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【社説】

こどもの日に考える それが希望 推進力だ

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 こいのぼりを眺めていると、子どもたちに風を送ってあげなければと思います。だが待てよ。子どもは風の子。大人を泳がす追い風なのではないかしら。

 名古屋駅西に活動の拠点を置く芸能プロデューサー、中村浩一さん(48)には、夢がある。

 「芸能文化の地域主権」

 中村さんは考えます。日本の芸能文化は、政治や経済以上に東京に一極集中し過ぎている。まるで、殿様と家来のような関係です。

 ご当地アイドル花盛りとはいうものの、結局いつかは上京したい、芸能界=東京なんだと、誰もが思い詰めています。

 中村さんは、テレビのローカル番組で学生リポーターを経験し、「キラキラと楽しい」芸能界に十九歳で足を踏み入れました。

 卒業後は広告会社や出版社にも身を置きながら、芸能プロデューサーとして、アイドルの発掘、育成、売り込みなどを続けてきた。

 ところが次第に、ギョーカイの闇も見えてきた。

 上京した美少女が、すっかりやつれてひっそり戻る。うつ病の果てに自殺に至ったケースもありました。

 東京に踏みとどまるために、際どい水着のグラビアやAVまがいの仕事をいやいや受ける。とどのつまりは使い捨て…。そうじゃない世界をつくりたい。

 今の時代“三種の神器(ブログ、ツイッター、ユーチューブ)”を駆使すれば、“ナゴヤ発信”は十分可能。まずはご当地アイドルのレベルをぐんと引き上げよう。

 地元にいたまま活動できて、リスクを冒さず、家賃もいらず、ステージやけいこを終えて家へ帰って、家族と一緒にご飯を食べて、「今日はどうだった」「うん、がんばってるよ」と日常会話ができるアイドル−。それを、何としてでも成し遂げたい。

◆輝いた季節のあとで

 そんな思いで六年前、名古屋市大須商店街がジモトのアイドルユニット「OS☆U」をプロデュース。そして今は駅西で、二〇一二年結成の「dela(デラ)」=写真=を手がけている。

 中一から二十三歳までの十八人、全員自宅通勤です。

 中村さんはもう一つ、自らに課題を与えています。アイドルの“卒業生”をどうするか。

 ラグビー歴三十年の中村さんは、delaをラグビーチームになぞらえます。“One for all、All for one(ひとりはみんなのために みんなはひとりのために)”の精神を、歌や踊り以上に重んじます。

 リーダーならぬキャプテンを先頭に、あいさつ、自己表現、そしてチームワークを徹底します。

 ♪振り向けば十四人の友がいる…。「15(Fifteen)」。中村さんが作詞したdelaの持ち歌です。

 キラキラと輝く季節を終えて、就職しても、お嫁に行っても、起業をしても必ず役に立つように。

 ある日のこと、中村さんは、かつてのメンバーの父親から、呼び出しを受けました。当時高校二年の娘をアイドルにすることに猛反対した人でした。

 恐る恐る出かけて行った鉄板焼きの店。父親は言いました。

 「ありがとう。君は娘を二年早く大人にしてくれた」

 中村さんの見果てぬ夢は、いつかかなうかもしれません。

 三月で終了したNHK朝の連ドラ「あさが来た」。今アイドル界の頂点に輝くAKB48の主題歌「365日の紙飛行機」も大ヒットになりました。

 はじめは不思議でしかたなかった。自立する女性の物語のはずなのに、なぜ<人生は紙飛行機>なんだろう。紙飛行機は思い通りに飛べません。

 でも、しばらく聞いているうちに、何となく疑問が解けてきた。

 歌の後半に<それが希望 推進力だ>という歌詞が出てきます。

◆思い通りにならない日は

 思い通りにならない人生だからこそ、推進力が必要です。

 独り立ちと独りぼっちは違います。誰かに背中を押してもらって、紙飛行機は力いっぱい、飛べるところまで飛べばいい。

 こどもの日、大人は子どもの推進力に…と思いきや、子どもこそ、大人の<希望 推進力>ではないですか。

 見上げれば、五月の風にこいのぼり。大きい真鯉(まごい)も小さい緋鯉(ひごい)も、気持ちよさげに飛んでいます。

 

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