘行為の排除行動をしながら機雷除去を行うこと」ではないかとただした。しかしこれに対しては、安倍総理も横畠法制局長官も論点をすり替え、明確な答弁はなかった。

岡田代表 パネル資料2

岡田代表 パネル資料2

■日韓関係について

 岡田代表は、今年が日韓国交正常化50周年に当たることから、かつての日本が朝鮮半島を植民地支配していたことについて総理の認識をただした。安倍総理は「歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」としながら、「戦前の日韓間の出来事については1965年の日韓基本条約で完全かつ最終的に決着しているものと認識している。基本的には歴史の個々の問題については歴史家に任せるべき」とし、総理自らの認識を明らかにしなかった。そこで岡田代表は、2010年に菅総理が韓国併合100年に際して発表した談話(資料3参照)を示し、これに対する認識をただした。安倍総理は「相手の国の立場に立って考えることは大切なことだが、同時にその時の世界史的な意味・状況等についても思索をめぐらしていくことも大切だ」とし、言外に菅談話には与しない姿勢を示した。

 これに対し、岡田代表は、菅談話が発表された当時、安倍総理が会長を務める「創生『日本』」の声明では「あまりに自虐的であり、日本国民と日本の歴史に対する重大な背信である」とコメントしていることを紹介。岡田代表は「本当に残念だった。いろんな苦労をして日韓関係を何とか良くしていこうとやっているときに、こういう言葉を投げつけられた。歴代総理大臣が日韓関係を何とか良くしようという努力をしてきても、有力な政治家がそれを否定するような発言を繰り返すことで、そのことが無に帰してきた。安倍総理も過去にそういう発言をした」と反省を促したが、安倍総理は反省するどころか「(関係改善には日韓双方の)お互いの努力も必要だ。主張もせずに国益を削っていけばいいというものではない」と開き直った。岡田代表は、70年談話によって近隣諸国との関係を悪化させることがないようにと忠告した。

岡田代表 パネル資料3

岡田代表 パネル資料3

■どういう国を目指すのか

 岡田代表は、戦後70年間にわたって日本が平和を保ってきた背景には憲法9条の存在があったこと、仮に9条がなければ、ベトナム戦争やイラク戦争の際に米国から武力行使の要請があった可能性は高かったとの認識を示し、「米国は大事な国だが、強い国だ。国民の中には(武力行使が)できるとなった時に、米国からの要請があったら断り切れないのではないかという漠然とした不安がある」と指摘した。また、「戦後の日本に対する高い評価は『武力行使をしない』ということにもあった。それを変えてしまうことで、日本に対する評価をも変えてしまうのではないか」と懸念を示した。

 さらに、自民党の憲法改正草案について「『自衛権を持つ』と書いてあるが何の限定も付いていない。自民党が目指す日本は、制限のない集団的自衛権の行使ができる国、つまり『普通の国』を目指している」と断じた。その上で「われわれは違う。海外での武力行使は抑制的に考え、今の憲法の平和主義を守り抜いていく」「憲法の平和主義を守り抜いていくという私たちの立場と、『普通の国』を目指す自由民主党の立場と、やがて進む方向はそのどちらなのかということを視野に入れて議論されている問題だ。国民の皆さんから見て、どちらの道を選ぶのかということが、今問われている」ととして質問を締めくくった。