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2012年4月10日10時43分
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官房機密費を一部開示しても政府活動に支障なし/佐藤優

写真:佐藤優(作家、元外務省主任分析官)拡大佐藤優(作家、元外務省主任分析官)

 3月23日、大阪地方裁判所(山田明裁判長)は、市民団体が内閣官房報償費(いわゆる機密費。本稿ではマスメディアの通称に従い、機密費と記す)の一部開示が適当であるという判決を言い渡した。朝日新聞の報道を引用しておく。

<官房機密費「一部開示を」 大阪地裁、初の司法判断

 大阪の市民団体が内閣官房報償費(官房機密費)の使い道を明らかにするよう求めた訴訟の判決が23日午後、大阪地裁であった。山田明裁判長は「具体的な使途や相手方がわかる恐れはない」とし、金額などは部分的に開示されるべきだと判断。国の非開示処分を取り消した。これまで全く公開されていない官房機密費の開示を認めた初の司法判断で、将来的な公開に向けた政府の検討作業に影響を与えるとみられる。

 原告は「政治資金オンブズマン」のメンバー。安倍晋三・元首相が官房長官だった2005〜06年に支出された約11億円の「政策推進費」「調査情報対策費」「活動関係費」の支出先や個別の金額、時期が記された(1)政策推進費受払簿〈26枚〉(2)支払決定書〈37枚〉(3)内閣官房報償費出納管理簿〈12枚〉(4)報償費支払明細書〈12枚〉(5)領収書〈686枚〉――の開示を求めていた。 

 判決はこのうち、支出先が記されていない政策推進費受払簿と報償費支払明細書のそれぞれ全部と、内閣官房報償費出納管理簿の一部について開示すべきだと判断した。政策推進費は政策を円滑に進めるため、官房長官の判断で機動的に使われる資金。

 原告側は「機密費が野党対策や政治家の資金集めパーティーの費用、飲食費、背広代などに充てられている疑いがある」として、06年10月に開示を請求。非開示処分を受け、情報公開法の趣旨に基づいて「行政の事業・事務に支障を及ぼしたり、国の安全を害したりする文書以外は開示されるべきだ」と主張し、07年5月に提訴していた。 

 これに対し、国は請求を退けるよう主張。原告側の「国が保秘しなければならないとする支出先や使い道を黒塗りにしたうえで、金額や支出時期を部分開示することはできるはずだ」との求めについては、証人出廷した元内閣総務官の千代幹也(ちしろ・みきや)氏(59)=現・内閣広報官=の証言などを踏まえて「時期や金額から支出先や使い道が推測でき、相手の協力が得られなくなる」と反論していた。 

 06年2月には、東京地裁が外交機密費の使途の大部分について開示すべきだとの判断を示したが、08年1月の東京高裁判決は「相手国との信頼関係を損ね、外交に支障が出る」として地裁判決を変更。ほぼ全てが非開示とされるべきだとする高裁判決が確定している。(岡本玄)

                        ◇ 

 〈内閣官房報償費(官房機密費)〉 内閣の事務や事業を円滑・効果的に進めるため、官房長官の裁量で自由に使えるとされる。年約12億円前後が支出されているが、使途は公開されていない。小渕内閣で官房長官を務めた野中広務氏が2010年、野党議員や政治評論家に配ったと発言。藤村修官房長官は昨年9月、将来的な公開を検討する考えを示した。>(3月23日、朝日新聞デジタル)

 国は、この判決を不服として、控訴した。

 筆者は、大阪地裁の一部開示に関する判決は、妥当で、この判決を不服として国が控訴したことは間違いと考える。

 筆者自身、外務官僚だった時期に、官房機密費ならびに外務省が所管する外交報償費(外交機密費)を用いて仕事をした経験がある。外務省で、外交機密費を用いて、仕事をした経験を持つ外務官僚は少なからずいる。筆者が現役だった頃、局長(部長)には、月50万円の外交機密費が自動的に割り当てられた。その金は局長だけでなく、部下も使うことができる。

 また、ワシントン、北京、モスクワなどの日本大使館には、潤沢な機密費が割り当てられている。それにもかかわらず、官房機密費を筆者はどうして使うことになったのだろうか。それは、官房機密費が、外交機密費と比較して、はるかに使い勝手がいい「機密費の王様」だからである。

 外交機密費に関しては、領収書が必要とされない「掴み金」という印象があるが、実際はそうではない。原則として領収書が必要とされ、事前に決裁書で外交機密費を使用する決裁を上司から取らなくてはならない。

 ちなみに外務省で、外交機密費に関する情報を一括管理しているのは、外務大臣官房会計課審査室である。かつて、田中真紀子氏が外務大臣をつとめていたときに審査室に乗り込んで、外交機密費関連資料を提示しろと要求し、大騒ぎになった(外務官僚は、あれこれ理由をつけて開示しなかった)。あのとき、外務省で外交機密費の内情について知る人々は、「誰が田中外相に審査室の秘密を漏らしたのか」と頭を抱えていた。

 領収書なしで、外交機密費を支出することも、内規上は認められているが、実際にそういうことはきわめて例外的な場合にしか行われない。筆者自身が知る例は、モスクワの日本大使が行った1件だけだ。これは、明らかに現地の法令に違反する工作だった。しかし、このときも外交機密費支出に関する決裁書は作成されていたので、この書類が何者かに入手されることになれば、情報源を守ることはできなかった。

 外務官僚は、常に自己保身の原理で動いている。仮に部下が、外交機密費を横領や詐取することがあった場合、責任を追及されることを恐れて、常に領収書や証拠書類を準備して、自分の身を守る習性が外務官僚にはついている。それだから、外交機密費は、情報源の買収や、秘密接触のための部屋を確保するなどの秘密工作には、使いにくいのである。

 それだから、現場の外交官は、さまざまな工夫をする。領収書の偽造や、決裁書に別の名前を記載した虚偽公文書を作成することだ。もちろんこのような行為が不正であるということを情報や工作を担当する外務官僚は認識している。しかし、安全に仕事を行うためには、不正が不可欠なのである。

 外務官僚が、情報公開を恐れる理由は、このような構造的要因による不正が表に出て、責任(状況によっては刑事責任に発展しうる)を追及されることを恐れるからだ。この種の工作を、機密費あるいは、それに類似した金をもつ官僚組織はどこも行っている。それだから機密費に関する情報開示に対して、官僚は徹底的に抵抗するのである。

 筆者が知る限り、諸外国の外務省も外交機密費に相当する金を持っているが、民主主義国の場合、使い勝手は日本外務省同様によくないようだ。官僚組織の自己保身の文化は、国境を越えるのである。

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