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普及率4% 待ち時間長く、渋滞危惧

歩車分離信号が設置されている「中央警察署入口」交差点。歩行者は曲がりきれず交差点に残った車の間を歩いていた=福岡市中央区天神で2016年3月26日、須賀川理撮影

 歩行者が交差点を横断中、車が横断歩道を横切らないよう制御する「歩車分離信号」の普及が、全信号の約4%にとどまっていることが警察庁のまとめで分かった。待ち時間の長さや横断時間の短さ、「渋滞を引き起こすのではないか」と危惧する声などが背景にあるとみられる。導入された場所で事故が激減したとの調査結果もあり、専門家は効果的な設置を提言する。【吉川雄策、山本太一】

 福岡市中央区天神1の「中央警察署入口」のスクランブル式交差点。歩行者側信号が青になると、同市の女性(80)は横断歩道を渡り、「車を気にせず安心して渡れた。安全な交差点がもっと増えてほしい」。その傍らで、つえをついた男性(77)は不満そうな表情だ。青信号に変わったのと同時に歩き始めたが、渡りきる2秒前に赤信号に変わり「せかされている感じ。高齢化が進んでおり、横断時間を長くしてほしい」と話す。

 通常、交差点の信号は南北方向が赤なら、東西方向は青の「2分割」だ。しかし、歩車分離信号は車を両方向とも停止させ「歩行者専用」の第3の時間帯が加わるため、待ち時間が長くなり、横断時間が短くなる。

 警察庁によると、2003年3月、全信号機約18万5000基のうち2381基(1.2%)だった歩車分離信号は、15年3月に全約20万7000基中8499基(4.1%)になった。繁華街だけでなく、学校や病院前など交通弱者の多い場所で設置が進むが、普及しているとは言い難い。

 九州、山口、沖縄でも同様だ。このうち、設置数が最多なのは福岡県の338基。しかし設置率は全国平均を下回る3.3%だ。県警交通規制課は「車の円滑な通行と歩行者の安全確保の両立で苦労している」と語る。ただ「以前よりは、事故減少のメリットが伝わり、設置を求める声が増えている」としており、「幹線道路だけでなく生活道路にも設置したい」と話す。

 52基と九州、山口、沖縄で最も少ない佐賀県。県警交通規制課は「設置を進めたい」と語る一方で「佐賀県は九州の中でも車の保有率が高い車社会。歩行者の安全と同時に円滑な交通の確保も図る必要がある」と述べた。

 歩車分離信号は、青信号の交差点を横断中に左折中の大型車に巻き込まれる事故(1992年)で長男(当時11歳)を亡くした市民団体「命と安全を守る歩車分離信号普及全国連絡会」(東京都八王子市)の長谷智喜(ともき)会長(62)らが普及を呼びかけてきた。

 警察庁によると、歩行者が車に巻き込まれる事故が124件起きた交差点に、歩車分離信号を設置したところ翌年度は約7割減の35件に激減したという調査結果がある。長谷会長は「人の命を最優先して普及を進めてほしい」と話した。

専門家「事故減少、増設を」

 歩車分離信号は渋滞を引き起こすのか? 専門家によると、単純にそうとは言い切れない。

 追手門学院大の藤本忠明名誉教授(交通心理学)によると、1カ所だけ歩車分離信号にした場合は渋滞が起きやすい。他の信号とタイミングが合わないからだ。一方、周辺の信号も歩車分離信号にし、タイミングを適切に設定すれば、一定の範囲を車が同時に流れるため、渋滞は起こりにくい。欧州では歩車分離信号が大半で、ストレスを訴えるドライバーはほとんどいないという。

 藤本名誉教授は「事故を減少させる効果が大きい。歩車分離信号を増やすべきだ。横断時間が短い問題については、交通弱者用の押しボタン信号機を設置し、押された時だけ横断時間を長くすれば解決できる」と話した。

 【ことば】歩車分離信号

 歩行者と車の通行できるタイミングを別々にし、両者が交差点で交わるのを避ける信号。全方向の車を停止させる間に歩行者が斜めにも横断できる「スクランブル式」や、斜め横断はできない「歩行者専用式」などがある。自転車の時は原則、車両用信号に従うが、交差点周辺の歩道に「自転車通行可」の標識がある場合、歩行者用の信号を利用する。

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