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【コラム】

筆洗

 <わたしのつくるたまどめが/おおきすぎるといって/ひとにわらわれたことがありました/わたしがぬいものをすると/どんなにあらいざらして/ぼろぼろになっても/たまどめはのこります>▼これは、島根に住む高橋留理子さん(65)の詩。高橋さんが今春、初めて出した詩集『たまどめ』(コールサック社)に収められている。世が世なら、と詩人はうたう。きっと私は、千人針を縫うのが上手だったでしょう、と▼戦争中、戦地に赴く夫や兄弟、息子たちのため女性たちは街角に立ち、布地に赤い糸で一人一針縫っては、玉結びをしてもらった。それが愛する人たちの身を守ってくれるはずと願ってのことだ▼しかし、あまりにも多くの命が戦場で散った。高橋さんの母の最初の結婚相手も、そんな一人だった。生後七カ月の息子を残し、フィリピンのルソン島で死んでしまったのだ▼悲劇は決して繰り返すまい。もう二度と戦争はすまい。六十九年前の五月三日に施行された憲法は、そういう誓いが結実した「大きな大きな、たまどめ」ではなかったのか▼高橋さんの詩は、こう結ばれている。<「おおきなたまどめは/しんぱいしょうのあかし…」/ひとはわたしをそういってわらいました/つくろいものをするとき/つい おおきなたまどめをつくっては/わたしのこころは/かなしみにふるえずにはいないのです>

 

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