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【言わねばならないこと】

(72)政権に「沈黙」 未来を縛る  メディア法研究者・服部孝章さん

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 高市早苗総務相が今年二月の国会で、放送局が「政治的に公平であること」と定めた放送法に違反する行為を繰り返した場合、電波停止を命じる可能性に言及した。

 安倍晋三首相は二〇一四年七月、憲法解釈を変え、集団的自衛権の行使を認める閣議決定をしている。高市総務相の発言は、これから改憲勢力が国会の三分の二以上の議席を確保して、憲法を変えるための前段として、テレビ局に向けられたものだと思っている。

 首相は、この閣議決定の年の十一月に衆院を解散した。その前日に自民党は在京テレビ各局に「選挙時期に公平中立な報道」を文書で要求。出演者の発言回数、時間、街頭インタビューの人選に至るまで「公平公正」を求めた。

 当時、テレビ各局は、自民党の筆頭副幹事長が差出人となっているこの文書を渡された事実を報道しなかった。新聞が報道したのは一週間後だった。この対応は、テレビ局が自民党の思惑に乗ってしまったといえる。この文書は、政権が放送を自分たちのものにしていこうという意味で、大きな第一歩だった。この場合、テレビ局の沈黙は改憲への露払いであり、自らの未来をも縛るものだ。

 高市総務相は、国会で電波停止を命じる基準の一つとして「放送が公益を害し将来に向けて阻止が必要」を挙げているが、公益って誰が判断するのか。明らかに人によって違う。「再発防止」も挙げているが、そういう時のために放送倫理・番組向上機構(BPO)が第三者機関としてできたのではないか。今、そのBPOさえ法的機関にしてしまえという考え方がある。

 放送局は電波という公的資源を独占排他的に使っている免許事業者。市民全体からの負託を受けている以上、沈黙を恥じ、言うべきことは発言していくべきだ。

<はっとり・たかあき> 1950年生まれ。立教大名誉教授。専門はメディア情報法。ジャーナリズムと法の問題を研究している。

 

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