サッカーの母国、そして世界最高峰のプロリーグで奇跡が起きた。資金力が順位を左右してきた「常識」をはね返し、低予算の降格候補が優勝した。苦労人集団の戴冠は世界に勇気と希望を与える。
まるで映画のストーリーのようだ。世界中で十億人以上がテレビ視聴し、プロスポーツ界で人気、実力ともに頂点といわれるイングランド・プレミアリーグ。優勝するのは資金力豊かな四、五のビッグクラブと相場は決まっていた。それが創設百三十三年目、古豪だが優勝経験のないレスターという弱小クラブが世紀の大番狂わせを演じたのである。
世界中で称賛の嵐だが、とりわけ所属している日本代表、岡崎慎司選手の活躍が誇らしい。
レスターは昨季、最下位をさまよい辛うじて残留を果たした。急激に強くなったのは大金を使って補強したからではない。選手の多くは各国の下部リーグなど日の当たらないところにいた苦労人だ。
大活躍した点取り屋のバーディー選手は数年前は英8部にいて、そこからはい上がった。選手協会選出の年間最優秀選手に決まったマレズ選手やカンテ選手はフランスのリーグで無名の存在だった。
今季最も高額の移籍金は、ドイツで活躍した岡崎選手の約十一億円だった。補強に要する金額や年俸総額はビッグクラブの十分の一以下。いわば低予算の雑草集団である。英BBCは、躍進の最大の秘訣(ひけつ)を可能性ある選手を発掘したスカウトの力と分析した。
体格にも恵まれない彼らは、守っては泥くさくボールを追い回し、体を張り続けた。攻めては一発必中のシンプルな速攻と変幻自在の組織プレーで常勝クラブを負かしていった。「いずれ勢いは止まる」との予想を覆し、代わりに快進撃を後押しする声援が世界中に広まった。
彼らの偉業は、金満クラブが隆盛のプロスポーツ界に一石を投じた。中東やロシアのオイルマネーなど巨額の資金が移籍金や年俸を高騰させ、放映権や広告収入も増大の一途だ。
一方で、社会は格差拡大や失業・貧困への不満が渦巻いている。そんな時世だけに、無名軍団の躍進は爽やかで、カネがすべてではないんだと痛快さも味わわせてくれた。スポーツの原点回帰である。
そして岡崎選手。日本のエースも移籍一年目は出番が一時減るなど苦しんだ。それでも体づくりから励み努力で定位置をつかんだ。彼もまた最高の苦労人である。
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