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「東大生の親」は我が子だけに富を“密輸”する

武蔵野大学、杏林大学兼任講師 舞田敏彦=文

東大生は「富裕層に著しく偏している」

日本の大学の学費が「バカ高」なのは、よく知られています。

今や国立でも年間授業料は50万円超、私立では設備費なども合わせると年間100万円を超えるのが普通です。下宿生となると家賃などもかかりますから、家庭の費用負担はもっと大きくなります。

こういう事情もあってか、大学生の家庭には富裕層が多くなっています。

大学生の24.4%(4人に1人)が、年収1000万以上の家庭の子弟です(日本学生支援機構『学生生活調査』2014年度)。この値は私立では24.2%、国立では27.0%となります。平均年収は、私立が826万円、国立が839万円です。大学生くらいの子がいる世帯全体に比して、明らかに高くなっています。

学費が安い国立大生の家庭の年収が高くなっていますが、国立大学は入試の難易度が高く、幼少期より多額の教育投資(塾通いなど)が求められるためと思われます。

国立大学の中でも難関を極めているのが東京大学ですが、この最高学府の学生(約1万3000人)の出自はどうなっているのでしょう。

家庭の年収分布は如何。パンドラの箱を開けるようでちょっと怖いですが、データをみてみましょう。

資料は、2014年度の『東京大学学生生活実態調査』です。同大学の学部学生に、家庭の年収を尋ねた結果が掲載されています。東大生の特徴を知るために、大学生くらいの子がいる世帯全体(一般群)の年収分布との対比もしましょう。

図1は、両群の年収分布を帯グラフにしたものです。年収階級の区切りがやや不自然ですが、東大調査の区分に合わせていることを申し添えます。



むうう。2つの群の違いが火を見るより明らかです。

東大生の家庭では年収950万超が54.8%を占めています。一般群では22.0%でしかないことを考慮すると、東大生は富裕層に著しく偏しているといえます。逆をみると、年収350万未満の低収入層は一般群では24.5%ですが、東大生では8.7%しかいません。

東大生の父親の73.2%は管理職・専門技術職

東大生の家庭の年収分布が一般群と大きく隔たっていること、富裕層に著しく偏っていることが分かりました。まあ巷でよく言われることですが、グラフで見てしまうと唖然とするものがあります。ちなみに東大生の父親の73.2%は管理職・専門技術職で、こちらも一般群と大きく乖離しています。

社会の指導者予備軍の階層構成が、国民全体と大きく異なっているということです。私は、両者はなるべく近似するのが望ましく、政治家の何%かは層化抽出(くじ引き)で選んだらどうかと考えていますが、図1をご覧になって皆さんはどう思われたでしょうか。

それはさておき、東大生に富裕層が多いのは、幼少期より多額の教育投資が求められるためでしょう。ちょっと古いですが、2013年春の東大・京大合格者の半分は、国・私立高校の出身者です(拙稿「子供の学力より経済力が学歴を決めるという真実」『プレジデント・ファミリー』2014年5月号)。

国・私立高校の出身者は高卒者全体の3割であることを考えると、最高学府の合格者輩出率は、公立よりも国・私立高校で明らかに高いといえます。多くが、(小)中高一貫の私立です。

言わずもがな、これらの学校に通うには多額の費用がかかります。早期受験が盛んになっていますが、小・中学生の家庭の年収分布を公立と私立で比べると、図2のようになります。



私立中では52.9%、私立小では実に61.2%が、年収1000万以上の家庭の子弟です。スゴイですねえ。奇しくも、図1でみた東大生の家庭の年収分布と近似しています。

富裕層は、子を早いうちから私立校に入れ、有力大学に送り込む。そしてやがては、高い社会的地位につかせる。業績主義を建前とする現代社会にあっても、親から子への富(地位)の「密輸」があることに、われわれは気づかないといけません。早期受験(お受験)は、そのツールとして機能している面もあります。

こう書くと、裕福な家庭の子どもは、親の経済力だけで有力大学に入っているように思われそうですが、そうではありません。彼らは、試験でも高いアチーブメントを収めています。親がカネをかけて塾通いさせたり、家庭教師をつけたりしているからだろう、と言われるかもしれませんが、それだけではありません。そうした経済条件とは別に、家庭の文化環境の影響も考えられます。

東大生の親は、富と文化の「わが子に再生産」する

たとえば、学校で教えられる(抽象的な)教科内容に親しみやすいのは、どういう家庭の子どもか。おそらく、家にたくさん本があり、幼い頃からそれに慣れ親しんできた子どもでしょう。

家庭の文化的環境の影響は、芸術系の教科ではハッキリ出ると思われます。

小学校の図画工作科の内容に、「我が国や諸外国の親しみのある美術作品、暮らしの中の作品などを鑑賞して、よさや美しさを感じ取ること」(学習指導要領)とありますが、美術作品の「よさや美しさを感じ取ること」など、育ちの悪い私にはなかなかできそうにありません(事実、そうでした)。

親が芸術好きで、美術館に連れて行ってもらう頻度が高い子どもが有利でしょう。文化資本が多い(上流)家庭の子どもは、学校での教授内容に親しみやすく、高いアチーブメントを収め、やがては高い社会的地位につく。

こうした文化資本を媒介にした、親から子への地位の再生産過程を、ピエール・ブルデュー(フランスの社会学者)は「文化的再生産」と呼んだのでした。

これは、階級社会のヨーロッパで明らかにされた現象ですが、日本でそれがないとは限りません。図3にみるように、小学生の文化的行動の多寡は、家庭の年収ときれいに相関しています。



2013年度の『全国学力・学習状況調査』の特別集計で、年収が高い家庭の児童・生徒ほど、教科の正答率が高い傾向が明らかになりました。家庭の経済力のみならず、文化資本の影響も被っている可能性が大です。

東大生の家庭の年収分布から話が広がってしまいましたが、

(1)現代日本でも、親から子への富の「密輸」があること
(2)教育格差の是正にあたっては、経済面での支援(通塾費の補助……)だけでは十分でないこと

の2点を強調したいと思います。

後者は、学校の特別活動をもっと充実させ、すべての子どもに幅広い体験を提供すべし、という提言につながります。人物重視の方向に大学入試を改革する動きが出ていますが、そうなると、家庭による文化格差・体験格差の影響が色濃くなるでしょう(面接での立ち振る舞いや話題の豊富さなどが評価されるわけですから)。

入試改革と連動して、カリキュラムの変革もされねばならないことは、指摘するまでもありません。

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