高所得者の多いソウル・江南に暮らすワーキングマザーのAさん(38)は、娘(6)を月180万ウォン(約17万円)の「英語幼稚園」に通わせているが、その経済的、心理的負担に押しつぶされそうになるという。「たかだか6歳の子どもを対象に実力別のクラス編成をする算数塾、英語幼稚園に入れるための家庭教師が繁盛している。こんな狂ったような競争に子どもが耐えられるだろうか」と、不安を口にする。
Aさんの心配は杞憂(きゆう)ではない。韓国保健福祉部(省に相当)によると、2013年の児童実態調査で韓国の児童・青少年の「生活満足度」は100点満点中60.3点と、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国のうち最下位だった。1位のオランダ(94.2点)を大きく下回っただけでなく、下から2番目のルーマニア(76.6点)とも16点以上差があった。
延世大・社会発展研究所のヨム・ユシク教授チームが先ごろ公表した「2016年児童・青少年幸福指数の国際比較」でも、韓国の子どもの「主観的幸福指数」は調査対象のOECD加盟22カ国のうち最下位だった。OECD平均を100点とすると、韓国は82点、1位のスペインは118点だった。
こうした状況を改善するため、韓国政府は2日「児童権利憲章」を宣布した。1991年に政府が批准した国連の「児童の権利に関する条約」を韓国の実情に合わせて整理したものだ。ソウル郊外の仁川市で昨年末、体重16キロしかない11歳女児が虐待に耐えかね監禁されていた自宅を脱出する事件が起きたことを機に、親による児童虐待事件が相次いで発覚したことも、政府を憲章の制定に向かわせた。英国は児童の自尊心と安全、カナダは児童の創意力と想像力に言及した児童権利憲章をそれぞれ設けている。
韓国政府が制定した児童権利憲章は9条項からなる。子どもの潜在力の発現を保障する「表現の自由」、安全・健康のための「虐待・放任・暴力・搾取から保護される権利」、犯罪予防のための「私生活保護」、自己決定権と生活の質に関わる「知る権利」などを定めている。
制定に関わったファン・オッキョン韓国児童権利学会長(ソウル神学大教授)は「『訓育』という美名の下で、子どもたちが両親により生命を脅かされている児童人権後進国で、児童も人格を持った人間であることを明言しただけでも大きな意味がある」と評価している。
憲章は「遊ぶ権利」も明記している。ファン会長は「遊びは失敗や挫折を乗り越えて民主的な市民に育っていく上で最も良いもの。本当の遊びというのは子どもが自ら選び、行動するものだ」と説明する。
専門家らはこの憲章について、学校や非政府組織(NGO)は子どもに権利意識を持たせるための教範として、大学や軍隊は将来の親たちに子どもとはどういう存在であるかを教えるツールとして、積極的に活用すべきだと助言している。